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悪役辞退~その乙女ゲームの悪役令嬢は片頭痛でした  作者: 三角ケイ
”僕達のイベリスをもう一度”~5月
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イヴとミグシスの公園デート(後編)

 年がら年中片頭痛に苦しめられている印象が強いイヴにとって、5月は貴重な片頭痛になる回数がこれでも少なくすむ季節のウチの一つだった。天候が穏やかで湿気が少なく、気温変化もあまりないので、イヴは心穏やかに毎日を過ごせるのが、とても嬉しかった。なので、今朝のイヴは早朝からお弁当作りに精を出したり、お出かけ用に髪を編み込みにしてみたり、真っ白のワンピースに淡い水色のカーディガンを重ねてみたりして、心を弾ませながらデートの準備に勤しんでいた。


 ミグシスは体調も機嫌も良いイヴを嬉しく思いながら、部屋や洗面所や風呂場を洗い、夕食の仕込みを済ませた後、カーキ色のシャツに黒のスラックスを履き、身支度を調え、イヴの作ったお弁当やイヴのいつもの薬、万が一の時の鎮痛剤や白いハチマキを今日のデートに使う備品と一緒に大きめのトートバッグに入れ、居間でイヴが出てくるのを楽しみに待っていた。


 イヴが出てくると、二人はお互いの姿を褒め合った後、早朝の6時30分に学院を出て、学院前の停留所から観光馬車に乗り、王都の端にある公園を目指した。小一時間ほどして公園に着いた後は、イヴとミグシスは早速、イヴ手作りの朝食のお弁当を食べることにした。朝早くの公園は人も少なく、イヴとミグシスは、公園に設置された戸外にあるパラソルの付いたテーブルを丸々一つ陣取り、お弁当を広げた。


 ショウガが香る鶏の竜田揚げや根菜の和風サラダ、三色野菜の肉巻きや青菜のお浸しやだし巻き卵に、おにぎりの具は梅干しと青じそを叩いて、みりんと鰹節を和えた具と、甘辛いネギ味噌とキノコと牛肉を炒めた具と、塩鮭を焼いてから解し、骨抜きした後、ごまを少量和えた具のおにぎりが、お弁当箱に綺麗に盛りつけられているのを見て、ミグシスは目を大きく見開いて喜んだ。


「うわぁ!俺の大好きなものばっかりだ!ありがとう、イヴ!すっごく嬉しい!」


 イヴは手拭き用にとお絞りを取り出し、自分の手を拭いてからミグシスの手を取り、もう一つのお絞りで、丁寧に拭いてあげてから、箸を手渡し、ニコッと照れ笑いをした。


「喜んでもらえて良かったです。さぁ、食べましょう」


 イヴは水筒からピュアに譲ってもらった麦のお茶を2つのコップに注いで、机に置いた。


「!うん!いただきます、イヴ!」


「はい、どうぞ。私もいただきます!」


 イヴはミグシスの食べる様子を見て、嬉しげに目を細め、凄く嬉しいなと幸せを噛みしめていた。かっこいいだけではなく、優しくいつも自分のそばにいてくれる大好きな人が恋人になってくれて、なんて幸せでありがたいことだろうと思っていた。


 ミグシスは自分を見て嬉しそうに顔を綻ばせるイヴを見て、ものすごく幸せだと感じた。美しいだけではなく、最高に美味しいお弁当を作ってくれ、しかも自分が大好きな人が、自分のことが大好きで恋人であることを喜んでくれているのが、たまらなく嬉しく幸せだと思っていた。


「あっ、ミグシス。頬に()()()がついていますよ」


 イヴはミグシスの頬に付いていたお米を指先でつまむとそれを自分で食べた。


「!?あっ!あ……ありがと、イヴ!!」


 両想いで食べるお弁当が美味しくないわけはなく、イヴとミグシスは恋人とのお弁当の時間を楽しく味わって堪能した。お弁当を食べ終わり、イヴが薬湯を飲んでから二人で空のお弁当箱や水筒を片付け、机の上を綺麗にした。二人は公園内の洗面所に向かい、手洗いや歯磨き、トイレ等を済ませ、身支度をキチンと整えてから散策することにした。ミグシスはトートバッグから白い日傘を取り出した。二人は仲良く相合い傘で、公園の池のアヒルを見たり、学院には咲いていない花を見て、お喋りを楽しんだ。


 ミグシスはイヴが疲れないように気を配り、広い公園内を歩くのに疲れる前に小休憩を取ることをイヴに提案した。ミグシスは日差しに弱いイヴのために、木陰で人の通らない場所を探し、その芝生の上に持ってきていた敷き布を敷き、一緒に座ろうと誘った。


 二人で靴を脱ぎ、敷き布に座ろうとしたら、イヴがミグシスに膝枕をしてみたいと言い出したので、ミグシスは赤面しながらも、その言葉に甘えることにした。イヴが先に座りミグシスに、さぁ、どうぞと自分の膝をポンと軽く叩いて促した。ミグシスはイヴの膝に、ゆっくりと頭を置いて寝転がった。公園の緑が日の光を受け、キラキラと輝いている。二人は互いの体温を感じながら、二人だけの時間を楽しんだ。


 イヴは艶やかなミグシスの黒髪の頭をなで、彼の長い睫や優しげな眼差しを見つめ、そっと彼の形の良い耳も撫でて、幸せそうに微笑み、「ミグシスの耳の形も私、好きなの」と小声で囁いた。ミグシスはイヴの柔らかな太ももの感触や、香水の類いをつけていないはずのイヴから香る、彼女自身の甘い匂いにクラクラしつつ、愛しげに自分を見つめる彼女を見つめ、胸の中に何とも言えない想いがこみ上げた。


 今、彼女の視線を独り占めしている自分は、何て幸福なのだろうと思い、彼女の柔らかな指が自分の耳を優しく撫でる感触を快感として感じる自分に内心動揺しつつ、彼女の囁く愛の言葉に、胸の中が幸せでいっぱいになり、熱が籠もった視線で彼女を見つめ、自分を撫でる愛しい恋人の、その小さな手を掴んだ。二人はしばし、お互いだけを見つめ続けた。


 しばらくしてミグシスはイヴの膝から頭を下ろし、起き上がるとトートバッグから膝掛けを取り出し、イヴに一緒に横になろうとイヴを自分の横に寝かせた。ミグシスは二人の体に膝掛けをかけると、自分も横たわり、イヴに腕枕をしてあげるから、もっと自分に身を寄せてと、優しげに囁いた。イヴはミグシスに腕枕されて、抱きしめられた。ミグシスはイヴの額にキスをし、15分ほどしたら起こしてあげるから、お休みと言って目を瞑った。


 イヴはミグシスが早起きしたイヴを気遣って、仮眠を取らせるように配慮してくれていることに気づいていたので、嬉しさの余り、彼の腕に頬をさらにすり寄せ、大好きと呟いた後、眠った。ミグシスはイヴが眠ったのを確かめた後、彼女の体をもっと自分に引き寄せた。そしてミグシスは少し身を起こし、茂みの向こうで()()()()()()()()()()()()()()。芝生の向こうの茂みがガサガサ音を立てたかと思うと5、6人の若い男達が慌てて公園出口に走っていくのが見えた。


(あれは……()()達か。大方イヴが体調の良い季節を狙って挨拶にきた所、俺とイヴがデートに出かけるのを見て、後をつけてきたんだな……。全く、6月始めに会うのを了承してやったというのに!!……まぁ、あれだけ離れた所なら、俺の大事なイヴの可愛い寝顔は見えてはいなかっただろうけど……)


 ミグシスは彼らがいなくなったのを確認すると、獣の目つきから恋する男性の目つきに戻り、腕の中の恋人のぬくもりを味わいつつ、少し風が出てきたなと思い、天気が気になり始めた。


(風か……。今日は公園でゆっくり過ごそうと思っていたが、予定を変更しよう)


 ミグシスは10分でイヴを優しく起こした。


「イヴ、おはよう、起きて」


「はい、おはよ……です。ミグシス」


「ん、寝ぼけている顔も可愛いね、イヴ。ごめん、いつもよりも5分早く起こしたから眠いよね。ちょっと風が出てきたから、この後の予定を変えるね。今、敷き布を片付けるから、イヴはここで待っててね」


「?は……い、お手数、かけま……す」


「クスッ。寝ぼけていても礼儀正しいんだね、イヴ。本当に俺の恋人は美しくて優しくて、可愛すぎるなぁ」


 ミグシスはクスッと笑って、寝ぼけ眼のイヴをゆっくりと座らせて、彼女の可愛い足に白いパンプスを履かせた後、少し離れた所で、まだ眠そうなイヴを立たせ、自分は敷き布を畳むために膝立ちする。


(ポヤヤンとした寝ぼけた表情のイヴも可愛いなぁ)


 と思いながらミグシスは、敷き布を畳みだした。


「……あ!?ごめんなさい、ボウッとしちゃってました!私も手伝います!」


 風はさっきよりも強くなってきて、ミグシスが敷き布を畳むのに少しだけ労力を要している様子に、やっと眠りから完全に目が覚めたイヴが手伝いをしようと、ミグシスの傍にやってきた。……そのときだった。


「キャッ!」


 ひときわ強い風が吹き、膝をつき敷き布を畳んでいたミグシスの目の前で、イヴのワンピースが捲れ上がった。イヴのスラリとした白い生足や、さっき膝枕で感触を堪能させてもらった柔らか太ももやら、その上のイヴの秘めたる可愛いレースの……までも、目の前50センチの近距離でガン見してしまったミグシスは、脳髄の奥の奥で、その映像を瞬間で永久保存した後、敷き布を放り出し、イヴのスカートを押さえ込んで他の者達に見えてないかを慌てて確認した。


(っ危なっ!!イ、イヴの可愛い……を、は、初めて、初めて見ちゃった……!ま、丸見え……ゴクッ!綺麗な足に淡いピンク色の可愛い……ゴクッ!お、俺、出血死するかと思った!さっき、あいつ等を追い払っていて本当に本当に、本っ当に良かった!!こんなの他の誰にも見せてなんてやるもんか!)


「あ、ありがとです、ミグシス!ごめんなさい!」


 大好きな人にみっともない姿を見せてしまったと落ち込むイヴを抱きしめ、「そんなことないよ、むしろ天国かと思ったくらい良い絶景がムニャムニャ……いや、とにかく最高だったし大丈夫だよ!」と謎の励ましの言葉をかけ、ミグシスは風が収まったのを確認してから、敷き布を取りに行き、急いで帰り支度を済ませた後、二人は今度は手を恋人つなぎにして、昼前に公園を出て行った。


 観光馬車に乗り、学院に着く一つ前の停留所でミグシスはイヴと共に下り、そこで平民クラスの者達に人気がある定食屋に入り、二人で彼らお勧めの親子丼を食べてから、二人はまた恋人つなぎで学院まで、手を繋いで歩いて帰った。本当なら公園内のカフェで昼食を取り、夕方に帰宅予定だったのだが、ミグシスの予想通りに風が出て、昼から天気が崩れたため、イヴは部屋に戻ってきた頃に軽く片頭痛を発症させてしまった。


 ミグシスはイヴをソファに座らせて鎮痛剤を服用させ、彼女の髪の編み込みを解き、白いハチマキでイヴの額をきつく縛った後、お弁当箱や水筒を洗い、敷き布を綺麗に拭き清めて、デートで使った荷物を片付けた後、ソファに座るイヴに声を掛け、一旦彼女を立たせた後、自分の膝に彼女を横抱きしてソファに座った。


「ミグシス、重くない?」


「ん、まったく重くない。俺は9年間、何度も何度もイヴをずっとこうして、抱きしめたかったけど出来なかったから、イヴが俺を膝枕したかったように、俺も今日のデートで俺の膝にイヴを乗せて、ずっとずっと、こうして抱きしめたかったんだ。だから今日は、この後ずっと、俺の我が儘に付き合ってね、イヴ」


「はい……。はい、ミグシス、ありがとう。大好きです、ミグシス。ありがとう、私……嬉しいです!」


 イヴは片頭痛を起こしたら動けない。でもミグシスは動けないイヴでもいいと、態度で示してくれている。イヴはすごく嬉しくなって、ミグシスの胸に顔を埋めた。


 ミグシスは公園でイヴがしてくれたように、優しく彼女の髪や耳や背中を撫で、イヴの回復を心から願った。耳を撫でられてプルプルッと小さく体を震わせる恋人の感度の良さに、ゴクッと生唾を飲み込みつつもグッと堪えて、それ以上の耳への干渉は止めて、ミグシスは今はただ、イヴを労ることに全力を注いだ。


 夕食は暖めたら直ぐに食べられるようにしているし、風呂だって洗ってあるから、今日はウンと二人でくっついていられる。鎮痛剤が効いたら、夕方に中庭を散歩してもいいし、鎮痛剤が効かなかったら、このままイヴの世話を手取り足取りして、イヴが一番安心できるように、ミグシスはずっと傍にいる。今までもそうだったし、これからもそうするのだ。それに……。


(部屋の中なら、こんな可愛い顔をしているイヴを独り占め出来るから”お部屋デート”、最高だよね)


 ミグシスがギュッと抱きしめると、片頭痛で苦しむイヴが、ホゥと顔を緩ませて安心した笑顔になってくれるので、ミグシスは幸せを噛みしめつつ、昼からの二人っきりの時間をじっくり甘く楽しんだ。

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