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悪役辞退~その乙女ゲームの悪役令嬢は片頭痛でした  作者: 三角ケイ
”僕達のイベリスをもう一度”~5月
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※”名前なき者達の復讐”最終章の始まり~4月5月④

 ”名前なき者達の復讐”の名前なき者達とは、”僕のイベリスをもう一度”という乙女ゲームではモブの存在である”仮面の先生”や”影の一族”や”大司教”のことであり、この現実の世界においては、ナィールやセデス達やシュリマンのことを指し、確かにナィールやシュリマンを最初に動かしたのは復讐心だったが、10年前から彼等は復讐よりも国を救いたいと考えるようになっていた。


 何故なら……それまで、この国を守っていたのは、彼らの敵である王家ではなかったからだ。この国を守っていたのは、ナィールが一生をかけて仕えたいと心底思っていた親友の心正しき公爵だった。この国を守っていたのは、教会が傲慢で意地悪な貴族達に媚びなくてもいいくらいの寄進をくれて、礼を言いに行ったシュリマンと神子姫エレンを暖かくもてなしてくれた誠実で家族思いの優しい公爵だった。この国を守っていたのは、ルナーベルの心を救い、ルナーベルの世界一大好きなアンジュリーナを幸せにしてくれるはずの叔父だった。


 この国を守っていたのは……政治を放り出しているカロン王の代わりに持病を抱えながらも、生真面目に執政を行って国を守り続けていたイミルグラン・シーノン公爵で、彼の持病を治そうとした者達が興した商会の薬のおかげで、国内外の多くの民達の命も守られていた。


 ……でも、この国は10年前に、その人を失った。


 彼らの敵の王家は、国を大事にしていない。国民を大切にしていない。王は悪政でますます国を困窮させていく。王を守るのは取り巻き貴族達に大勢の怪しげな集団。王は城から一歩も出なくなり、沢山の武器を購入するようになった。この10年間でカロン王の回りは、後ろ暗い者達で溢れかえっていた。


 そこでナィールは隣国の軍隊に入り、いざという時は民を守ってもらおうと考えた。闇に通じる義賊的悪党達と手を組み、仲間に引き入れ、ありとあらゆる手段を使い、心ある貴族達を国外に逃がし、ナィールの師が育てた忍者集団の”銀色の妖精の守り手”を親友の元に向かわせ、出来るだけの民を逃がした。


 ナィールの親友は、”銀色の妖精王”と呼ばれる賢者になっていて、ナィール達に民衆を自分達の味方につけることが出来る作戦を授けてくれた。今の国に残っている貴族は、民衆を同じ人間だと思わない冷血漢ばかりだったので、民の生活には興味がなかったから、その作戦は、作戦だと全く気づかれることなく、7年目を迎えようというころに敵はようやく、それを怪しみ始めた。シュリマンは、敵の目をそらせて、作戦を続行させるために、ある秘策を考え出した。


 彼らの仲間であるルナーベルを敵の息のかかった場所に送り込んで、そこで敵の目を引きつけておいてもらおうというのだ。


 ルナーベルはカロン王のせいで、修道女になったし、お腹の体質の事で貴族達に笑われた過去があるので、カロン王や貴族への謀反の疑いがあると、敵は警戒するだろうから、味方の作戦から敵の目をそらせることが出来るはずだと、シュリマンは提案した。


 ナィールは、それに苦虫を噛みつぶしたような表情になった。シュリマンの考えた秘策以上に良い方法が思いつかなかったのと、そんな危険な場所へ、お人好しで優しいルナーベルを送り込みたくなかったからだ。


 ルナーベルは、カロン王や貴族達を自分のことでは全く恨んではいなかったのだ。ただ彼女が思っているのは、アンジュリーナの家族を奪ったカロン王に怒りを感じ、その病気を治す手立てがなかったことを憂いているだけなのだ。悩むナィールの背中を押したのは、親友の妻から授かった不思議な予言だった。


 《カロン王はイミルグランの娘が学院一年生になり、彼女が16才になるその日に、へディック国の国立学院の卒業パーティーに出席するために現れる》


 この予言を現実のモノにするためには、もう2つの条件が必要だと親友の妻は言っていた。


 《学院の”保健室の先生”は、()()()()()()()()()()()()()()でないといけない。学院の”剣術指南の先生”は、()()()()()()()()()()()()でないといけない》


 ナィールは学院が男女共学となり、平民クラスが出来るときに色々と手を尽くしていたから、ここならルナーベルを、貴族からも王族からも守ることが出来る環境が、すでに整っていた。


(まさか、あいつの奥方は、この事も見越していたのか?とにかく俺はルナーベル嬢を巻き込む以上、絶対に彼女を全てから守ってみせる!!)


 ナィールはルナーベルに、男女共学が始まり、確実にカロン王が学院に来る情報が欲しいからと言って、何も知らないルナーベルに”保健室の先生”になってほしいと頼んで、自分は彼女を守るために”剣術指南の仮面の先生”になった。


 そして月日が経ち、この4月からナィールの元へ、溢れかえるような情報が次々と耳に入るようになった。その光景は何とも奇妙で、何とも有り難いものだった。


 ヒィー男爵令嬢を叱責する言葉、窘める言葉、忠告する言葉、嫌みを言う言葉、悪口を言う言葉に紛れて、色んな貴族の口から飛び出してくる情報は、カロン王の取り巻き貴族の正体や護衛集団の正体だったり、へディック国の上下貴族の誰が敵側で誰が味方かだったり、また敵はどうやって、隣国に戦争を仕掛けようとしているのかとか、こちら側の情報をどこまで掴んでいるのかとか……さらには囮であるルナーベルのことをどう考えているのかまで赤裸々に彼らの口から出てくるのに、話している彼らには、その自覚も記憶もないのだから、その奇妙さは怪異とも言えたが、ナィール達には本当に有り難いものだった。


『カロン王の一部の取り巻き貴族達の正体は、北方の国のとある男爵令嬢が自分の国を救ったときに、逃げ出した腹黒大臣達だ。北方は貧しかったから、彼らはとにかく食い意地が張っている』


『カロン王の護衛集団は、元々ナロン王の妃の実家から送り込まれた集団だが、この集団の長の先祖はへディック国を建国した4兄弟に、国を追い出された異母兄弟だった。護衛集団は酒の肴に目がない』


『カロン王の一部の取り巻き貴族達の正体はナロン王の弟が、ある国を救うために戦ったときに、逃げ出した大臣とその残党達だ。彼らは最先端の流行物に弱い』


『護衛集団の下っ端は、この10年で力を増した3つの大国にいられなくなって、この国に逃げてきた悪党達だ。彼らは贅沢な物を何よりも好む』


『カロン王の取り巻き貴族や護衛集団は、ここ10年の教会の動きを警戒している。”大衆劇”に心酔する民達を扇動し、国に戦を仕掛けるのではないかと、ルナーベルを3年前から見張っているが、怪しい動きが全くないので、敵は皆、困惑している。ここで一気に警戒を解けば、ルナーベルを救うことが出来るだろう』


『ルナーベルは陰日向なく学院生達に尽くしていることで多くの上下貴族達や、敵の息子達に好意を持たれている。もうあまり時間が残されていない。早く彼女を学院から救出しないと、彼らが攫って妻にしてしまうだろう』


『カロン王は優しい侯爵令嬢を自分のモノに出来なかったから、貴族達に”社交界の鳴き腹”と呼ばせ、彼女を修道女にし、他の者の手に落ちるのも許さなかった。そしてさらに学院に彼女を隠し、学院法で彼女を縛っている……と、彼らに思われている。ルナーベルに惚れている一部の敵達による内部亀裂が深まってきた。醜い敵の内部争いに修道女を巻き込む前に、彼女をもう一つの物語の元へ届けろ!』


 この4月と5月で沢山の情報を得たナィールは、いつルナーベルを救出したらいいのだろうかと悩んでいた。





 ナィールは弁護士としての仕事を終えて、その施設を出て、学院に戻るために馬車に乗っていた。ナィールは”学院保健会”を終えて、ぞろぞろ出てきた貴族達が、まだ意識を失っているヒィー男爵令嬢が担架に乗せられて馬車で運ばれているのを見て、思わず彼女に向かって暴言を吐く姿を思い出していた。彼らがヒィー男爵令嬢に向かって言っているのは誹謗中傷のはずなのに、ナィールの耳には、やはり違う言葉が聞こえてきたのだ。その罵声が飛び交う中に、紛れていた重要な情報の数々をナィールは反芻させていた。


『この茶会の騒動で、ルナーベルへの疑惑は完全に払拭されたが、ルナーベルの美しい心が知れ渡ってしまったことで、敵はルナーベルを本気で好きになってしまった。彼らはルナーベルを奪おうと本格的に動き出すだろう。夏休みが始まる前に急いで対策を取れ!』


『敵は自分達の勢力を大きく削いだヒィー男爵家を恨み、親子の命を狙うだろう』


『ルナーベルを狙っているのは、取り巻き貴族や護衛集団の息子達だ。彼らは命の恩人のルナーベルを聖女と崇めて、カロン王の退位を画策しだすことだろう。早く救出しなければ手遅れになる!』


『敵は王の血に3度も邪魔をされて、この国を奪うことが出来なかった。大きな戦力を失ったので、彼らの悲願は達成されるのに、また時間がかかるだろう』


『カロン王を取り巻く悪達は、王の血により、その勢力を大きく削がれて、世代交代がされようとしている。その前に敵を砕け』


 他にも色々言っていたが、それを言っている貴族達も、回りで聞いているはずの貴族達も、それに気づいていない状況を見て、ナィールはヒィー男爵令嬢の逸材さを少しだけ惜しみ、その力を……とても恐れた。先ほどは猿轡を咬ませていたというのに、ナィールは言うつもりのない言葉を口にしてしまった。ナィールは油断していた自分を激しく悔いた。


(これがヒィー男爵令嬢の才能なのか……?なんて凄まじい才能だろう。惜しい才能だが、俺はルナーベル嬢を陥れようとした者は許さない。それに彼女も大勢の貴族に嫌われている中で、これからも貴族の世界で生きるのは辛すぎるだろう。奴らに恨まれて命を狙われているなら、彼女は貴族を辞めたほうがいいだろう。平民として生きるのは、貴族だった彼女には、とても大変なことだろうけど、死ぬよりはいいだろうし……)


 ナィールは馬車に揺られながら色々と考え、馬車を降りた後、学院に向かった。ナィールの次の計画は”菫の聖女”の救出だ。学院の正門の前では、寮監親子とコック達と若先生がナィールの帰りを待っていた……。

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