※6月の三者面談と、その後のエイルノン達①
三者面談とは、イヴの前世の日本の世界の中学校、高校と呼ばれる教育機関で行われる行事の内の一つだ。三者面談は主に学期末に行われることが多く、その内容は学校側の人間である教師と学校に在籍している生徒と、その生徒の保護者が学校の一室を使い、その生徒についての学校での様子や学習態度等を教師が保護者に伝え、保護者は家での子どもの様子や生活習慣や学習態度等を教師に伝え、その後、今後の生徒の生活や勉強について、当事者である生徒を交え、三者で話し合うというものだ。
この行事は学校の成績や素行があまり良くないと自覚している子どもにとっては憂鬱な気持ちになる行事であり、また学校の成績や素行が良い子どもでも、教師が保護者に何を話すのだろうかと少し不安な気持ちに駆られてしまう行事だったので、多くの生徒にとっては大事な行事であるとわかってはいるものの、あまり……好ましくない行事であった。
一方、子どもの保護者としての立場から言えば、普段仕事で忙しく、あまり子どもとゆっくり関わりを持つことが出来ていないと自覚している保護者にとって……、また家にいる時間が長くても、子どもが大きく成長してからは、学校のことや友達とのことを子どもが話してくれなくなったと寂しく思っている保護者にとっては、この三者面談という行事は、保護者の知らない学校での子どもの様子を知ることが出来る絶好の機会だったので、保護者にとっては、この行事はとても貴重ですごく重要で、何よりも大事な行事であった。
……また教育者にとって三者面談とは、学校生活ではけしてわからない、その生徒の日常生活や家庭での様子を子どもを育てている保護者から直接話が聴ける絶好の機会であると共に、その生徒の今後の指導について、いかに保護者の理解と家庭での協力を得られるのかが重要となるために……教育者の交渉の腕が問われる、とても重要で緊張を強いられる行事であった。
イヴとミグシスがエイルノン達4人の攻略対象者と初めて出会った次の日の午前9時から、その三者面談は学院のある場所で行われた。その場所は”僕はイベリスに永遠の愛を誓う”というゲームにおいて、名前は一度だけ出てくるが実際には使われていないと、サポートキャラクターのルナーベルに説明されていた場所で、実際のゲームでも、その場所のスチルは一枚も存在しない場所だった。
だから、その場所は物語の中にありながら……治外法権的な場所となっていて、物語には影響が出ないのだと、その二人組が言ったために、その集団は二人組に、そこに二人の保護者を呼び出すようにと要請した。
その三者面談は4人の先生と二人組と二人組の保護者……二人の父親を交え、行われた。4人の先生のウチの一人……”仮面の先生”として学院に出演しているセデスが、初めに口を開いた。
「本日はお忙しいところ、ご足労いただきありがとうございます。では早速ですが三者面談を始めさせていただきます」
セデスがそう言うと二人の父親……二人に父神と呼ばれている、この世界の創造神は無言で頷いた。
「まず創造神様に最初に確認したいことがございます。あなた様はご自分が創造した世界に、あなた様の息子である三人の兄弟神にそれぞれ一つだけ、物語を再現することを許したそうですね?」
セデスの問いに淡いピンク色の髪を持つ、とても美しい美丈夫が低く落ち着いた声で話し始めた。
「ああ、そうだよ。三人の息子達は神として生まれたのに、世界の創造の仕事が……あまり上手ではなくてね。世界を創造する端から滅亡させていたから、私は困り果ててしまってね。息子達の修業先の教師に、『お宅の息子さん達は世界を創造するために必要な想像力や、世界に対する愛着心がないので、ご家庭で自習を頑張ってさせて下さい』と、家庭訪問の時に言われてしまったんだ。
だから仕方なく私が作った世界の一つに、息子達が大好きな物語を再現させることを思いついたんだ。だって大好きな物語ならば愛着も湧くだろうし、滅亡しないようにとやる気が出て頑張るだろうから、きっと良い自習になると考えたんだよ」
父神はそう言うと、息子達と交わした決まり事についても語り始めた。
「だからといって、この世界を息子達の好きにさせて実際に滅亡させるわけにはいかないから、私はいくつかの決まり事を設けたんだ。一人の神が持ち込んで良いのは、一つの物語だけ。神が物語に干渉して良いのは一度だけ。神は自分が見たい物語のハッピーエンドを見終わったら、”英雄”の望む”英雄のご褒美”を一つ与え、その後は世界には干渉せずに、見守る者となる。
この決まり事は世界を滅亡させてばかりの息子達には、一つ以上の物語の再現は荷が重いことを考慮し、神が下界に何度も干渉することは世界にとって、余計な負荷をかけてしまうことになるから、それを防ぐために設けたものなんだ。残りの決まり事の息子達の都合で魂の召還転生させてしまった”英雄”に対しての礼をきちんとすることや、全てが終わってから見守ることを決まりに入れたのも、息子達に世界に愛着を……その世界や、そこに生きる生き物全てに愛を持ってほしいと私は思ったからなんだよ」
父神が話し終わると、セデスは眉を寄せて言った。
「それでお子様達は、その自習で世界の創造は上手く出来たのでしょうのか?」
セデスが問うと、急に父神の目が泳ぎ始めた。
「そ、それが……私も自分の管轄の世界を見守る仕事が忙しく、まだ息子達の創造した世界を視ていないんだ……」
父神がしどろもどろになりながら言うと、それまで黙っていた”保健室の先生をしている修道女のルナーベル”として学院に出演していたアンジュが、ならば3兄弟の自習は彼等の教師が見守っているのかと尋ねたが、父神は教師も視ていないと言ったので、アンジュは驚きの声を上げた。
「まぁ!教師も親も子どもを見守っていないなんて、神様の世界の教育方針は、人間とは随分違うのですね。私達人間は子どもが出来ないところがあるのならば、その都度、学校と家の両方で勉強している子どもの様子を観察し、どこでつまずいているのか、どこがどうわからなくて出来ないでいるのかを、キチンと先生と保護者が把握し、両者が連携して協力しあって子どもに向き合わなければ、子どもはいつまでたっても苦手な箇所を克服できないものですのに……」
その言葉を聞いた父神は、ハッとした表情になった。
「た、確かに。……確かにその通りだ。私も息子達の修業先の教師も、本業の世界の創造の仕事を理由に息子達を後回しにしてしまっていた……。そうだな。教師も私も神なのだから、その気になって視れば、直ぐに全てを知ることが出来たというのに……。私は怠慢だった」
父神がそう言って、隣にいる銀の神と金の神の方を向いたので、慌てて彼の息子達は言った。
「「ま、待って!父神様!視る前に僕らの話を聞い……」」
「すまない、息子達よ。お前達を今まで後回しにしていた私を許してくれ。親の務めを怠っていた私がいけなかったんだ。今すぐ皆の自習の成果を視て、褒めてやるからな」
父神は待たなかった。彼は息子達の顔を見て……、人間達の顔を見て、そして目を瞑り……全てを視た。この世界を創造した父神は、この世界で起きたことの全てを瞬時に視て……頽れた。
……もしも今、ここで行われているのが本当の三者面談で、学校の成績や素行が悪いことを聞かされたならば、保護者はどうするだろうか?学校の先生の前で、子どもを叱るだろうか?それとも、その場では先生に平謝りして、子どもにも謝らせ、家に帰ってから、そのことで子どもと話し合うのだろうか?それとも学校の成績や素行が悪いのは全部学校の教え方が悪いと、先生を非難し詰るのだろうか?
父神の場合は……、世界の創造が上手に出来ない息子達が父神の決めた決まり事を守っていない事実に愕然とし、しばし言葉を失い、頭を抱えてしまうこととなった。父神は神としての修業先の教師と至急、今後の教育方針について話し合わねばならないと考え、末子である金の神の再現させた”僕のイベリスをもう一度”を即刻、終わらせねばならないと判断した。父神は人ではないけれど、同じ子を持つ親としてのアンジュの言葉が、とても胸に沁みたのだ。
このことにより、学院の教育者達は、その生徒の今後の指導について、保護者の理解と協力を得られることとなったのだ。




