4人は、その乙女ゲームを作った彼らでした⑥
会社の方針で、僕イベというゲームは、攻略ガイドもネタバレも出していなかったので、逆ハーレムがあることをゲーマー達は当初知りませんでした。そしてアイドル声優である実業家の娘は、その後人気が出ませんでした。いくら大金持ちの娘とはいえ、ゲーム業界や声優業界では、親のコネなど、あまり通用しません。声の演技が出来なければ、本人の才能と努力がなければ、沢山いる声優達の激しいシェア争いにたちまち埋もれてしまいます。人気が出なかった彼女は注目されたくて、あろうことかネット上で、僕イベには逆ハーレムがあることを暴露してしまい、ファン情報サイトは、一時サーバーに支障をきたす事態に陥りました。
騒ぎを後から知った彼等は、「何回やっても、逆ハーレムエンドが見られない」と苦情が書かれているのを見て、やりすぎたかな?でも後悔はしていない……と思っていました。しばらくして彼等が退職した後の、ゲーム制作会社の誰かが逆ハーレムのヒントをファン情報サイトに書き込んでいたのを見た彼等は、それを見て首を傾げました。
(あれ?ミグシリアスの台詞の条件なんて設定しただろうか?それに肝心なことが一つ書かれていない。これでは誰も逆ハーレムエンドなんて見られないだろうに……)
どうやら若い部下達は僕イベの人気が下火になったころを見計らって、その情報を開示し再ヒットを狙っていたのに、彼女にフライングされたので、それが出来なくなり、これでは契約違反だと訴え、実業家は娘の違反を詫び、賠償金を会社に支払ったのだと彼等は後で知りました。賠償金をもらった会社は、もうばれているのだから仕方が無いと割り切ったものの、完全なネタバレはせずに、簡単なヒントしか明かしませんでした。ファン達で協力して見つけてもらう方が盛り上がって、ゲームユーザーは楽しいだろう……と彼等と同じ位ゲーマーだった会社の若い部下達は考えたからだと後で知った彼等は、なるほどと頷きました。
それからまたしばらく経ってから、これが逆ハーレムエンドのエンディングだと、誰かが投稿してきた画像を見て、彼等は驚きました。
(え?”隠された物語”のエンディングじゃないか!この”お姫様”と名乗る者は、俺達が僕イベに隠したイースターエッグを見つけたんだ!……でもどうして、こんな嘘を?なんであれを見て、逆ハーレムだと言うんだ?)
”隠された物語”は、ゲームではありません。彼等が本気で初恋の乙女ゲームを作るきっかけになった、あの可愛い恋人達の幸せな未来を願って作られた、たった5分間の物語です。たった5分の映像を、どうして逆ハーレムと言うのでしょうか?
「あれこそ俺達の初恋なのに、逆ハーレムと言われるなんて耐えられない!」
と彼等は、会社の若い部下達に連絡を取り、会社の了解を得てから、僕イベのファン情報サイトに、僕イベを作った時の経緯や僕イベへの思いを正直に綴り、正しい逆ハーレムエンドの出し方や、彼らが僕イベに隠したイースターエッグである、”隠された物語”への思いや、”隠された物語”の出し方を書き込みました。
僕イベは本来、復讐ゲームだったこと。乙女ゲームに、その復讐ゲームを無理矢理ねじこんだこと。ゲーム製作途中に知った、可愛い恋人達の話にときめいてしまい、真面目に初恋を乙女ゲームに入れたことも……彼らの持てる力を全て注ぎ込んで作ることが出来、初恋を入れるきっかけを与えてくれた可愛い恋人達に感謝をこめて、”隠された物語”をイースターエッグにしたことも……。
ちなみに”隠された物語”の脚本を書いたのは、実際のモデルとなった息子の父親であることや、スチルは一流絵師さんの書き下ろしスチルで、その物語に出てくる恋人達の声は、ミグシリアスとイヴリンの声を当てている、超一流声優さん達に頼んだことも……全部暴露してしまいました。
すると……その後”僕のイベリスをもう一度”は、ゲーム発売開始から10年以上経ってから、小さく再ヒットしたのです。それは彼等と同じ……おじさんだけど心は恋に恋する初心な少年……な中高年の男性ゲーマー達のハートを掴んだからでした。乙女ゲームではあるものの、ギャルゲーム要素も強い僕イベはピュアな中高年男性達の、遠い若かりし頃に体験した、もしくは体験できなかった初恋を味わえると人気が出たのです。
僕イベは乙女ゲームでありながら、再ヒットの購入者は中高年の男性が中心で、情報サイトには、夜に一人で酒を飲みながら、”隠された物語”をしみじみ味わうのが最高だという感想が多数寄せられました。”隠された物語”は彼等と同じような心は恋に恋する少年……な中高年男性の憧れの初恋の物語だったので、ファン達は、その”隠された物語”のことを、いつしか僕イベの11個目のハッピーエンドだと言って、”初恋エンド”と呼んで愛でるようになりました。
ファン達は、おじさんとなった中高年の男達の夢を叶えてくれる僕イベは乙女ゲームではなく、男の夢と書いて”男夢ゲーム”であると言って、彼らが作った初恋のゲームを心底楽しんで、喜んでプレイしてくれて、ずっと長く萌え愛でてくれました。僕イベは彼等と若い部下が最初に願った、スマホに負けないゲームのうちの一つになったのです。
僕イベの新たなファンとなった中高年の男性達は、彼らの初恋のきっかけになった可愛い恋人達は、その後、どうなったのかと質問をしました。だって初恋は叶わないっていうのは、よく聞く話でしたから……。でも彼ら4人からの返答は、ファン情報サイトの利用者の心をほっこりとさせてくれる、可愛い恋人達の初恋が実った、その後の話が書かれていました。
可愛い恋人達は、その後も順調な交際を続けました。彼女の母親が高校受験前に大病を患ったり、彼女の父親が一時行方不明になったりと悲しいこともありましたが、彼は彼女をずっと献身的に支え、その後の困難にも二人で立ち向かったそうです。今では二人は結婚していて、子どもも生まれ、とても幸せに暮らしている……と彼ら4人は、そのファン情報サイトに書き込みしました。
それを読んだファン達はそれをとても喜び、可愛い恋人達の幸せを心の底から祝しました。”隠された物語”のように二人は幸せになったのだと誰もが喜びで、胸がいっぱいになりました。ファン達は可愛い恋人達のその後を教えてくれた彼等に礼を言い……、は会社を辞めてから彼等は、今は何をしているのかと尋ねました。彼等は、その質問にもきちんと答えていました。
僕イベを作った彼ら4人は、今は会社を辞め、福祉系の人材派遣事務所を4人で立ち上げて働いているのだけど……、結局ゲーム作りが止められず、実は今でも趣味で、こっそりとゲームを作っているのだと打ち明けました。
彼等が今、趣味で作っているゲームは中世ヨーロッパを舞台としたものです。主人公は流浪の武道家で、悪者から姫を助けて、その国を助ける英雄の物語です。ゲームの主人公が扱う武道は、あの時の世界チャンピオンの扱う格闘技を参考にしたと彼等は書き込みしました。
「だって中世ヨーロッパ風の舞台で、まるで忍者のような動きが出来る彼そっくりのヒーローが無双するなんて、なんか斬新で面白いでしょう?」
……と。
その乙女ゲームを作った彼等は、その後、それぞれの寿命をまっとうして、その人生を終えました。そして長い長い時間が過ぎ、輪廻転生をしたのですが、彼等の作った2つのゲームがあまりにも、その世界の2人の神様に愛されすぎてしまったからでしょうか?彼らが次の生を得たのは、彼らが作った物語の世界に酷似した、現実の世界でした。
彼等4人は、神様に物語を面白くするためだけに魂を召還されたわけでもなく、英雄として召還されたわけでもないので、4人が見ている前世の夢は、イヴとミグシスの初恋によって……、可愛い恋人達の本物の初恋によって……、一時的に蘇ってきた彼等の魂の記憶の夢だったので、次の日、目覚めた彼等4人は、夢の内容は何一つとして覚えてはいませんでした。ですが……彼等の存在に気づいた者がいて、その日、寮から出てくる彼等を捕獲後に彼等の頭をわし掴んで、無理矢理に前世の記憶を思い出させてやろうと企む二人組がいました。
その二人組は、自分達の大好きなゲームを作った彼等の存在に、やっと気が付いて《神の領域》から下界し、握手とサイン色紙を求めて彼等の元に行こうとしていたのですが、物語から隠れながら彼等4人を見張っていた、ある集団に捕獲され、僕イベに一度だけ名前が出てくる、とある場所に連行されていったまま、彼等の前には一度も現れなかったので、彼等4人はその後も……何も思い出さないままでした。




