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悪役辞退~その乙女ゲームの悪役令嬢は片頭痛でした  作者: 三角ケイ
”僕達のイベリスをもう一度”~5月
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※”名前なき者達の復讐”最終章の始まり~4月5月①

 ”僕のイベリスをもう一度”のミグシリアスの2つ目のハッピーエンドは僕イベのファン達に”復讐エンド”と呼ばれている。


 ヒロインがミグシリアスの復讐エンドのルートに入ると、自分が実は王の隠し子だと気づいたミグシリアスが、自分が産まれる前に王が母を捨てた事実を知り、そのせいで母の心が壊れたことを悟った彼は王を恨んで復讐を考えているというエピソードがスチルムービーで語られる。


 そのスチルムービーでは、前王の時代に王家に陥れられ、多くの仲間を殺されて復讐を考えている影の一族が実はシーノン公爵家の使用人となっていたことが判明し、シーノン公爵となったミグシリアスが彼等を使い、前大司教であった父親を前王に殺された大司教やミグシリアスの母を慕っていた、ミグシリアスの後見人の弁護士を味方に引き入れ、公爵家の隠し資産を使って、隣国と戦争を起こし、その混乱に乗じて王家を転覆させたと語られた後、ヒロインは戦争で傷ついた国土にミグシリアスと並んで立ち、国を立て直すために血塗られた王となる彼をヒロインは王妃として支えていく……という、乙女ゲームらしからぬエンディングを迎える。


 この乙女ゲームらしからぬ復讐の物語は、僕イベが元々復讐ゲームだったときの名残で、スタッフ達の裏設定によると、自分の愛していた女性を王に殺されたことを恨んでいた弁護士の男が復讐計画の本当の黒幕だったのだと記されていた。


 裏設定によると弁護士の男は公爵家に顧問弁護士として入り込み、亡くなった女性の息子であるミグシリアスを公爵の養子にした後に彼に母親の死の真相を語り、母親の復讐を決意させる。ミグシリアスの同意を得た後は、王家に近づくために弁護士は公爵を唆せて、公爵の娘を王子と婚約させ、その後に公爵を病死に見せかけて暗殺し、公爵家の実権をミグシリアスに握らせる。そして公爵令嬢の義理の兄となったミグシリアスが王子と親しくなった頃合いに、邪魔になった公爵令嬢を無実の罪で婚約破棄させ、父親と同じように彼女を暗殺する。その後ミグシリアスに公爵家の私財を使わせ国中を巻き込んで戦争を起こさせ、王家を潰し、国を奪うことで弁護士の男は復讐を成し遂げる。


 この裏設定が表立って明かされなかったのは、あまりにも恋愛を楽しむ乙女ゲームには相応しくなかったからで、ミグシリアスの復讐ルートに限って言うならば、そのルートの真の主人公はヒロインの”あなた”ではなく、名前も素性も明かされることのないモブの弁護士の男こそが”復讐エンド”の隠れた主人公であると言える。そして、この復讐ルートに限り、プレーヤーが扮するヒロインは男の復讐を手助けする()()でしかないとも言えた。


 金の神によって、”僕のイベリスをもう一度”という乙女ゲームが、この世界に再現されてしまったが、このゲームには3つの物語が入っていたため、その全ての物語がこの世界に再現されてしまい、”僕のイベリスをもう一度”は独立した3つの物語で構成されたオムニバス形式の”僕達のイベリスをもう一度”という物語に変わってしまっていた。


 ”僕のイベリスをもう一度”と”隠された物語”のヒロインは入学式に出席したイヴであり、未完成だった復讐ゲームが実体化した”名前なき者達の復讐”のヒロインは入学式に出なかったリアージュであるが、先に述べたように”復讐エンド”の主人公はヒロインではなかったので、リアージュは主人公ではなかった。


 ……つまり、この現実の世界においては、王によって恋人を失なうことになったナィールこそが”名前なき者達の復讐”の主人公であったのだ。





 ”名前なき者達の復讐”の主人公となったナィールは、この現実の世界ではカロン王の双子の兄として、この世に生を受けて生まれてきていた。王家にとって双子は不吉な存在であり、ナィールは本当ならば、生まれ落ちた瞬間に処分される運命だった。だがナィールの実母である王妃が自身が産み落とした子が双子であると知った直後、乳母にナィールを託し、密かに城下に逃がしたので、ナィールは生き延びることが出来たのだ。


 養母となった乳母は王家の追っ手からナィールを守るために、王家が迂闊に手を出すことが出来ないシーノン公爵家に潜り込むことを思いついた。幸いシーノン公爵家にもナィールと同じ月齢の神様の子どもがいたため、乳母はシーノン公爵家の乳母として雇われることに成功した。それによりナィールは後にシーノン公爵となるイミルグランと乳兄弟となった。


 ゲーム通りならイミルグランは冷徹で傲慢な公爵子息に育つはずだったが、この現実の世界で生を受けたイミルグランは銀の神の”英雄”の”英雄のご褒美”として魂を召還された者であったために、彼は前世の性質と体質を身に宿したまま転生し、非常に穏やかで優しい男性へと成長を遂げ、その人柄に惹かれ親友となったナィールもシーノン公爵家に潜んでいた影の一族も、イミルグランのことを自分達の”王”として慕ってしまった。


 もしもここがゲームの世界なら仮面の弁護士はシーノン公爵を殺すことに戸惑うことなく暗殺していただろうし、母を失い、皆に忌み嫌われていた孤独なミグシリアスに憎しみと復讐心を植え付けることに何の罪悪感も抱かなかっただろう。だが、ここは現実の世界。ナィールはプログラム通りに動くゲームキャラクターではなく、自分の心を持っている、れっきとした生きている人間だったので、本来の僕イベ通りにすることに強い躊躇いを感じ始めた。


『しがない弁護士でしかない自分が、恋人を殺した王家へ復讐するには莫大な資金と権力がいる。それを得るためには()()()()()()()の財力と地位が必要だ』


 生真面目で努力家で優しくて……実は不器用なイミルグランを、自分が傍について一生支えて守ってやろうと決めていたほどに慕っていたナィールは、何故こうも親友を殺さねばならない方法しか思いつかないのだろうと、そう考える自分自身に驚き、嫌悪した。しかし、その考えしか頭に思い浮かばない以上、それをしなければならないのだという強迫観念に囚われ、仕方なく自分の心を無視し、悪ぶることで平静を保ち、復讐しか考えないでおこうという思いからミグシリアスをシーノン公爵家に送り込んだ。


 ……でも、イミルグランの娘であるイヴリンが”片頭痛”だから公爵令嬢になれないと貴族になることを()退()したことによって、イミルグランも()()()()()()()()退()()()と決め、ナィールはイミルグランを殺す理由を失ったと安堵し、その時にナィールは何かの呪縛……僕イベのシナリオ……から解き放たれたかのような解放感を感じた。


 そしてナィールの愛した恋人の息子であるミグシリアスが、イヴリンの傍にいることで人間らしい感情を持つようになり、育て親の自分に刃向かってまで愛しい人達を守ることを選んだことを知ると、自分の血塗られた復讐に彼を引き込むよりも、我が子のように思っていたミグシリアスが幸せになる方が良いとナィール自身が強く思い、そのためにはどうすればよいかナィール自身が考え、彼らの死を偽装し、国外に逃がすことにしたナィールは、復讐に囚われる心から……金の神の再現させたゲームの強制力らしきものから……完全に解放され、自分の復讐よりも国を……自分の親友が守っていた国民を救うことの方が大事だと思うようになっていった。


 だから、その後の10年近く、ナィールは復讐のためではなく、民を救うために仲間達と色々と暗躍していたのだが、国を衰弱させていった者達を追い詰める決め手を掴むことは、この10年間どう頑張っても出来なかった。





 乙女ゲームというものの存在を知らないナィールは、”僕のイベリスをもう一度”などというゲームがあることも知らなかったし、神様達がナィールの生きる世界に物語を再現させていることも他の人間達同様(一部の人間は除く)知らなかった。だから自分が神様が選んで再現させた、僕イベのキャラクターの仮面の弁護士だということもナィールは知らなかったし、ましてやミグシリアスの復讐ルート限定の主人公だということも……当然知りようもなかった。


 知りようもなかったが、僕イベの”名前なき者達の復讐”の主人公となったナィールの前に”名前なきあなた”が現れ、ナィールと彼の仲間達が、この10年間どう頑張っても掴めなかった決め手を掴むことに成功することが出来たのは、間違いなく”名前なきあなた”のおかげだった。……だがナィールも彼の仲間達も僕イベを知らなかったので”名前なきあなた”が……ヒィー男爵令嬢が、とても優秀な”道具”として、いつも彼らの大きな手助けとなっていたのか理由がわからなかった。


 乙女ゲームにかかわらず、ギャルゲームや所謂、ロールプレイングゲームと呼ばれるゲーム内では、ゲームプレイヤー=主人公が《話す》という選択(コマンド)を選ぶと、《話す》相手となった者が、ゲームを攻略するヒントや、ゲーム内での大事な情報や、その他諸々の情報を、聞いてもいないのにモブの彼らが教えてくれるというセオリーがあることを……ナィール達は知らなかったからだ。


 ……そして”お姫様”は僕イベのヒロインとしてヒィー男爵令嬢に転生していたが、金の神の見たい物語の”英雄(主人公)”になることを拒み、入学式に欠席していたので”名前なき者達の復讐”の”名前なきあなた”というモブになっていたことに気付いていなかった。


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