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【魔力操作のレベルが上がりました】



 

名前 トリー

種族 魔素族

職業 エリートファイアベビー

レベル 5

魔力 324/455(350+105)

知力 15

スキル 魔力上昇3 魔力回復上昇3 魔力操作1》2 魔力感知5 火魔法3

STP 0 SKP 3




 ◇◇◇◇


 

 心地良いBGMと共に、身体がゆっくりと覚醒していくのを感じる。

 カプセルベッド型のSec‐Dから降り、俺はぐっと身体を伸ばす。

 こんな気持ちのいい朝はいつ振りだろうか。

 俺は清々しい気分で朝食を作りながら、仕事へのモチベーションを高めていった。



◇◇◇◇



 帰宅後。

 レトルトカレーを温めながら、Sec‐Dについてネットの掲示板を見流す。

 やはりSec―D使用者たちの評価は皆高いようで、Sec‐Dを褒め称える言葉がずらりと並ぶ。

 しかし皆寝ている間の記憶は曖昧らしく、内容がとてもぼんやりしてしまっている。

 そのため、他の者からサクラだなんだと揶揄されている。


「うーん、俺もあんまり思い出せないんだよなー」


 魔素族としてプレイしていたことは覚えているが、具体的なことは酷く朧気だ。

 まぁ医者から予め聞いていたので驚きはしないが、寝た際に再び思い出せるか少し心配だな。


「ま、考えても仕方が無い」


 俺はさっさと寝る準備に取り掛かり、Sec‐Dへとダイブした。

 

「うは……」


 このフカフカサラサラは本当に最高だ。

 閉まる扉を見ながら、俺はゆっくりと眼を閉じた。



◇◇◇◇



「あ、お帰りなさいトリーさん!」

「お、おう、ただいま」


 ファイスの街に戻ると、目の前にエミリアがいきなり現れた。

 逆か。俺がエミリアの持つクリスタルから出てきたのか。


「今日からはお手伝い出来ませんが、先ずは実体を持てるよう頑張ってくださいね!」

「おう、ありがとう。今日は多分戻ってくるつもりだけど、ずっと神殿にいるのか?」

「はい! 召喚者を受け持つ神官が、召喚者を残してファイスの街を出ることは滅多にありません。また召喚限界時間が近づけば、その神官は神殿に待機するようになっています。なので帰る際はこちらに顔を出してくださいね」

「了解だ」


 エミリアの明るい笑顔に見送られ、俺はフヨフヨとファイスの街へと繰り出した。

 

 

「さてと、とりあえずさっさと実体を持たないとな」


 実体を持つには【魔力操作】のスキルレベルを5に上げなければならないらしい。

 昨日はギリギリまで頑張って何とか2に上げられたけど、あれは中々の苦行だった。

 全身に虫が這うような、正座の後のビリビリが全身を巡るような、そんな感覚。

 多分一人だったらさっさと諦めて他の種族にキャラ変更していただろう。


「まぁエミリアと約束したし、頑張るか」


 途中で見つけた噴水のベンチに腰掛け、俺は目を閉じて集中する。

 多分他から見れば、人型の靄がベンチの上を漂っているようにしか見えないだろうが。

 というか俺、もしかして今全裸なのか?

 だとしたら、実態を持った時街中だと拙いような……。


「……外、いこっかな」


 このゲーム内での知り合いのは女の子しかいないし、これを改めて尋ねるのも少し気恥ずかしい。

 とりあえず外なら、万が一全裸でも何とかなるだろう。

 


◇◇◇◇



 外に出ると、広がる草原にちらほら他の召喚者やNPCを見かける。

 と言っても、両者の見分けは簡単には出来ない。


 ただこんな始まりの草原で雑魚を懸命に狩っているガタイの良いやつらは、大抵召喚者だろう。

 あと、このファイスの街では人間族と獣人族以外のNPCはあまり見かけない。

 エルフやドワーフは偶に見かけることはあるが、魔素族と竜人族に至っては皆無だ。


 竜人族はその種族特性から、他種族と関わることをかなり嫌うらしい。

 魔素族は謎多き種族らしく、実態はよく分かっていないんだとか。


 魔素族についてギルドで少し聞いてみたが、分かっていないことの方が多いようだ。

 低レベル帯の情報しか無いため、新たな情報を提供すれば僅かばかりの賞金とギルドポイントをくれるるらしい。

 とりあえず俺は現在分かっている情報を、全て黒猫受付嬢のニャリスに教えておいた。

 金銭やギルドポイントについては、また追々。


「――火球ファイアボール


 ――Pigiiy!


 適当な場所を探すついでに、手近なプチスライムにファイアボールを放つ。

 プチスライムは相変わらず一撃で沈むため、ちょっとした優越感を感じてしまう。


 しかしこのファイアボール1発と1分間の日常動作消費魔力が一緒だというのだから嫌になる。

 プチスライムを1匹倒す度、魔力回復の為に5分間程休む必要があるのは少々ストレスだ。

 俺は休みながら、プチスライムの残した【魔石】と【プチスライムの核】と呼ばれるアイテムを眺める。

 早く実体を持って、あのアイテムが拾えるようになりたいものだ。


 魔力の回復を終えると、俺はまたフワフワと移動を始める。


「この辺で良いかな」


 草原を少し移動し、所々に生えている背の低い木の1つにたどり着いた。

 俺は辺りにモンスターがいないことを確認してから、スキル取得画面を表示する。


「残りSKPは3。とりあえず、魔法系以外なら取れる訳だけど……」


 俺が見ているのは技能系スキルの一覧。

 武器系は手に持てないのでもちろんスルー。

 俺は残りの技術系を眺めていく。


 ギルドで情報を開示した時、ニャリスから【種族特有スキル】という物について教えてもらった。

 取得可能スキルは初めは皆ある程度同じらしいが、種族によって少しずつ異なっているらしい。


 獣人族の【嗅覚上昇】や【聴覚上昇】などの五感上昇系。

 ダークエルフ族の【潜水】などの水中技能系。

 ドワーフ族の【酒飲み】や【鉱物補正】といったドワーフ系。

 竜人族の【鱗強化】や【翼強化】、【ブレス】といったドラゴン系。

 ライトエルフ族の各属性【精霊魔法】。


 そして魔素族の特有スキルには【魔素操作】というものがあるらしいが、俺はまだ出現していない。

 というのも、魔素族の特有スキルは魔力操作をレベル5まで上げないと取得可能にならないらしい。

 取得可能スキルは、所持しているスキルレベルを上げたり、特定の行動を繰り返すことで増えていくようだ。

 因みに人間族に特有スキルは存在しないが、この取得可能となるためのハードルが他種族より低く設定されているらしい。


「とりあえず、頑張るしかないか」


 俺は木陰に腰を下ろし、目を閉じて魔力操作に集中する。

 全身をムズムズと何かが細かく走っていく。

 恐らくこれが魔力なんだろうが、なんとももどかしい。

 これがもっとサーッと走るようになると、エミリアが言っていたように気持ち良くなるんだろうか。


 俺は魔力操作を行いながら、自分の身体について考える。


 そもそもこの霧状の身体ってなんなんだろう。

 魔素族って言うくらいだから、おそらくこの霧の一粒一粒が魔素の粒子なんだろうか。

 だとしたら、その粒子を繋ぎとめてるのが魔力なのか?

 

 魔力操作が上達し魔力をスムーズに流せるようになると、身体が実体化して物が触れるようになるらしい。

 魔力の流れが速くなると、魔素同士がくっついて個体の様になるってことかな。

 

 ……じゃぁ逆に、魔力の流れが今よりもっとゆっくりになったら、どうなるんだ?

 

 魔力感知が出来るようになった時点で、ある程度身体の魔力に流れは出来ていた。

 多分この人型を保つのに、一定の魔力の流れが必要なんだろう。

 じゃぁその魔力の流れを止めてやれば、俺は人型を保てなくなるんだろうか?


「……やってみよう」


 これらは全て、妄想を多分に含んだ仮定でしかない。

 しかし、やってみる価値は十分に有る気がする。


 先ずは、今行っている魔力操作を止めてみる。

 魔力操作を行わなくても、やっぱり魔力の流れは感じられる。

 ただ、あのムズムズ感は特には感じられない。


 たぶんあの不快感は、魔素と魔力の間で摩擦のような現象が起こった結果なんじゃないだろうか。

 魔力操作はその摩擦を上手く減らしてくれるスキルでもあるのかもしれない。

 魔力操作のレベルが上がることで、スピードだけでなくその扱いも上達していくのだろう。

 

 ならそのスピードを速めるだけでなく、逆に遅くすることだって出来るはずだ。

 俺は魔力の操作に集中し、ゆっくりと魔力の流れを緩めていく。

 ゆっくり、ゆっくり。

 

 段々と、魔力の流れが鈍くなってきた。 

 そして同時に、身体の感覚が少しだけ希薄になっていく様な気がする。

 それでも俺はやめることなく、魔力の流れを遅らせていく。





【魔力操作のレベルが上がりました】





 やっぱり、魔力操作は魔力の流れを遅らせるスキルでもあるようだ。

 魔力の流れを早めるよりも、余程不快感は少ない。

 ただそれとは別に、身体の感覚が無くなっていく喪失感を感じる。

 フワフワと、まるで自分の魂が身体から離れて行くような、不思議な感覚。

 俺は、この感覚を、知っている。

 

 前の職場で仕事量が自分のキャパを大きく超え、加えて人間関係も最悪で、ダメ押しで恋人の不幸も重なってしまったあの時。

 我武者羅に進んでみたものの、空回りするばかりで上手くいかず、不安と焦燥感で夜は眠れず、それでもどうにかしようと動き続け、そして気付けば段々と自分の身体が自分の物では無くなっていくような、とても恐ろしいあの感覚。






【魔力操作のレベルが上がりました】






 あの時に比べれば、これくらいは耐えられる。

 今あるのは、身体の感覚が無くなっていく恐怖だけ・・だ。

 今の俺は、先生のおかげで立ち直れている。

 職場も変わり、人間関係もリセットした。

 夜眠りに中々就けず、中途覚醒もずっと治らなかったが、それもこのSec‐Dのおかげで改善した。

 今の俺には、不安も焦りも無い。

 大丈夫だ。






【魔力操作のレベルが上がりました】

【魔力上昇のレベルが上がりました】

【魔力回復上昇のレベルが上がりました】

【魔力感知のレベルが上がりました】

【魔素操作が取得可能となりました】

【浮遊が取得可能となりました】




「ふぅ……」


 気づけば、1時間ほどが経過していた。

 そして目を開くと、自分の視点が高く・・なっていることに気が付いた。

 

「うお、まじか」


 飛んでる、いや、浮いているのか。

 風に揺られる様にして、俺は地上5メートルほどの高さでフワフワと空気に浮かんでいた。

 魔力の流れを止めることで魔素の密度が小さくなって、空気よりも軽くなったんだろうか。

 そう言えば先ほど、スキルが解禁されていた。


「【魔素操作】と【浮遊】、ね」


 既に浮遊は出来ていると思うのだが、スキルを取得することで何か変わるのだろうか。

 



【浮遊を取得しました】

【職業がエリートファイアベビーからエリートファイアプランクトンに進化しました】





「当然取るだろう」

 

 早く確かめてみたかったので、ノータイムで浮遊を取得してしまった。

 まぁ魔素操作の方も、基礎レベルを上げればすぐ取得できるだろう。


名前 トリー

種族 魔素族

職業 エリートファイアプランクトン New!!

レベル 5

魔力 34/490(350+140)

知力 15

スキル 魔力上昇3》4 魔力回復上昇3》4 魔力操作2》5 魔力感知5》6 

    火魔法3 浮遊1 New!!

STP0 SKP1




「エリートファイアプランクトン、か。ベビーがプランクトンに変わってる。多分、浮遊スキルのせいだろうなぁ。浮遊の効果は……なるほど、移動に使うのか」


 浮遊スキルを念じてみると、フワフワと浮かんでいる自分の身体をゆっくり移動させることが出来た。

 消費魔力を確認すると、浮遊移動時は魔力操作の消費分も合わせると毎分30ほどの消費か。

 そして戦闘時同様、魔力回復も出来無いようだ。


「浮かぶだけなら魔力操作の消費分だけで済むのか……というか、魔力がそろそろ限界だ。一度休もう」


 集中して魔力操作を行っていたため、魔力の消費量まで気が回らなかった。

 俺は地上へと戻り、そのまましばらくぼーっとしながら考える。


 魔力操作時の魔力消費量と魔力回復量は、日常動作時と変わらない。

 浮遊移動するために【浮遊】スキルを使用すると消費量が一気に跳ね上がるため、現状細々と休憩を挟む必要はあるが、やれないことはないだろう。

 

「よし。ちょっとこれで基礎レベルを上げてみるか」


 【魔素操作】もきっと、取得するべきスキルなのだろう。

 これも技能系スキルのようだから、必要SKPは2ポイントだ。

 先ずはモンスターを倒しまくって、とりあえず基礎レベルを1つ上げてしまうとしよう。


【エリートファイアプランクトン】

ベビー職は、魔力操作がレベル5に至った段階で解除される。

ベビーが解除されることで基礎レベルアップ時の能力上昇制限がなくなり、レベルアップ時にSTP5ポイント分が魔力と知力にランダムで振り分けられるようになる。

通常であればエリートファイアエレメントに進化するはずであったが、【浮遊】スキルを取得することでプランクトン職を得た。

プランクトン職は浮遊スキルの成長補正が掛かるだけでなく、【魔素操作】の拡散方向にも補正が掛かるようになる。


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