表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役辞退~その乙女ゲームの悪役令嬢は片頭痛でした  作者: 三角ケイ
”僕達のイベリスをもう一度”~5月
119/385

大人気の男爵令嬢(前編)

転生ヒロイン(?)らしく、リアージュの前世知識チート炸裂しています……が。

 リアージュは嘘をつき、怠けようとしていたのがバレてしまい、また父親に社交へと連れて行かれた日以来、急に茶会や夜会で人気が出てきて、どこへ行ってもリアージュは大勢の貴族達に囲まれて、褒められるようになった。


「お前、すごいじゃないか!まるで遠い国の食聖みたいだと噂されているぞ!お前は、やれば出来る娘だったんだな!」


「フフフ!今までの私は、本気を出していなかっただけなのよ!ちょっと本気を出せば、ご覧の通り、すぐ人気者になるのよ!」


 扇子を口元に当てて、オホホと高笑いをし始め、笑いが収まらない様子のリアージュに、ヒィー男爵は目を細め、いいところが一つも無いと思っていた娘に、こんな才能があったのか……と、リアージュのことをほんの少しだけ見直したのだった。


(この人気があるうちに、何とか縁談をどこかと結べないだろうか?)


 ヒィー男爵は、藁にもすがる気持ちで、この人気がある間に、リアージュの縁談を決めたかった。


(ヒィー男爵家は、ただでさえ貴族社会での立ち位置の微妙さ故に政略結婚をするのが非常に難しく、代々のヒィー男爵家の当主達の結婚は、全て()()()()だったと昔、私が()()()()で、婿入りしてきたときにいた老執事から聞かされたことがある。


 ……、代々のヒィー男爵家は他の貴族に敬遠される位置をずっと保ったままだから、誰も家と家の繋がりを持とうとしない。ここと縁戚になっても一つも旨みがないから。代々の当主と婚姻する貴族達は、皆、自分の生家と縁戚を解消してから、嫁入りや婿入りをしてきたと言っていた……。


 そうなんだ。ヒィー男爵家は()()()()()、利害抜きで愛情だけで婚姻を結んで、続いてきた不思議な貴族家なんだった……。確かに恋愛感情がなければ、誰もこんな家に嫁ごうと……婿入りしようと思わないだろう。余程の事情が無い限りは……、そう、()()()()には……)


 ヒィー男爵は深いため息をついた。自分の婚姻の理由を思い出して、ヒィー男爵夫人……リアージュの母親を思い出して、苦いモノが喉にせり上がってくるような気分になり、顔をしかめた。


 あれだけ嫌がっていた社交も、皆に褒められている今では、手の平を返したように乗り気になっているリアージュを見て、一日でも長く、この人気が続いて、どこかの誰かが()()()を起こしてくれないだろうかと、ヒィー男爵は願っていた。


(ウチは今、借金まみれだし、何一つ良い所がないのは上下貴族達には知れ渡ってしまっている。誰でもいいから、こんなに口が悪くて、怠け者で、性格がねじ曲がって腐りきっていても、多少の見目の良さと若さとこの人気があるなら……と、少しの間なら、社交の場で話の種くらいには利用価値があると言って、誰か奇特で物好きな貴族が、()()を好いて、恋愛結婚をしてくれないだろうか?


 ああ、10年前に流行病や不作が重ならなければなぁ……。せめて領地の温泉だけでも枯れかけなければ……歓楽街もなくならなかっただろうに……。ヒィー男爵領は、始祖王の時代に始祖王の長兄が婿入りしたことから、王家の遠縁として、豊かな利益が望める領地を賜っていたから、()()()()()()()()()()()()()()()


 金さえあれば、()()()()()()()()、金に困っている男爵家や子爵家に多額の持参金と引き替えに、()()()()()()()()三男か四男を婿入りさせてくれとゴリ押し出来ただろうに……)


 ヒィー男爵が、そんなふうに思っているとは知らず、リアージュは、こう思っていた。


(これで、世のイケメン達のハートは私のモノよ!チョロいわね!やっぱり、男は胃袋を抑えるのが、玉の輿への最短ルートなのよね!)


 リアージュはそう思い、毎日高笑いが止まらなかった。しまいには笑いすぎて、お腹の筋肉が痙攣を起こすほど、リアージュの人気は日を増すごとに増していった。貴族社会で、底辺の大不人気っぷりだったリアージュを救ったのは、前世の世界での料理知識だった。






 リアージュが領地の屋敷に引きこもっている間の食事は、社交界で出される食事とあまり変わらなかった。朝は遅く起きるから何も食べずに、朝10時と午後3時にお茶の時間があり、そこで茶会で食べるような甘いミルクティーとケーキを食べ散らかし、夕食は一人で、肉を中心とした洋食のフルコースを食べていた。


 へディック国の貴族は野菜全般を苦手とし、野菜類は彩りとして、皿の端に添えられるくらいしか出されない。前世のリアージュも野菜が嫌いだったので、前世の記憶を思いだした今でもリアージュは、へディック国の貴族の食事を難なく受け入れることが出来ていたのだが、しばらくしてリアージュは、その食事にマンネリを感じてしまった。


(何か食べ飽きちゃったなぁ……)


 リアージュが前世の記憶を思い出して、学院に入り、9年ぶりの社交に出るようになってから、リアージュは今まで、何とも思わなかった自分の食生活に不満を抱くようになった。茶会で出されるのは必ず紅茶で、出される茶菓子はケーキやマカロンやエクレア……等々と種類は多いがどれも皆、洋菓子ばかりだった。


 夜会で出されるのは、前世の世界のホテルや洋食のレストランのバイキング料理並に品数が豊富だが、どれもこれも洋食と位置づけされる料理ばかりで、夜会で出されるアルコールは、ワインやウォッカやウイスキーやブランデーといった洋酒ばかりだった。


 リアージュは、タダで飲み食い出来るのだからと茶会では必ず、ミルクと砂糖がたっぷりと入った紅茶を何杯もお代わりしたし、茶菓子もお代わりをしつつ、自分のドレスの胸の所に、持ち帰れそうなマカロンやフィナンシェやマドレーヌ……等の焼き菓子を中心に、それらをこっそりとギュウギュウに詰め込んで持ち帰っていた(茶会に出ている貴婦人達にバレていることをリアージュは気づいていない)。


 またリアージュは夜会では必ず、誰よりも先に料理のある場所に行き、駆けつけ三杯ワインを飲みながら、横目で料理を物色し、全種類の料理を味見することに余念はなく、ガブガブとあらゆる洋酒を飲み、チーズを口いっぱいにほおばりながら、自分のドレスの胸の所に、持ち帰れそうな食べ物をこっそりと、ギュウギュウに詰め込んで持ち帰っていた(これもまた、夜会に出ている紳士淑女達に、バレていることをリアージュは気づいていない)。リアージュは誰が見ても、そうとは思えないが貴族の食事に食べ飽き始めていて、リアージュ的には食が細っていた。


(美味しいんだけど、何か物足りない。このままだと私、痩せ細って倒れてしまうんじゃないかしら)


 その日もワインとウイスキーを交互に口に流し込み、スペアリブとブルーチーズにかぶりつきながらリアージュは、ここにはない、前世の自分が好きだった酒のツマミを思い浮かべ、それらが、この世界の食事で出されたことがないことに気が付いた。


(何か足りないと思ったら……そうよ!私の大好きな()()()()()()()()()()()()()がないのよ、この世界!)


 前世では、発泡酒やビールのつまみにそれらを食べながら、ゲームをしたり、SNSに悪口を書き込んだりしてたことを思い出したリアージュは、無性に()()()が食べたくなった。前世ではコンビニなんていう便利な店があったが、この世界にはそんな店はないし、揚げ物が欲しければ自分で作るしかないから、リアージュはそれを実家のコック(道具)に作らせることにした。


 前世でも今世でも料理なんてしたことは一度も無いが、揚げ物がどうやって作られているかぐらいは、リアージュは、前世の中学の家庭科の授業で習った記憶により、大まかには理解していたので、早速それを食べようと決め、一旦屋敷に帰ったときに、自分の父親に内緒で、ジャガイモを薄く切り、沢山の油でカラリと揚げたものに、塩をたっぷりふったポテチチップスを実家のコックに作らせて、夜会の前の身支度中に、こっそり食べていたのだが、それを父親に見つかってしまったのだ。


 彼はリアージュが食べているそれを、一口食べ、これはいける!と、それをその日の夜会で、娘が考案した料理だと言って、手土産だと出したら、たちまち、その揚げ物は貴族達の胃袋をつかんでしまったのだ。


 それがあれば酒はドンドン進むし、茶会でもポテトチップスという()()があれば、甘い洋菓子との組み合わせで、()()()()()()を楽しめて、食傷気味な洋菓子もドンドン食べられると貴族女性達は喜び、リアージュの意外な才能である、揚げ物の知識はまたたくまに社交界に広まっていった。

※前世の世界の日本では、お酒は20才をすぎてからですが、この世界ではお酒は男女共に16才からという設定にしてあります。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ