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悪役辞退~その乙女ゲームの悪役令嬢は片頭痛でした  作者: 三角ケイ
”僕達のイベリスをもう一度”~5月
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ルナーベルとヒィー男爵家の茶会①

※この回からヒィー男爵家の現実の茶会が始まります。リアージュやルナーベルの台詞等、多少違うところがありますが、こちらの茶会が本当の茶会の様子です。



 ルナーベルがヒィー男爵令嬢に茶会の参加を頼まれた次の日から、彼女は実家に戻っていた。ヒィー男爵家からは親子で茶会の差配をするから茶会当日まで娘は学院を不在するという連絡が来たので、親子が仲良しなのはとてもいいことだわ!とルナーベルは思っていた。


 ヒィー男爵令嬢の茶会は学院の中間テスト初日の午前10時に、学院の講堂を借りて行われることが決まった。ルナーベルは茶会に出るために、その日は学院を休まなければならないと思い、前もって学院長に欠勤届けを提出しようとした。すると学院長は学院関係者が貴族の学院生の都合で、その貴族の行事に出る場合は公欠扱いとなるので、欠勤ではなく公欠届けを提出してほしいと違う用紙を渡してきた。ルナーベルは用紙に記入しながら自分がいない間の保健室をどうしようかと考えた。


 いつもなら仮面の先生がルナーベルの代わりに留守を引き受けてくれるのだが、彼は茶会当日は本業の仕事があるため、保健室には来られないと言っていたことを思いだし、ルナーベルは職員の勤務表を確認した後、戻ってくると当日の午前中は保健室の業務が出来ないだろうから、当日は2人の校医に学院にいてもらえるように調整をしてもらえないかと、ルナーベルは学院長に書類を手渡しながら頼んだ。学院長は自分の手帳を開き、若先生の出張や研修がないのを確認し、ルナーベルの頼み通りにしても問題はないでしょうと言って、それを請け負ってくれた。






 ルナーベルは茶会当日の朝もいつも通りに起床しクッキーを作り、学院生のためのクッキーと……念のために余分のクッキーも、かなり多めに焼いておいた。いつものようにクッキーを配り終え、朝食や身支度をした後ルナーベルは8時半を回った頃に寮を出て、講堂前へとやってきた。


(この位の時間なら差配もほぼ終わっている頃でしょうし、皆様の邪魔にはならないでしょう。リアージュさん、緊張されているでしょうね……)


 ルナーベルはヒィー男爵令嬢の言葉を信じていたので、茶会の接待役を初めて行うことにしたヒィー男爵令嬢を心配し、茶会が始まる前に会って、彼女の緊張や不安を少しでも取り除いてあげられたらいいなと思っていた。講堂前ではまだ、何人もの人が激しく出入りをしていた。皆、箒やモップなどの掃除道具を手にしていて、講堂前には茶会のためのテーブルや食器が入っているらしい木箱が山のように積み上げられていた。


(あら?どうして、昨夜のうちに掃除をしておかなかったのかしら?前日に換気をしながら、きちんと掃除を済ませて、テーブルなどの大きな物や数量の確認が必要なカトラリー類や搬入の際に取り扱いに注意が必要な壊れ物の食器類を搬入して、数量や割れ等の確認をしておけば、当日はテーブルを消毒してカトラリーを並べておけば、後はお茶と茶菓子の搬入を待つだけで会場の設置は終わるから、馬車の置く場所や、会場で働いてもらう使用人の当日の動き等の最終確認や他の差配も焦らずに手早く慎重に始められるのに……)


 ヒィー男爵はすでに多額の借金を背負っていたので、学院の講堂を二日間も借りる余裕はなく、前日から借りることを断念し、茶会当日の午前6時から午後3時までの間だけ、講堂を借りることにしたのだが、その事情をルナーベルは知らなかった。


 ……そして茶会が始まる前のここ数日間は何故か武道場は使われることなく、平民クラスの三学年の男子学院生達の体育は全て、この講堂内で行われ、それとは別に仮面の先生による特別講義が連日行われていた。


 《熱血!剣術実践講座》や《要人護衛講座》、《白熱!体術実践講座》等々の将来騎士団を目指すためのより専門に特化した授業や《闘魂!血湧き肉躍る武術道講座》といった体育会系男子が好む、肉体の限界まで体を鍛える燃焼系のモノから《かっこよく見える剣舞の振り付け講座》等の、運動は苦手だが意中の人にはモテたいという者の心理を刺激し、少しでも剣技に興味を持ってもらえるようにとの配慮がされた特別講義は、平民クラスの三学年の男子学院生達の必修講義とされて、それらの時間は体育の時間とは別に、早朝や放課後の時間に設けられた。


 ちなみに、この特別講義の受講は上下貴族クラスの者でも申請書を出せば受講が出来た。その申請書は特別講義の間は貴族・民の区別や特別待遇は認められないことや、その講義を受けている間の怪我や事故の補償等の細かい事前確認を必要とする、一種の契約書であったが、上下貴族クラスの男子学院生達は大喜びでこれらに記載し契約書を交わし、受講することを望んだ。何故なら剣術指南の教師をしている仮面の先生は、貴族よりも騎士団よりも剣術も体術も優れているし、普段は冴えない、しょぼくれた猫背の中年男性にしか見えない彼が、授業の間だけはシャンと背筋が伸び、スラリと背の高い、とてもかっこいい男性に見えたからである。


 なのでここ数日上下貴族クラスの体育会系の希望者達は社交を休み、大喜びで汗水流して鍛錬し、文化系の希望者も社交を休み、必死に剣を振り回し、ヒィー男爵令嬢が社交を休んでいるからと生徒会の4人も加わり……気が付いたら、貴族・民に拘ること無く、上下貴族平民入り交じっての連日の特別講義により、彼らは奇妙な一体感を味わい、身分の垣根を越え、彼らの汗と涙と漢の友情は、全て講堂内で培われていき、またそれらは、全て講堂内に染みこんでいった。そして……その数日間、講堂は全く清掃もされずにいて、彼らの汗と涙は行動に染みこんだままだったことをヒィー男爵親子もルナーベルも知らなかった。


 ヒィー男爵の考えている茶会の段取りは午前6時からの4時間で、会場の清掃や荷物の搬入、会場内の設置等を行い、茶会の用意と茶会に来る貴族達の馬車の誘導と受け付けを行い、10時から12時まで茶会をし、12時から2時間かけて貴族達を帰らせつつ、講堂内を片付けて、貴族達がいなくなってから、荷物の搬出や掃除を午後3時までに終わらせて撤収するという、かなり強引な予定を組み立てていた。


 全ての事情を知らなかったルナーベルは、講堂前の慌ただしい様子に目を丸くして驚いたまま暫く見ていたが、殺気だった雰囲気を感じ取り、自分も何か茶会の用意を手伝った方が良いと思い、講堂内に入っていった。中に入ると掃除を済ませてテーブル等の搬入が始まっていたが、掃除したてで埃っぽい講堂内の空気にルナーベルは顔をしかめた。


(これは……?もしかして換気をしないまま掃除をしたのかしら?ひどい匂いがするし、埃っぽい)


 ルナーベルは茶会の用意をしている使用人達の様子も気に掛かっていた。


(何だろう?皆の動きが不自然だわ。どうしてだろう?何だか皆おろおろして、どう動けばいいのかわかっていないように思える。差配をしているのはリアージュさんのはずよね?彼女は、どこにいるの?)


 ゴタゴタと慌ただしく荷物が次々と搬入されていく中、やはり食器類の割れる音や、フォークが足りないなどの怒鳴り声、菓子屋の茶菓子をどこに置けばいいのかと大声で訪ねる様子を見ながら、ルナーベルは、ヒィー男爵親子を探そうと講堂内を見渡した。


 講堂の舞台近くで何やら大勢の使用人達が集まっていて、姿は見えないが、ヒィー男爵令嬢のいつもの

 乱暴な命令口調の言葉が、その場所から大声で聞こえてきた。


「ああっ!もう面倒臭い!!テーブルなんて適当に並べればいいでしょ!え?カトラリーが足りない?手づかみで食べさせればいいでしょ!ああ、もうイライラする!私、眠いんだから少しは休ませてよ!花なんて適当に花瓶に突っ込んでおけばいいでしょ!あんたら()()とはいえ、何でもかんでも、私の指示待ちって何なの?自分で動いてよ!」


「馬鹿者!また使用人を道具扱いして!何度言ったらわかるんだ!?ああっ、待て、待ってくれ!今君たちに出て行かれたら茶会が!ほら、お前も頭を下げろ!昨日一日休みをやったんだから、眠いはずがないだろう!怠けるのも大概にしろ!時間がないんだ、早く!」


「いやよ!私は今まで一度も謝ったことがないのよ!!誰が平民なんかに謝るもんですか!」


 姿は見えないが相変わらずの親子げんかの声に、ルナーベルは少し心配になった。


(だ、大丈夫なのかしら、あれで……?時間までに間に合うのかしら?……ん?あれ?……休息所は、どこに設置するつもりかしら?)


 ルナーベルは次々と並べられるテーブルの配置を見て、今日の茶会は立食形式で行うのだろうと思いながらも、大きな茶会や夜会では必ず設置されるものが未だに、どこにも設置されていないことが気になった。


(おかしいわ。休息所がないなんて……。こんなに大きな会場での茶会ならば絶対に設置しておかなければならないものなのに……)


 ルナーベルは気になって仕方がなくなり、準備に追われているヒィー男爵の邪魔をしたくはないがと思いつつも彼の所へ向かって行った。ヒィー男爵はリアージュのいるところから離れて、差配が出来ないリアージュに代わり、必死になって差配をしていた。目の下に隈を作りながら、茶会の割れた食器の枚数確認や足りないフォークの買い出しを誰に行かせるかや、届いた10種類の洋菓子をどこに置くのかを、忙しそうに指示出しをしていた。ルナーベルは彼に詫びの言葉を述べてから、休息所を設置する場所を尋ねた。


「ああっ!?そ、それを忘れていました!どうしよう!?あんなに大事なものを忘れてしまっていたなんてどうしたらいいんだ?ああ、もう時間がないのに!!」


 ヒィー男爵はさらに顔色を悪くさせて、頭を抱え出したので、ルナーベルは自分から協力を申し出て、休息所の設置をすることを伝えると、彼は目を潤ませてルナーベルに礼を言った。


「ありがとうございます!ルナーベル先生!!今日は娘の我が儘に付き合っていただいただけでもありがたいと思っておりましたのに、こんなお手伝いまで……本当に、本当にありがとうございます!皆、同情の言葉はくれても、実際手助けなんて誰もしてくれなかったのに、あなただけです!本当に助かります!ああっ、本当に何てお優しい……ううっ……」


「いえ。あ、それとヒィー男爵!後もう一つしておかなければならないことがありますよ……」


 ルナーベルは涙ぐむヒィー男爵に、学院長に頼んで校医を一人ここに派遣してもらえるようにしたほうが良いと助言をした。その後に休職所を設置するためにヒィー男爵の使用人の何人かに頼み、休息所のテントや、衝立、長いす、簡易ベッドを学院の倉庫から持って来てもらうと、講堂内で一番トイレに近い場所に休息所を設置することにした。


(貴族の屋敷ならば、別室を一部屋用意して、休息所として使うけれど、ここは学院ですし、校舎に貴族の皆様を案内する人手もヒィー男爵は用意出来ないようですから、ここが一番適しているでしょう。それに万が一、何か問題が起きたとしても、ここならリーナちゃんに教えてもらった抜け道がありますから、いざという時は病人達をすばやく避難させてあげることも出来ますし……)


 そう考えながらルナーベルは使用人達と力を合わせ、休息所の設置を始めていった。

※ルナーベルは仮面の先生が仕掛けた、大きな失敗フラグを無くしてあげようと動いていましたが、リアージュはその事に気づいていませんでした。

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