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悪役辞退~その乙女ゲームの悪役令嬢は片頭痛でした  作者: 三角ケイ
”僕達のイベリスをもう一度”~6月
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※ある復讐者と始祖王の子孫達との宿縁(後編)

 護衛集団の長は二度目の失敗から10年目にして、三度目の国の乗っ取り計画を仲間達に打ち明けた。40代になり、年を取ったカロン王は今、学院にいる王子に王位を譲ろうと思っているらしい。そのことをカロンは学院の”卒業パーティー”で、発表するつもりだと取り巻き貴族や護衛集団に言った。だから、その前にカロン王から例の短剣を奪い、武器を使って王家を掌握し、隣国に戦争を仕掛けようという計画だった。護衛集団の長はカロン王よりもさらに年寄りで、この計画が彼にとっては最後の計画になるだろうと考えていた。


 だがカロンの取り巻き貴族と護衛集団としてへディック国の中枢深くに入り、栄華を極めていた長の子達や仲間達はこれに反対した。自分達の息子や孫達が上級貴族として贅沢な生活が出来ているのに今更、国の簒奪や戦争なんて、愚かなことは止めろと彼等は言った。仲間の言葉を聞いて、長は激怒した。ご先祖様の悲願や亡き侯爵の無念を叶えることは自分達の責務だと言い放ち、贅沢な生活に慣れ、優雅な貴族生活に溺れきった仲間達を詰った。彼等は激怒する長の言葉に渋々従うことにしたのだが、三度目の計画も……始祖王の血を引く一族によって阻止されてしまった。


 始祖王の長兄の血を引く一族の直系であるヒィー男爵令嬢が熱病で気が触れた()()をして剣も毒も使わずに、たった一人で大勢の彼等の仲間を、神様の庭に送り込んでしまったからだ。






 その方法は、実に巧妙で実に恐ろしいものだった。護衛集団の長や取り巻き貴族達の食の好みを熟知し、その弱点を的確についた見事な作戦だった。……一体いつから、ヒィー男爵令嬢は()()を計画していたのだろう?彼女は幼いときから社交界で評判がすこぶる悪い貴族令嬢だった。母親が亡くなった後から社交には一切出ず、ヒィー男爵家への貢献を放棄し、自分の家の使用人を虐め倒して生活を送る、怠惰で性格が悪い令嬢だと知れ渡っていた。


 ……もしかしたら、その幼き日から彼女は()()を決意し、周囲を欺くために貴族令嬢失格者の()()()()()()()()()()のではないだろうか?自分の計画を誰にも気付かれないように演じ続けて、彼女は好機が来るのをひたすら待っていたのではないだろうか?実際ヒィー男爵令嬢は、熱病で自分の気が触れたふりを見事に演じてみせ、学院でも社交でも、自分は愚かな男爵令嬢であることを皆に浸透させて、周知の事実だと思い込ませた。そして皆を油断させてから、それを行った。


 一見すると、それはけして毒ではない。一見しなくても、それは毒ではない。……けれど栄華に酔い、贅に溺れきっていた彼等には、それは……猛毒に等しい物だった。彼等のように贅沢をしていない者にとっては毒ではない食べ物を、ヒィー男爵令嬢は知恵を絞って、皆に食べさせ、彼等も自ら進んで口にするようにと画策した。そして彼等が、それらのせいで病に伏し、大半が死病となって、助かる見込みがないのを見届けた後、彼女は一芝居を打った。


 ヒィー男爵令嬢は5月の茶会で学院の保健室の先生にゲップをさせて、その罪を他の貴族のせいにしようと画策したが、酒に溺れて失敗し、社交界から追放され爵位も領地も失い、失脚した……と思わせて、まんまと彼等の手から逃れることに成功した。ヒィー男爵令嬢の全ての行動は、とても緻密に計算された上で為されていた作戦によるものだったのだ。


 保健室の先生の修道女は優しい女性で、皆にとても好かれていた。だから修道女を助ける者が必ず出てくることを見越してヒィー男爵令嬢は、あんな恐ろしい飲み物まで用意して、一世一代の大芝居に打って出たのだ。あまりにも迫真の演技だったので、すっかりと彼等は騙されてしまった。


 それがわかったのは、大勢の仲間を彼等が失った後だった。生き残った仲間達は彼女に復讐しようと、ヒィー男爵令嬢が収容されたはずの施設に向かったのだが、そこはすでにもぬけの殻で、ヒィー男爵令嬢も医師も看護師も……、誰もいない空き家だったのだ。慌てて彼らは施設周辺をくまなく探してたが、どこにもヒィ-男爵令嬢はいなかった。慌ててヒィー男爵に連絡を取ろうとしたが彼もいなかった。家屋敷も領地もすでに売り払われていて、爵位返還も済んでいた。何て賢い少女だろうかと、生き残った者達は唸った。


 こうして三度にも渡る国の簒奪計画は、始祖王の血を引く一族達によって、全てが失敗に終わってしまったのだ。北方の国を追い出された腹黒大臣達も、ナロンの弟に国を追い出された大臣達も、3つの国から集まった悪党達も皆……ヒィー男爵令嬢の罠にはまり、大勢の者達が亡くなり、生き残った者達も床から起き上がれない状態となっていた。元気に動けるのは……彼等の子世代が4人と学院にいた孫世代の若者達だけだった。


 護衛集団の長もまんまとヒィー男爵令嬢の罠にはまり、大量の酒で体がボロボロになって失意のまま、床から起き上がれなくなっていた。それ以来、長は毎日のように床の中でのたうち回り、始祖王の子孫達への恨み辛みの声を上げ、悔しがった。生き残った仲間達は、長の血を引く王子がこの国の王になれば、王家を乗っ取ったことになり、先祖の復讐を果たせるではないかと長を慰めた。





 5月に沢山の貴族達が病で亡くなったので、カロン王は貴族院に”合同法要”を行うようにと命じた。貴族院も大勢の死者を悼むために、それを受け入れた。5月の茶会後、貴族院は6月末日に死者を悼むための合同法要を計画し、カロン王に承認の捺印をもらうため城に赴いたのだが、カロン王は、その計画を否とした。


「亡くなったのは私の取り巻き貴族達や護衛集団が主だった。それをたった一日の法要で済まそうなどと……扱いが軽すぎるのではないだろうか。彼等の弔いは盛大に何日もかけて皆で行われねばならない。彼らの喪には全ての貴族が服さねばならない。よって、やり直しを命じる」


 カロン王はそう言って、貴族院の合同法要の計画について、いくつかの事柄を盛り込めと命じた。それが以下の内容である。


 ①6月は大勢の貴族達が亡くなったことへの哀悼の意味を込めて、全ての貴族達に喪に服すことを課す。6月初日から7月末までの期間を喪中と定め、この間の全ての上下貴族の茶会・夜会・乗馬等の社交や、その他の集会等の開催を禁止する。また、この二ヶ月間の期間内に予定されていた婚約式や結婚式は延期すること。これらが遵守されているかを監督する任は、カロン王の護衛集団に命じる。


 ②6月後半の二週間、貴族院は大勢の貴族達の死を弔うための様々な祭典行事を14日間分計画し、実行することを課す。へディック国の15才以上の上下貴族達は全て王都の屋敷に在留し、貴族院が計画する二週間の様々な祭典行事に毎日全員参加を課す。これらが遵守されているかを監督する任は、カロン王の取り巻き貴族4名に命じる。


 ③合同法要は6月の最終日と定め、この合同法要は貴族院とカロン王の取り巻き貴族4名が主体となって、大勢の亡くなった貴族の者達への哀悼と鎮魂の意を汲んだ、盛大で荘厳な合同法要を執り行うことを課す。この合同法要ではカロン王の取り巻きで、貴族位を持つ大司教に鎮魂の詔の任を命ず。この日は15才以上の男女全ての上下貴族の参加を命じる。当日の合同法要の警備の任はカロン王の護衛集団に命じる。また、その日は平民も仕事を休み、各自の家で黙祷をすること。


 ④貴族院と生き残っているカロン王の配下及びその子息達は、①~③の全てが遵守されるように協力し、それの遂行に当たること。


 ※補足※6月後半からの二週間、全ての教会は教会内にて、大勢の貴族達の死を悼むための鎮魂の祈りを行うことを課す。この期間、修士も修道女も自分達が属している教会に戻り、祈りを捧げることを命じる。


 城にいるカロン王の配下……カロン王の取り巻き貴族や護衛集団の生き残りで……病床についていないのは、ごく僅かしかいなかったが、彼等は自分達の仲間や家族の死を弔うための合同法要を命じたカロン王に感謝した。なのでカロン王が彼等を信用して任せてくれた、監督や警護、合同法要の実施等の数々の重要な名誉ある仕事をするために、生き残っていた仲間達全てで、その任をまっとうすると決め、学院にいる仲間達にも、6月からの二ヶ月間にもわたる王都での喪中の監督の仕事や、合同法要の警護の仕事をさせることを決めた。








 ……彼等は忘れていたのだ。どれだけ愚王であろうとも、彼が始祖王の血を引く者だということを。……彼等は知らなかったのだ。昔、学院で自分達が襲った彼の兄が生きていて、城下にいたことを。……彼等は気づかなかったのだ。


 始祖王の血を引く兄弟が顔を合わさなくても、言葉を交わさなくても、心を通い合わせなくても、まるで意思疎通が出来ているかのように、二人がある共通の目的のために、それぞれが最善の動きをしていたことを……。

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