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悪役辞退~その乙女ゲームの悪役令嬢は片頭痛でした  作者: 三角ケイ
”僕達のイベリスをもう一度”~5月
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ルナーベルとヒィー男爵家の茶会③

 茶会に訪れた男性達は休息所にいたルナーベルを見て、”社交界の紅薔薇”と呼ばれていたアンジュリーナと瓜二つの容姿を持つルナーベルの衰えのない若々しい美しさに驚き、吸い寄せられるように近づくと熱のこもった視線で話しかけてきた。


「何てお若い!ルナーベル()ですか?まるであなた様だけが、時が止まっているかのように若々しいままではありませんか!?二十代にしか見えませんよ!ああ!何ということだろう!私は先見の明がなかったようですね。私の選んだ妻なんか、イデッ!おい、誰だ!?扇子で私の頭を叩くのは……、あっ!……なんだ、お前か。いつの間に、そこに……ってイデッ!わ、悪かった!謝るから、そう叩くな!!」


 妻に扇子で叩かれている男性を脇に追いやり、他の男性達も皆、顔を赤らめながらルナーベルに声をかける。


「ルナーベル()、還俗は考えておられないのですか?今の私は妻に先立たれていて……、もう世継ぎもいますし、今なら政略結婚ではなく純粋に恋愛結婚が出来るのですが……」


『あの、すみません!!』


 ルナーベルは休息所に群がってくる紳士淑女達に向かって、声を張り上げた。


『お声を掛けて下さっているところ申し訳ありませんが、ここは休息所です!ここは気分が優れない方や、体調が悪い方が休息するための場所です!体が大丈夫な方は申し訳ありませんが、お引き取り下さいませ!!休息所で休まれたい方々のご迷惑になります!!』


 ルナーベルの凜とした声が響く。元侯爵令嬢である修道女のあまりの美しさに我を忘れていた貴族達も、この場所が何のための場所だったのかを思いだし、慌てて謝罪をし出した。


「「も、申し訳ありません、ルナーベル()!」」


「「皆様のお邪魔をして、すみませんでした!!」」


 休息所の回りにいた者達は、毅然としたルナーベルの物言いに尊敬の眼差しを送り、中には小さく拍手をする者達もいた。ルナーベルはそんな周囲の視線に眉をヘニョと下げて気まずそうに会釈をすると、体調を崩した者達を休息所に招き入れた。


 昔のままの大人しいルナーベルなら、こんな大声は出せなかっただろうし、大勢の人にハッキリと自分の意見は言えなかっただろう。でも今のルナーベルは()()()()()()()()()”保健室の先生”を頑張ってきた結果、体調を崩した者を労り守る責任感に目覚めていた。


 気弱で臆病だった少女は”誰かを守るためなら強くなれる”……そんな優しい女性へと成長を遂げていた。……遂げていたのだが、休息所に詰めかけた大勢の人を何とかしようと考えて緊張していたルナーベルには、自分の美貌を称えたり口説こうとする者達の言葉は、やはり()()()()()()()()()。ルナーベルは先ほどの自分の行動に内心驚き、戸惑っていた。自分の思っていることをあんなに大声で言ったなんて、自分でも信じられないとドキドキと胸の音が早まっているのを自覚した。


(こ、怖かった……。あんなに人がいる前で大声を出すなんて生まれて初めてだわ。ああ、でも、ちゃんと……ちゃんと言えたわ、アンジュリーナ!言わなきゃいけないことを言えた!アンジュリーナみたいに私は言えたわよ!私一人でも、ちゃんと言えた!……うん、大丈夫!今日は休息所の責任者として、ちゃんと頑張れるわ!そうよ!ここに来る人を守れるのは私だけ!小さかったアンジュリーナがしていたことだもの。私だって大人なんだし、何と言っても私は”保健室の先生”なんだもの!休息が必要な人のために、私は頑張るわ!)


 ルナーベルは先ほどの自分は中々に頑張れたのではないかと内心喜び、休息所を本当に必要としている者達を中に迎え入れた。中に入ってきた者に先ほどは煩くしてごめんなさいと一言詫びを入れると、皆は青い顔色で力なく微笑んで、詫びは要りませんと言ってくれた。


 ヒィー男爵はルナーベルの助言を素直に聞き入れて、学院長に校医の助力を頼んでいた。なので茶会の始まる10分前には、若先生が休息所に駆けつけてきていた。若先生は休息所に来た彼らの様子を診て、皆は病気ではないと言い、ルナーベルも若先生に同意した。彼らの不調は大きな茶会や夜会ではよく見られるものだったので、その対処方法をルナーベルはよく知っていたから、若先生にはそのまま休息所にやってくる貴族達の診察をしてもらい、ルナーベルは診察が終わった者を介抱するために動き出した。


 ルナーベルは女性達のコルセットを緩めるために衝立の向こうでペンチを使い……淑女達のコルセットは相当きつく絞っていたので、時にはハサミで紐を切ったりもしなければならなかった。また人混みや香水の匂いで気分が優れない者には、冷水やミントティーを飲ませたり、出来るだけ匂いが届かないように休息所に来た淑女の扇子を借りて、それを使い、扇いであげたりと忙しく働いた。ルナーベルの献身的な介抱のかいがあって、休息所に来た紳士淑女達の顔色も段々良くなり、体が楽になってきたのか、彼らはポツポツと言葉が出てくるようになり、お互いの体の話をし始めた。


「何だか最近顔が脂ぎってくるし、体重もドンドン増えて、少し歩くだけでも息切れがしてきますの」


「私もですよ。最近の流行のアレを食べていたらドレスが着られなくなってきて……」


「僕は揚げ物を食べた日は夜も眠れないし、ずっとこの辺り(胃)が重くシクシクと痛んで、辛いのに医師には”気のせい”だと言われるんですよ」


「そう言えば……この一、二週間で多くの貴族が亡くなられていますから、あなた様も気を付けられたほうがよろしいですわよ。一人、二人ならば不慮の死か、不幸な事故かもと思われるでしょうが、この一、二週間で数十人単位で相次いで亡くなられていますからね。……もしかしたら、また流行病かも知れませんわ」


「実はね、ここだけの話なんですが、僕は城勤めをしているんですがね。あのカロン王の取り巻きをしていた上級貴族達が急死した数十人に皆、含まれているんですよ。ここ10年間、ずっと威張っていた彼らが、この5月中旬からバタバタと相次いで亡くなっていくから、もしかしたら彼らの回りで病が流行っているのではないかと執務官達は怯えているんですよ」


「まぁ、怖い。そう言えば、噂じゃ、カロン王の護衛の……あの何だか薄気味悪い集団も最近、すっかり見かけなくなりましたでしょ?あれもね、実は……夫の話によると、あの集団の中の多くの者達も同時期に亡くなっているんですって!もしかしたらカロン王も……危ないのかもしれませんわね」


「なんて恐ろしい!また流行病だろうか?でも平民や貧しい下級貴族達は、誰も死んでいないから変ですよね。普通の病は金がない者から先に死ぬと言われているのに、今回相次いで急死している者は金持ちの貴族……今までカロン王の回りで甘い汁を吸い、贅沢三昧していた人間ばかりが亡くなっているんですから。一体これは何の”奇病”なんだろう?」


 皆、ルナーベルの心のこもった手当てを受け、気持ちが緩んだのか、貴族達は休息所でゆっくりと休みながら気安く噂話に興じていたが、次から次から現れる体調不良の者達の相手をしていたルナーベルには彼らの話に耳を傾ける余裕はなく、彼らの噂話は()()()()()()()()。……ただ若先生は診察をしながらも、貴族達の噂話に耳を傾けていたので、眉間にしわ寄せ、何やら考え込んでいるような表情になっていた。




 茶会が始まって30分が過ぎようというころ、ルナーベルは黙々と冷水やミントティーの給仕を続けていたのだが、慌てた様子のヒィー男爵令嬢に声を掛けられた。


「会場を探してもいないから焦ったわよ!こんなとこにいたのね、ルナーベル!」


「え?」


 振り返ったルナーベルの後ろには、ヒィー男爵令嬢と何故かそろって鼻をつまんでいる生徒会の4人が立っていた。ここは学院なので彼らは教師達や医師達に頼まれているため、渋々言いつけ通りにヒィー男爵令嬢の()()()に徹しているようだった。彼らはルナーベルに会釈したが、ヒィー男爵令嬢は挨拶はしなかった。


 ヒィー男爵令嬢はピンク色のドレスを着て、首にはルビーのネックレスをつけ、足下は真っ赤なハイヒールを履いた姿の千鳥足で、ルナーベルの傍にやってきた。ルナーベルはその姿を見て、とても驚いた。


(まぁ!リアージュさんったら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?)


 ヒィー男爵令嬢のドレスは、とても可愛らしいピンク色のドレスではあったが、こういうフンワリと広がるドレス……プリンセスラインのドレスは、この国では夜会でダンスをするために着るドレスであり、この国の貴族女性達には()()()と呼ばれているものだった。だからルナーベルはヒィー男爵令嬢は夜会から直接来たのだと思い、他の貴族達もルナーベルと同じように思い込んでいた。

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