4人は、その乙女ゲームを作った彼らでした⑤
※この話は⑥まであります。長々と書いてしまい、申し訳ありません。
「攻略対象者達は初恋のヒロインが、勉強や淑女教育をひたむきに頑張れば頑張るほど、彼等が初恋をしていたころの、ひたむきな気持ちが蘇り、政略結婚をする自分が嫌になっていく。初恋のヒロインが、悪役令嬢である公爵令嬢に虐められれば虐められるほど、その虐めに耐える健気な初恋の相手を彼等は、健気にかばって守ってやりたくなる。
……でも大人となった彼等は、上級貴族としての責任や大人としての打算も知っている身だから、ただの恋愛感情だけでは動かない。そこで……ヒロインの勉強や淑女教育のレベルが関係してくるのです。恋愛感情だけでは動かない攻略対象者にヒロインは、上級貴族の妻を立派に務められる貴族令嬢だと知らしめることで、政略結婚せずとも家が保てるだろうと判断した貴族家跡取りである彼等に、結婚を申し込ませるのです。
逆に初恋のヒロインが頑張らなかったら……彼等は、初恋は所詮初恋と割り切り、本来の上級貴族の役割から逸脱しようとは考えない。初恋のヒロインがある程度のレベルを上げ、悪役令嬢の誤解が解けてのノーマルエンドや友情エンドだと彼等は、初恋の相手が幸せになって良かったと思うだけで終わり、ヒロインのレベルが低く、悪役令嬢の誤解が解けなかったら、彼等は自分勝手に初恋のイメージとは違うからとヒロインを助けず、結果バッドエンドへと終わっても、彼等は初恋の思い出は思い出のままで留めておくべきだったと後悔して終わり……の感情しか持たないのです」
……と彼らは、僕イベの攻略対象者4人の行動心理を、そういう風に設定し直したいのだと皆に訴えました。もちろん、いくら彼らの行動心理をそう設定したからといって、ゲームプレイヤーがそれらに気づくことはないでしょう。どんな恋愛シミュレーションゲームでも、主人公に沢山の魅力ある攻略対象者が係わってくるのはゲームでは当たり前のことなんですから、平凡で何の取り柄もなさそうな主人公に、どうして多種多彩なキャラクター達が次々と話しかけてくるのか?からかってくるのか?親しげに近寄ってくるのか?……そんな行動の意味を考えるゲーマーなどいないでしょう。
でも……真面目に初恋を考えた彼らは、攻略対象者達の行動心理をそう説明し、そして彼らは、ここに集まる全ての人々の初恋を僕イベという乙女ゲームに入れたいと話しました。
彼等はゲーム制作に携わっている、全てのスタッフ達に頼みました。完成間近だったのに申し訳ないんだけどと言って、そこに彼等だけではなく、全てのスタッフ達が夢見る、ありとあらゆるいちゃラブな初恋イベントを追加したいとお願いし、一流絵師さんには、それらの追加イベントのスチルをお願いし、声優さん達にも追加シナリオの声の収録を頼みました。
それはつまり……元々僕イベという乙女ゲームに入れる予定で作られた乙女の夢イベントである、お姫様抱っこ、壁ドン、床ドン、顎クイ、頭ナデナデ、お膝抱っこ、恋人つなぎ、おでこにチュッ、後ろからのハグ、彼氏の手作り料理、ペアルック、恋人の添い寝、ファーストキス、恋人のヤキモチ、ヤキモチからの少し強引なハグ……等々の少女漫画や一般的な乙女ゲームに出てきそうな萌えキュンイベントだけではなく、
追加で彼等が少年時代に体験したかった初恋の夢である、交換日記、文通、公園デート、彼女の手作り弁当恋人との食べさせあいっこ、恋人からの頬へのキス、恋人と手を繋いで散歩、恋人の膝枕や相合い傘……等々の初心な少年の初恋イベントや、おじさんとなった彼らが、中高生だったころに体験してみたかった、固定カップル間のみに発生し、誰の目にも触れられない場所で起きる、ラブコメハプニングによる、パンチラやキスやハグやボディタッチ……パフパフやモミモミ……等々の恋人とのいちゃラブにつながるラッキー何とかイベントや、今、ここにいる全員の初恋の相手、もしくは恋人と体験して嬉しかったことや、体験してみたかった、恋人とのありとあらゆる幸せなイベントを全部……全部のイベントを入れたいのだと前代未聞の無茶なことを言い出したのです。
”僕のイベリスをもう一度”には、各月の行事イベントの他に、悪役令嬢からの嫌がらせという形で発生するハプニングイベントや、個別ルートに進んでからの各攻略者とのいちゃラブイベントが入っていたのに、さらにこんなにも追加イベントを入れるだなんて、通常ではあり得ないことでした。一本のゲームに入れるイベントの量ではなく、まるで4、5本分の恋愛シミュレーションゲームのイベントを全て詰め込もうとしているかのような彼らの無茶なお願いに、皆は驚嘆しました。
これでは、利益度外視の趣味のゲームと代わりありません。一本のゲームに掛ける予算の5倍も6倍も掛けると彼らは言っているのですから、プロであるならば、彼らの申し出を断り、彼らの願いを押しとどめるように説得するのが、本来の大人としての取るべき姿だったのでしょう。それに彼らの話す内容から、このゲームは、乙女ゲームなのかギャルゲームなのか、よくわからないゲームになるんじゃないか?……と少し、心配にもなりました。でも……。
ここに集まった僕イベに係わっている人々は、この僕イベが彼等の最後のゲームだと知っていましたし、このゲームが本来は乙女ゲームではないことも知っていました。そして彼等を騙して復讐ゲームから乙女ゲームに作り替えさせたスポンサーが、娘の好きな乙女ゲームを作るためなら、予算はいくら使っても良く、このゲームが大ハズレで全然売れなくてポシャっても、この乙女ゲームに携わった全ての人々の報酬はきちんを支払うという念書込みの契約書を彼等と交わし直したことも知っていました。
それに……ここに集まっている人々は皆、大人でしたが、心は初心な彼らの初恋を理解できる、心が初心な大人ばかりが集まっていました。だから長く苦楽を共にした戦友である彼らへの餞に、彼らのゲームに対する愛情を……夢を……理解し、彼らの想いを汲み、そこにいた人々は自分達の初恋を彼らの作ろうとしている初恋のゲームの中に心を込めて、全てを注ぎ込んでくれました。そうやって沢山の人々の初恋が詰めこまれた彼等の最後のゲームである、”僕のイベリスをもう一度”は完成し、彼等は揃って、ゲーム製作会社を退職しました。
彼等は会社を辞めましたが、相変わらずゲームが好きでした。彼等が作った最後のゲームのファン情報サイトがあることも知っていて、ファンってありがたいなと思っていました。
僕イベは最初、9つのハッピーエンドがある乙女ゲーだと思われて、そこそこ売れていました。一流絵師さんと一流声優さん達を起用していることも当時話題となりましたし、通常の乙女ゲームよりも、はるかに何倍も多い、いちゃラブイベントや乙女ゲームなのに、ギャルゲーム要素の強いラッキー何とかが多かったので、若い女性だけではなく、若い男性からもそれなりに支持されて、そこそこの人気が出たので彼等は、ホッと胸をなで下ろしました。
((((あの時は、まるで熱病に浮かされたような勢いで、ありとあらゆる妄想をイベントとして詰め込んだ気がする。あんな……欲求不満かってくらいの、ラッキー何とかイベントを入れてしまっていたなんて……。でもゲームだから……いいよな?
現実にそれが毎日起こるはずなんてないし……。もしも俺達が考えた妄想したあれらが、どこかで現実に起きていたら……俺達は羨まけしからん事態にリア充、爆発しろ!と羨ましがると同時に、自分達の妄想具合にドン引きし、羞恥のあまり、悶えまくっているところだっただろうな……))))
やりすぎた感を自覚していた彼等は、お互いにお前等、むっつりだよな……とか、最近、嫁が相手してくれなくって……とか、末の娘が、あのゲームをしていて、お父さんのエッチ!と言って、口を聞いてくれなくなった……等とぼやきながら、新しい生活を過ごしていました。
※……と言うわけで、4月以降にイヴとミグシスが二人っきりのときにのみ、毎日のように発生する(主に二人の部屋で発生する)ラブコメみたいなハプニングイベントは、彼ら4人の仕業(……たった一人の人とだけ、いちゃいちゃしたい、他の男とのラッキー何とかは嫌だ……等の、彼らの願望)によるものでした。イヴ達がいる世界は現実なのですが、物語が入っている分、変なところ(美味しいところ?)が忠実に再現される形で発生し、そのハプニングにより、イヴとミグシスの恋愛に、さらに糖度を加えることとなってしまっています。彼らの願望が忠実に再現されているため、そのハプニングは、二人っきりの時にしか発生しないため、誰も(スクイレルの大人達でさえ)気づくことはありませんでした。




