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悪役辞退~その乙女ゲームの悪役令嬢は片頭痛でした  作者: 三角ケイ
”僕達のイベリスをもう一度”~6月
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4人は、その乙女ゲームを作った彼らでした④

『なんて可愛い恋人達なんだろう!』


……そこにいたおじさんとなった男達は誰もが、そう思いました。


「「「「それだよ、それ!それこそ初恋だよ!なんて初々しく、純粋で穢れのない恋なんだ!俺達の経験したかったのは、そういうことなんだよ!!」」」」


 一人の人を健気に想う。片想いの間は、その人の一挙手一投足で心が浮かれたり、落ち込んだりする。同じ想いを相手も返してくれると、すごく嬉しくて幸せな気持ちで胸がいっぱいになるだろう。両想いとなった相手のことを考え、相手を想い、相手のために尽くすだろうな……と、酒の席でもあり、彼ら4人もそこにいた男達も、自分の青春時代の初恋で、体験したかった願望を言い合って盛り上がりました。


『交換日記、文通、汚い字だったら君に嫌われるかもしれない。出来るだけ綺麗に書こう。何を書こうかな?今日会った出来事を書こう。楽しいことも楽しくないことも正直に書こう。君にも書いて欲しい。僕と会っていないとき、君は何をしているのかを知りたいから』


 『君は今何している?二人が会っていたときに、僕がどれだけ嬉しかったかを書こうかな?普段会っていても口には出来ない君への想いを書こうかな?後で読み返したら恥ずかしくなるから書かないでおこうかな?でも君の気持ちを知りたいから、ここで聞いてもいいだろうか?』


 『一緒に並んで歩くとき、手を繋いでもいいかと悩む。手を繋いでもいい?と声を掛けて嫌がられたら落ち込むからやっぱり止めようか。でも君と手を繋ぎたいって思うから悩む。思い切って尋ねたら、いいよって答えが返ってきて、私も繋ぎたいって言われたら、天にも昇る心地になるだろうな。……手に汗をかかないか心配だな』


 『家の電話を使うのは何だか照れくさい。でも君の声が聞きたい。何時に電話をするのが君の家にとって、ベストな時間なんだろうか?あまり遅い時間だと君の家に迷惑になるから、早めに電話を切らなきゃと思うのに、いつまでも聞いていたくなるから、ついつい長電話になってしまって、母親に叱られる』


 『『『『……っていう感じの、甘酸っぱい初恋を俺達は経験したかったんだ-ーーー!』』』』


 酒の力を借りなければ到底言えないような、小っ恥ずかしくて青臭い願望を口にした彼等は、スマホや携帯電話がなかった時代のもどかしい青春を懐かしみ、「昔は良かった」「今の若いモンは……」とそう思った時点で自分達は老けたんだなと自覚しながらも、憧れだった初恋のあれこれを打ち明け、最後にこう呟きました。


「今だったら、それの何が楽しいんだって言われるかもしれないけどさ、それが俺達の……憧れる()()だったんだよ」


 その言葉を聞いた皆は、皆黙り込んでしまいました。楽しく飲んでいた酒は、少しほろ苦いものになっていきました。酒が進み、可愛い恋人達の話を聞き、初恋への憧れが、その場にいた皆を酩酊させていきました。


((((ゲームは夢を叶えてくれるものなんだろ?今、俺達が作っているのは、初恋を味わいたかった者の初恋の夢を叶える乙女ゲームなんだろ?……ゲームってさ、年齢性別関係なく楽しめるもんだろ?ならさ、おじさん達の初恋の夢を叶えてくれる乙女ゲームがあったって、いいはずだよな?おじさんになった俺達が憧れる初恋を……俺達の最後のゲームに入れてもいいはずだよな?))))


 おじさんになった彼等4人は、そんなことを思ってしまいました。だって、この初恋の乙女ゲームが、彼等の最後のゲーム作りになるのです。


 実業家は姑息な手段で彼等のゲームを復讐ゲームから乙女ゲームに変えてしまいましたが、乙女ゲームを作るためなら、お金はいくらかけてもいいと再度言ってきたので、彼らは今度こそ彼等の有利になるような契約を結び直してから、真面目に彼等の求める初恋を乙女ゲームに入れることにしました。


 彼等は皆のスケジュールを調整して、ゲームを作っているスタッフや一流絵師さん、声優さん達に一堂に集まってもらうように声かけをしました。スポンサー様である実業家の娘以外は来てくれました。彼女は自費出版で写真集を出すからと来てくれませんでしたが、どうせ彼女には、演技力はありません。だから彼等は、ヒロイン以外のみんなに協力を仰ぐことにしました。皆を集めて、何をするのだろうと訝しむ面々の前で、”本物の初恋を乙女ゲームに入れたい”のだと彼等は語り、初恋した者の行動心理を語り、それをどう乙女ゲームに結びつけるのかを語り始めました。





 《幼いころ、一人の少女に出会い、その子のことを好ましく思った彼等。その子は小さくて可愛らしく、その性格は優しく思いやりがある、とても素敵な女の子だった。その出会いは宝物のように大事な思い出になり、甘酸っぱい気持ちを思い出す度に、胸の奥が疼いた。大きくなった今でも、心の奥底に眠る少女との思い出を思い返す度に、それは色褪せるどころか、いつまでもキラキラと光輝く気持ちへと変化していった。この気持ちに名前をつけるとしたら、それは”初恋”だろう。


 親兄弟や友達たちに対する親愛の気持ちとは違った、生まれて初めての恋する気持ちを知った彼等が成人する年を迎えて、大人になろうとしている時に幼い頃の初恋の思い出の少女が、目の前に現れたら、少年だった彼等は、どうするだろうか?


 彼等でなくとも、人は……初恋の相手が目の前に現れたら、どう思うだろうか?人は……初恋の相手が目の前に現れたら、どうするだろうか?


 どう成長しているのか、気になるだろう。どんな姿になっているのか、気になるだろう。今は何をしているのかが、気になるだろう。その人が今、幸せでいるのかが、気になるだろう。その人の恋人や結婚の有無だって気になるだろう。まして初恋の相手が病気を抱えている身だと知っていたら、その後の安否が気になるはずではないだろうか?


 現在()の自分に、恋人や結婚相手がいたとしても。現在の自分に恋人や結婚相手がいなかったら、尚更に。別に気になるからと言っても、その人と、どうこうしたい等とは考えてはいなくても、大部分の人は気になるのではないだろうか?過去に好きだった人、交際していた人の、その後を知る機会があったら、何となく気にしてしまうものではないだろうか?それが……自分が一番純粋だった頃の初恋の相手ならば、余計に気にしてしまうものだろう。そして現在()の初恋の相手のことを知ってしまった者は、どう思うだろうか?


 例えば大人になった自分の前に、当時の初恋の面影が全くない状態の相手が現れたら?所詮、初恋は初恋にしかすぎないと、勝手な妄想を抱いた自分を嫌悪しながら、初恋の思い出が美化されすぎていることに苦笑し、理想の少女とかけ離れた大人になった女性を見て、自分勝手に幻滅し、大きくなった彼女の姿を受け入れないまま、思い出は思い出のままに留めておくべきだったと後悔するのだろうか?


 例えば大人になった自分の前に、当時の初恋の面影のままの状態の相手が現れたら?懐かしさで、つい声をかけてしまったり、声をかけなくても、つい目で追ってしまわないだろうか?当時の初恋を思い出し、胸を甘く切なく疼かせて、初心(うぶ)だった少年時代の自分を思い出してしまわないだろうか?


 例えば自分の美化されすぎている初恋の思い出の少女が、自分の理想通りに、いやそれ以上に素敵な女性に成長して、自分の前に現れたら?あのころの淡い思い出が、自分勝手に再熱し、初恋の思い出を重ねたまま、大きくなった彼女に理想を感じ、また、彼女に初恋を求めるのだろうか?それとも……》




「……この”僕のイベリスをもう一度”という名前の乙女ゲームのオープニングムービーの入学式で、ヒロインのリボンを拾う攻略対象者の4人の心情は、まさにそれなのです!彼らは幼い頃にヒロインと出会っていて、学院の入学式に遅刻しそうになり、慌てて走っているヒロインを見て、自分の初恋の相手だと気づいたからこそ、下級貴族の令嬢の元へ、わざわざ足を運んで、ヒロインの現在()の姿を知ろうと動くのです。だからこそ”体力測定”で良い結果を出せば、騎士団長子息が現れ、”中間テスト”で良い点を取れば、宮廷医師子息が現れ、”ダンステスト”で評価が良ければ、大司教子息が出てきて、全てに高評価がつけば、王子が出てくるのです」


 彼らは、言葉を重ねていく。行事イベント、ハプニングイベントに対する全ての攻略対象者の……初恋した者の心理、行動の説明を続けていく。

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