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悪役辞退~その乙女ゲームの悪役令嬢は片頭痛でした  作者: 三角ケイ
”僕達のイベリスをもう一度”~5月
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元男爵令嬢のゲームリトライ(後編)

 次の日、リアージュは騎士団詰め所の牢から無事に出されたのだが……。


「ちょっと私の事、閉じ込めて置いて、夕食も朝食も出さずに放り出すなんて、良い度胸ピシィ!!ギャッ!!何度も鞭を出すなんて、ひきょピシィ!!」


 門番達に威嚇で鞭を振るわれたリアージュは、その場を逃げたが、一時間もしないうちに数人の男達にグルグル巻きに縄で縛られて、騎士団詰め所に連れてこられた。


「この女、ウチの店に黒い虫が出たとか言って、難癖付けてタダ飯食おうとしてたんです!」


「この女、露天に並んだ果物をかっぱらって名前が書いてないから、これは自分のだと言い張るんです!」


「この女、黙って人の家に入って、大事なお金を盗もうとしてたんです!」


 リアージュはグルグル巻きにされた状態でも負けじと言い返した。


「何よ!何で私をこんなに酷い目に遭わせるのよ!あんな汚い店、どうせ私が持ち込まなくたって、絶対いるはずよ!こんな可愛い私が食べてやっているんだから、ありがとうございますと感謝して、ただで丼3杯くらい、食べさせてくれてもいいのに!こいつ、最低!


 それに道ばたで売っている果物なんて、沢山あるんだから、私が一個くらい盗ったって困らないでしょ!ホントにケチな男って最低!それにそれに私は元貴族なんだから、民は私のためにある”道具”なのよ!お金くらい、どうぞと捧げるのが民の誉れでしょうが!本当に、どいつもこいつも私は悪くないのに最低なヤツばっかよ!ねぇ、あんた達、こいつ等を鞭打ってやってよ!」


 門番達はリアージュのあまりの物言いに、顔を引きつらせながら、呆れかえった。


「「お前……本当に最低最悪な女だな……」」


 リアージュは平民生活二日目で、無銭飲食、万引き、窃盗を行い、立派な犯罪者の仲間入りを果たした。昨日は門前で騒いだための業務妨害で牢に入れただけだったが、今日は三つの罪を犯しているため、リアージュは騎士団詰め所から、犯罪者の収容所に輸送され、三週間の強制労働を課せられた。


 茶会の時に吐瀉物で汚れたリアージュは、その時水をバケツでかけられただけだったため、リアージュの体は、どこもかしこも臭すぎた。牢番はリアージュを牢屋に入る前にデッキブラシで、服を着たままのリアージュの全身を水洗いした。


「たかが無銭飲食一回で、牢屋に入れるなんて厳しすぎるわ!万引きだって、たった一個の果物よ!金だって銀貨一枚しか、あの家にはなかったのよ!あんなの、はした金じゃない!どうして三週間もひどい罰を喰らわねばならないのよ!理不尽だわ!」


 リアージュは、デッキブラシで洗われながら、そう怒鳴った。牢番はあまりにリアージュが臭かったので、布で鼻を覆いながら、怒鳴り返した。


「何が理不尽なものか!へディック国は、ここ10年流行病や不作が続いていて、民の暮らしはすごく苦しんだぞ!貴族達は贅沢をしているが、俺達民は、食べ物の確保や、日々の生活のために金を稼ぐのに必死になっているんだぞ!お前が盗んだ、たった一個の果物の万引きを見逃すことは、その商人の首を絞めることになると何でわからないんだ!お前がやったことは犯罪なんだよ!」


 リアージュは三週間の強制労働の畑仕事も嫌だと悪態をつくのを止めず、すぐに怠けようとするので刑務官はリアージュにつきっきりとなって一日中叱りながらリアージュに労働をさせなければならなかった。しかもリアージュは、牢の中では他の収容者達と毎日諍いを起こして、つかみ合いのケンカを何度もして、常に諍いが耐えなかったために、牢番や刑務官は頭を抱え、やっと明日はリアージュの出所だという日、彼らは雄叫びを上げてしまうほど喜び、他の収容者達もそれに同調して声をあげた。彼等もまた、リアージュを毛嫌いしてたのだ。リアージュは周囲の喜びの声に、フン!と顔を背け、牢屋の奥に腰掛け、明日からのことを考えた。


(ここを出たら、どうしたらいいんだろう?どこかで働く?……絶対に嫌よ!今まで自分が馬鹿にしていた()()達にペコペコ頭を下げながら、朝から晩まで働くなんて絶対にしたくない!)


 今のリアージュには爵位も領地も家もお金もない。あるのは自分の体と、亡くなった母親の形見である、白いリボンだけだった。リアージュの覚えている前世の記憶でも働いた記憶は一切ない。今世のリアージュも働いたことがないし、今後も働きたくないとリアージュは思っている。


(そうだ!このリボンを売って、そのお金で身綺麗になったら、私をお嫁さんにしたいと男達が群がってくるはずよ!だって、私は前世とは違って、今世では美少女なんだもん!イケメンのお金持ちと結婚して、玉の輿に乗れば働かなくてすむ!ああっ、私って、賢ーい!!生前、母親は家の金庫に、このリボンを入れていた。きっと高額で売れるはずよ!)


 これを売れば何もかも上手く行くだろうと、リアージュは白いリボンを見つめた。


(あれ?リボンの端がほつれてる?え~、ほつれてたら、高く売れないかもしれない。嫌だな~、私、裁縫なんて面倒くさいから、やりたくないし……そういや、あの煩い母親が、このリボンは年代物だって言ってたような……。ん?中に何か書いてある?何だろう、これ?あっ!もしかして、宝物の地図的なことが書かれていたりして!!)


 リアージュは普段のがさつさを、苦労して押さえ込み、母親の形見のリボンの端を纏っている糸を解いていく。全てを解いた後、牢屋にある小さな窓から差し込む月明かりにリボンを透かせた。ただの白いリボンだと思っていたが、リボンの端を纏っている糸を解くと、リボンの内側に何か小さい字が、白い糸で刺繍されていた。


「えっと……うん、読めるわね。何が書いてあるのかな?お宝かしら?そうだったらいいなぁ。えっと……【へディック国に滅亡の危機が訪れるとき兄弟は再び集う。ヒィー男爵家は国を救うための真実を王に伝える者。古き血の盟約に導かれ、真実の口を持つ者のみに城の扉は開かれる】……何、これ?何か中二病臭い言葉。意味わかんない!」


 文字を透かし読むリアージュの脳裏に、亡き母親の言葉が蘇ってきた。


【王の資質を持つ三男は、始祖王に。

 王を頭脳で補助する才女の末妹は、シーノン公爵に。

 王の目となり、真実を伝える長兄は、ヒィー男爵に。

 王の手足となり、支えるために次兄は、名と心と姿を捨て、影の一族に】


 リアージュは亡くなった母親が大嫌いだったので、母親の思い出は、あんまり思い出さずにいたため、その声を思いだしただけで、顔をしかめた。


(本当に口うるさくて、嫌みな女だった。事ある事にウチは王家の遠縁の血筋だからって……ん?)


「そうよ!ヒィー男爵家は始祖王の長兄が婿入りしてきたって言ってたじゃん!王家の血よ!私は本当の”お姫様”なのよ!やったじゃん!一生タダ飯……どころか贅沢三昧じゃん!人生勝ち組よ!何で今まで思い出さなかったんだろう!


 そうよ、王家の遠縁なら、王族と親戚じゃん!親戚なら、父親に捨てられた憐れな美少女を優しく迎えて世話してくれて、一生養ってくれるはず!それに王なら貴族院にも働きかけて、私に男爵位を返してくれる、ううん!公爵位をくれるはず!そしてそして王子様と結婚させてくれるはずよね!うん、きっと、そうよ!だって私はこんなに可愛い”お姫様”なんだもん!」


 リアージュは自分の冴え渡る頭脳に自画自賛した。そして次の日、収容所から出たリアージュの目の前に信じられない風景が広がっていた。


「?え?あ、あれ……僕イベで見た城じゃん!ちょっと……だいぶ色が黒ずんでいるけど、赤い……城!え!?どういうことよ?やっぱり、ここは僕イベなの?一体どういうことなのよ!」


 収容所の門を出たところから、遠くに見える城は僕イベに出てくる城にそっくりだった。ゲームでは、宝石のルビーのように綺麗に輝いていた赤い城だったけど、ここでは血が乾いてどす黒く変色し、まるで悪い魔王でも住んでいるかのように、おどろおどろしい印象を与えたが、あれは前世のリアージュが何度もゲーム内で訪れた、僕イベの城だった。


「こ、これは……ミグシリアスの復讐ルート!?一体どういうことなの?()()()()()()()()()()のに!?」


 リアージュがクリアした僕イベの9つのルートで、赤い城が汚れた色合いのスチルが出てくるのは、ミグシリアスの復讐ルートだけだった。リアージュは生唾を飲んで、目を見開いた。


(これって、も……もしかして、この世界は僕イベのミグシリアスの復讐ルートに酷似した世界ってこと?ちょっと待ってよ。復讐ルートで戦争なんかになったら、カロン王が殺されてしまう。私を養ってくれる王がいなくなったら、贅沢なんて出来なくなる!と、とりあえず、情報を集めなきゃ!私の人生勝ち組の”お姫様”生活のためにも!!)


 こうして自分自身の人生勝ち組の生活を送るために、リアージュは動き……、王子達の前に白い布を額に巻き付けたピンク色の髪の者が現れたのは、8月のカロン王の誕生日祝いのパーティーだった。



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