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悪役辞退~その乙女ゲームの悪役令嬢は片頭痛でした  作者: 三角ケイ
プロローグ~長いオープニングムービーの始まり
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シーノン公爵家に起きた2つの事件④

 ミグシリアスは、真っ直ぐシーノン公爵の目を見て言った。


「すみません、シーノン公爵!俺、頑張ってあなたの後継者になれるようになったら、イヴリンの婿養子になりたいって言おうと思ってたんです!!


 俺……始めはイヴリンの義兄になるのが、とても嬉しかった。可愛くって、頑張り屋で、すごく優しいイヴリンが俺の義妹になる……。そう思うと胸の中が温かくなって、すっごく幸せでした。一生イヴリンを守って、イヴリンの一番傍にいられるなんて、何と幸せなことだろう!今まで辛いことばかりだったけど、生きていて良かった!……と思っていたんです。


 でも俺……、どんどんイヴリンを好きになっていくんです。毎日、毎日イヴリンを好きになるんです。イヴリンが笑ってると俺の心の中がポカポカしてくるんです。イヴリンが辛そうだと俺は、いてもたってもいられなくなるんです。俺、セデスさんに聞きました。後、ここの顧問弁護士にも……。


 王はシーノン公爵の()()()()()()……イヴリンが無事に5才になって、神様の子どもから()()()()になれたら、沢山いる王の息子達に引き合わせて、イヴリンが気に入った王子を第一王太子にして、イヴリンを()()()()()()()()()にしようとしていると……。


 将来イヴリンがシーノン公爵家を出て行くと知って、俺は愕然としました。わかりきっていたことなのに……。イヴリンを余所の貴族に嫁がせるために俺はシーノン公爵家に養子にきたんだって、わかってたのに……、すごく俺はショックを受けたんです。


 俺……、俺は……、イヴリンをどこかの男に嫁がせるなんて嫌なんです!そう考えるだけで身震いするし、ゾッとする!俺以外の男がイヴリンの一番近くにいて、イヴリンに一番笑いかけてもらえて、一番沢山の愛の言葉をイヴリンに囁かれるなんて想像するのも嫌だ!!


 イヴリンが辛いときや()()()で苦しんでいるとき、一番に気づいて助けるのは俺でありたい!イヴリンが助けてと手を伸ばす相手が俺じゃないなんて許せない!……例え、それが王子様でも俺は耐えられない!!


 ……俺の、この気持ちは、もう……兄の気持ちではないでしょう、シーノン公爵?俺はイヴリンの義兄なんかでは、もう満足できなくなったんです。俺……こんなにも自分が欲深かったんだって、イヴリンに出会って気づきました。


 だから……。だから俺は、あなたにイヴリンと夫婦になる許しを得てからあなたのことをお義父様と呼びたいって思ってて……。俺は……これからも親子3人で仲よく暮らせたらって思っていたんです!」


「ミグシリアス、君もしかして幼「幼女趣味じゃありませんよ!今のイヴリンと今すぐどうこうするなんて考えてもいませんよ!イヴリンが大人になるまで俺は待ちます!待たせて下さい!イヴリンに選んでもらえるように、これからだって勉強だって剣だって、何だって頑張って、あなたみたいな立派な男になってみせますから!……それにシーノン公爵だって、()奥様とは10才差だったじゃないですか!10才差なんて、貴族ではよくあることですよ!」


「……そ、そうだな」


 ミグシリアスは言い終わると声を荒げた自分を少々照れくさく思ったのか、頬を紅潮させつつ、シーノン公爵に言った。


「俺……、俺はあなたも好きです、シーノン公爵。あなたは俺を蔑まない。あなたは他の人間みたいに俺を忌み嫌わないで、実子のイヴリンと変わりなく、とても俺によくしてくれた。あなたは俺の将来なりたい理想の男で理想の父親だ。俺はここに来て、イヴリンやあなたやセデスさん達と暮らせて、本当に良かったと思ってます。だけど、ここにいることでイヴリンが苦しむなら、俺はイヴリンを守るため、ここからイヴリンを連れ出します」


 ミグシリアスの発言に驚いて、イヴリンの告白の衝撃を忘れかけていたシーノン公爵は、隣で涙を流して、しゃっくり上げているイヴリンの鳴き声に気付き、イヴリンを見て動揺した。


「……ヒック、……ヒック、父様。父様、我が儘を言ってすみませんでした。貴族に生まれて、その恩恵に4年も甘えておきながら、……ヒック……公爵令嬢の責務を片頭痛で満足に果たせないからと……ヒック……、ヒック、じ……辞退しようとしましたが、撤回します。


 ……だから、そんなに眉間に皺を寄せないでください、父様。父様()頭が痛いんでしょう?父様も頭が痛くて辛いけど、お仕事を頑張っているのに、弱音を言って本当にごめんなさい!父様が辛そうなお顔をされたら、私まで辛くなるんです。


 ヒック、ヒック……ミグシリアスお義兄様、私もミグシリアスお義兄様が大好きです。でも、お気持ちは嬉しいのですが、私は()()()()なんです。この間のおもてなしも最後に倒れてしまったでしょう?ミグシリアスお義兄様と結婚しても、まともに妻として働けるかわかりません。ヴ~、ヒック……お義兄様は、お父様の後を継げるだけの、とても優秀で素敵な方なんですから……、ヒック……ヒック……、私よりも、もっと素敵な女性を娶って下さい。本当に二人ともごめんなさい!」


 そう言った後、ヒ~ン……と小さく泣き出してしまったイヴリンに、シーノン公爵とミグシリアスは言葉を無くして、その日の話し合いは終わってしまった。イヴリンが泣きすぎて頭が痛いと訴え、何か言いたげなセデスの無言の糾弾を無視して、マーサにイヴリンを寝かしつけるように命じた次の日の今日、イヴリンは、また熱を出して寝込んでしまったのだ。


 ミグシリアスは看病をしながら、ずっと何かを思案しているようだとセデスから報告があった。あの足音をたてずに歩く少年ならイヴリンが元気になった途端、一切の証拠を残さずに連れ去ることは、難しいことではない気がする。


 彼にあの歩き方を教えたのは多分、あの弁護士だろうから……。自分の乳兄弟で、同じ師に武芸を習ったあいつから習ったのなら、彼もまたセデス達と同じ……。





 怖い物見たさで、シーノン公爵の仕事部屋にやってきた王は、今朝見たときよりも、さらに怖い顔になっている公爵に理由を尋ね、娘が熱を出していると答えると同情した表情になった。


「しかしお前の()()()()()()は、本当によく熱を出すな。いくらこの国の子どもは弱いと言っても、ちょっと熱を出しすぎじゃないか?5才になる前に亡くなってしまいそうな頻度じゃないか?……すまん、言い過ぎた。謝るから睨まないでくれ!お前の本気の怒り顔、死ぬより辛いから止めてくれ!お前の子はお前と同じで体が弱いのかもしれないな……。お前も学生の頃から熱もないのに、よく頭を抑えていたが、本当に親子は似るんだな。……ったく、私の息子とお前の娘を結婚させて、お前に私の仕事をもっとしてもらいたいのに……」


 王とシーノン公爵は同級生だったので、昔の事を思い出しながら王はこう言ったのだが、シーノン公爵は、王の言葉の前半部分を耳にするなり、雷に打たれたように椅子から立ち上がった。


「うわっ!!もう、急に立つなよ!驚くじゃないか!」


()()()()()()……?私と……。そうだ、私も昔から頭が……」


 非難の声を上げた王は、切れ長の目が極限まで見開かれたシーノン公爵の様子にたじろいだ。


「どうしたんだ、お前?……ああ、奥方のことで相当まいっていた所に、また娘の病だからな。お前が追い詰められて、さらに気に病むのは当然か。ああ、そうだ!明日から7日間休め!この状態のお前に私の仕事は出来そうもないし、それならお前がここにいてもいる意味が()にはないからな!昨日だって休めといったのに休まなかったし、どうせ一週間分仕事ないんだろう?これは王命だからな!ゆっくり休めよ」


 顔面が青を通り越して白い顔色となって、まるで死人のように動かなくなってしまったシーノン公爵の様子に王は狼狽え、7日間の登城禁止を言い渡して、逃げるように部屋を出て行った。





 シーノン公爵が身辺整理や財産分与などの一切を済ませた状態で、王の下に訪れて、爵位と領地を強引に返還したのは、その7日後のことだった。引き留める王を振り切って馬車に飛び乗って、親子で北方にある療養施設を目指した先で事故に遭い、シーノン公爵と彼の神様の子どもは……還らぬ人となった。

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あっ、主人公親子がいきなり死んだっ!
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