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悪役辞退~その乙女ゲームの悪役令嬢は片頭痛でした  作者: 三角ケイ
”僕達のイベリスをもう一度”~6月
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4人は、その乙女ゲームを作った彼らでした①

 エイルノン達は中庭で待つ二人に会い、改めて自己紹介をし、入学式前のことを心を込めてイヴに謝罪した。その後、彼等はイヴのことを尋ねた。イヴとミグシスは改めて自己紹介し、二人は恋人同士であることや婚約を結んでいることを語った。エイルノン達は二人に、心からの祝福の言葉を述べた。


 遠い昔に淡い初恋を経験した4人は、目の前の初恋の人が昔と変わらず、可愛くて綺麗で心優しくて……、一人の男性を一途に慕う、素敵な女性へと成長しているのを知って、それがとても嬉しかった。そして彼らの初恋の人であるイヴが、想いを交わす相手であるミグシスの傍で、幸せそうに微笑んでいる姿を見て、少しの切なさと……とても不思議な喜びを感じていた。


((((ああっ、これこそが()()だよ。これこそが俺達が求めてた初恋(イベリス)なんだ!何と嬉しい事だろう!あの()()()()()()の姿をこの目で実際に見ることが出来るなんて!))))


 どうしてそう思うのか、彼ら自身はわからない。だけど彼らの()が……彼らの()が……そう叫んでいるような、そう喜んでいるような……そんな不思議な気持ちで、彼ら4人は恋人達を見守っていた。そしてその日の夜、彼らは夢を見た。遠い遠い昔、ここではない世界の夢を……。







 その乙女ゲームを作った彼らは、同じ年の幼なじみで、とても仲の良い親友でした。彼らは野球が大好きで、小中高と野球漬けの毎日を送り、野球大好き少年なら誰もが願う、『目指せ、甲子園!目指せ、プロ野球選手!』を合い言葉に4人は、その青春の全てを野球だけに捧げました。汗と涙と男の友情を育んだ野球人生はとても充実していたので、大学に入り、野球を辞めた彼らは軽く、燃え尽き症候群に陥っていました。


 野球一色の青春を送った彼らには、女の子の友達や恋人は、今まで一度もいませんでした。大好きだった野球をとても頑張っていたけれど、甲子園には行けず、プロ野球選手の夢は夢でしかなく、将来の夢もなく、ないないづくしで、彼らは無力感に襲われていました。


 そんな彼らを救ったのが、テレビゲームでした。自宅のテレビ画面を使って遊べるなんて、とんでもなく凄い!と感嘆しました。テレビのモニターに接続するハード機材に、ゲームソフトのカセットがあれば、夢だったプロ野球選手になって、野球ゲームが出来る!他のスポーツだって出来るし、バイクや乗馬も出来る。格闘家にだってなれるし、忍者や冒険家、宇宙飛行士、配管工、何でもなれる!


((((凄い!このテレビゲームって、何てすごいんだ!このゲームを作ろうって考えた人、ものすっごくすごい人だ!))))


 それからは彼らの青春はゲーム一色になりました。アルバイト(彼らの若かった時代はバイトのことをアルバイトと呼んでいた)とゲーム、たまに大学という生活になったのです。お金がないから、アルバイトがないときは電気屋に押しかけて、店頭販売人に邪険にされながらも、店頭に置かれたゲームをしたり、一つのゲームをすりきれるんじゃないかって位、遊び倒していました。しばらくして彼らが尊敬しているハード機材を売る会社が、もっと凄い物を売り出しました。何と自分でプログラムを打てば、自分でゲームが作れるというものでした。彼らは驚嘆しました。


((((こんな凄い物売り出すなんて、この会社、神か!?))))


 彼らは自分でゲームが作れることが出来るのだということに驚き、夢中になり、そしてパソコンの存在を知りました。それからはアルバイトとパソコンとゲーム……時々大学の生活を送るようになりました。パソコンがメジャーなものではなかった時代だったので、自分達で本屋に行き、専門書片手にプログラムの勉強をし、電気屋街を探し回って手に入れた部品でパソコンを組み……パソコン通信に嵌まり、パソコンゲームに嵌まり、ゲームとパソコン漬けだった彼らの夢は、いつの間にか、ゲームを作る人になっていました。大学卒業後、4人はそれぞれ違う会社に入りましたが、その数年後退社し、4人である小さなゲーム製作会社を立ち上げました。


 彼らが作るのは自分達が大好きだったゲームです。野球や色んなスポーツが楽しめるゲーム、格闘ゲーム、アクションゲーム、シューティングゲーム……。自分達が楽しいと思った感動を、他の人達にも伝えたいと夢に向かって、無我夢中で彼らはゲーム作りに励みました。


 仕事や会社を休んで、ゲームを買うために前日から店に並んでいるニュースを見た時はもの凄い時代が来た!……と彼らは思いました。ゲームが少年達や一部の大人だけではなく、老若男女……一般人にも受け入れられる、一生遊べる遊びになるのだろうと、感慨もひとしおでした。……が、しばらくして不況がやってきました。ゲームは今や一家に一台ゲーム機がある時代で、沢山のゲームであふれかえっていました。ゲーム業界は飽和状態を迎えていて、彼らの会社は危機を迎えました。そんな彼らの会社を救ったのは……エロゲーと呼ばれるゲームでした。


 彼らだって男です。中学生の頃、走り込みをしていた公園や土手で捨てられていたエロ本を見つけて、オロオロして走って逃げたものの気になって、辺りが暗くなってから、コッソリ見に戻って、4人鉢合わせをしたこともあったし、高校生の頃は、日焼けした丸刈りの頭に母親の香水をかけすぎて、クラスメイトにひんしゅくを買ったり、バレンタインデーに何度も下駄箱や机の中を探ってみたり、何となく校舎の中を一人うろついて、いつでも誰かが声をかけやすい状況を作ってみたりしたこともありました。


 大学生の頃はゲームセンターで、麻雀ゲームの画面の女の子が勝負に負けると服を脱ぐのに、かなり心がドギマギして、思わず後ろに人がいないか確認してみたり、家でゲームをしていて、ほんの少し女の子のスカートから下着が見える描写の画面を母親に見られて、気まずくなったものの、そのゲームを続行せずにはいられなかったりしたこともありました。


 だから、そういう性的なものはいつの時代でもニーズがあるとわかっていましたけれど、……彼らの作りたい物が作ることが出来ないことに、彼らのプライドは激しく傷つき、ズタボロになりました。理想と現実の狭間で、彼らは()()にならずにはいられなくなり、敗北感を味わいながらも、会社のため、家族のために、それを作って売りました。


 でも人間に性欲がある限り、その手のゲームはそれなりに彼らの会社に金を落としてくれたので、プライドをガリガリ削られながら、エロゲーで資金が貯まったら自分達の作りたいゲームを作り、売っては、またエロゲーで資金を作る……という日々を送っていた彼らに、救世主的なゲームが流行りました。


 それは恋愛をシミュレーションするゲームでした。ギャルゲーや乙女ゲーは確実に金を運んでくれるありがたいゲームのうちの一つとなりました。各キャラクターのグッズや、キャラクターの声だけ吹き込んだドラマCD、実写化、アニメ化……等々と、一つのゲームで、かなり美味しい副産物が見込める、それらのゲームは、彼らの会社や家族の生活を守ってくれました。


 そんな時代も経験し、彼らは随分年を取りました。今では携帯電話というものを一人一台、持つ時代となり、ゲームは、それらのアプリで楽しめるようになりました。若い時代を過ぎ、酸いも甘いもかみ分ける大人になった彼らは、そろそろゲーム業界から離れようと思い始めた頃、若い部下から、あるゲームを作りたいと相談を持ちかけられました。


()()()()()()をターゲットにした、()()がテーマのロールプレイングゲームを作ってみたいのですが……」


 ……と。

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