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 カーメルと名乗った黒騎士は、実は数少ない魔素族の一人だったらしい。

 その登場に少し驚かされたが、俺は気持ちを切り替え先ほど彼女が言っていた真意を尋ねる。


「魔素族のトリーだ。こちらこそ宜しく頼む。……それで、さっき何とかなると言ってたようだが……」

「ええ。私の職業スキルはラビさんからお聞きしていますか?」


 そう言えば以前、ラビックから他の魔素族の職業スキルについて聞いたことがある。

 確か、【漸堅グランダリーソリッド】、だったか。


「ああ。以前ラビからもらった情報が、君のものならな」

「おそらく私の情報で間違いないしょう。他のお二方はあまり手の内を晒す方ではありませんので」

「なるほど」


 他の二人の情報が無いのを少し不思議に思ってはいたが、そんな事情があったわけか。


「まあ私の職業スキルも少し進化したので、以前よりも多彩にはなっているのですが……それは今は置いておきます」

「ちょっと待ってカメちゃん! それ僕聞いてないよー!」


 カーメルの言葉に喰いつくラビック。


「あら、そうでしたか? ふふふ、また後でゆっくりと教えて差し上げますので今は我慢してください」

「むー。仕方が無いなー。絶対だよ!」

「はい。……ふふふ」


 しかしあっさりカーメルにあしらわれてしまっている。

 この二人も結構仲が良さそうだ。


「さて。それであの【狂化バーサク】状態のリトルデビルをどうにかするというお話でしたね?」

「ああ。俺は防御力が恐ろしく低い。火力にはそこそこ自信はあるし、上空からの攻撃も出来るが、スピードが遅いからリトルデビル相手ではボコボコにされてしまう」

「なるほど。でしたら防御とヘイトコントロール(敵からのターゲティングの制御)は私に任せてください。召喚士の皆さんにも協力していただき、【糸精製】によって魔力源も確保してもらいましょう」

「……つまりはさっきと余り変わらないってことか? でもそんな上手くいくのか?」


 防御とヘイトコントロールを任せるとは言え、多少はこちらにも攻撃は流れてくるだろう。

 そして俺たちにとってはその一撃が命取りなのだ。

 正直うまくいく気がしない。

 しかしカーメルはかなり自信がある様子。


「大丈夫ですよ。まあ見ていてください。魔素族の先輩として、しっかりと良い所を見せて差し上げますから」


 そう言って、にこりと笑うカーメル。

 その笑みには何とも言えない凄みがあり、俺は思わず頷いてしまう。


「……ああ、わかった。任せてみることにするよ。よろしく頼むな、先輩」

「はい、任せて下さい」


 俺の返事に、嬉しそうに微笑む彼女。

 まあ最悪俺が死に戻っても、他のメンバーで何とか出来るだろう。

 とりあえずは彼女を信じて、思いっきりやってみるとしよう。


「2人の話も纏まったみたいだね! じゃあ僕は召喚士の皆に話を通してくるとするよ! 2人は細かい所を詰めておいて!」

「了解だ」

「ええ、わかりました。らびさん、よろしくお願いしますね」

「了解だよ!」


 元気のよい返事を残して去っていくラビックを見送りながら、俺たちは最終戦に向けての最後の打ち合わせを始めることにした。




◇◇◇◇




 そして1時間後。

 俺は軍や神官、そして冒険者たち()()()守られる様にして、【魔喰い】と対峙していた。


「……どうしてこうなった」

「あははは、どうしてだろうねー」


 【魔喰い】を目前にしながら、俺は思わずラビックにぼやく。


 1時間ほど前、ラビックが召喚士たちに声を掛けて回っていると、自分達も混ぜてくれと他の召喚者たちが声を掛けてきたのだ。

 人数が増えるのは有難いと、俺たちもその申し出を快諾。

 すると、先ほどまでの嵌め狩りを見ていたと言う軍や神官たちが、俺たちを中心に作戦を立てると言い始めたのだ。

 

 その結果、現在俺は手厚い保護の中、城壁前に待機している。


 俺の前方には、ヘイト管理を行う盾役の面々がずらりとならび、城壁上では遠距離攻撃組が待機しているらしい。

 現在俺たちが陣をとっているのは、先ほどと同じファイスの街西側の城壁前だ。

 もっと街から離れた位置で陣取る案も出ていたが、上空を飛ぶ【魔喰い】を確実に仕留めるために、この場所が選ばれたのだ。


 城壁上の弓隊と魔法部隊の中心には、蜘蛛系や芋虫系の【糸部隊】が構えている。

 俺が位置するのは、その糸部隊の丁度真下辺りだ。


 壁に追い立てられた形にはなっているが、前方の盾隊や近接部隊の主力たちがしっかりとヘイトコントロールをしてくれるとのこと。

 まあ俺を守るだけでなく、城壁上の遠距離部隊を守るためでもあるのだろうが。


 本来これだけ離れているとヘイトを完全に奪い取るのは難しいそうだが、共鳴によりその力を増幅させることで対応可能らしい。

 一応近接や盾のいくらかは城壁上に残しているらしいので、ある程度は耐える事も可能だろう。


 魔喰は地上10m程を浮遊しながら移動しており、その全長も10mほどはありそうだ。

 50㎝程の瞳を狙わなければならない訳だが、周囲にはリトルデビルたちが群がっており、このままでは瞳を狙うのは難しい。

 なので先ずは、リトルデビルの数を減らさなければならない。


 その為に、色々と作戦が組まれたわけだが……。


 しばらくして、城壁の上から今回の指揮を任されたと言うアスラが皆に指示を出し始めた。


「では打ち合わせ通り、先ずは弓隊による一斉射撃。その後は盾隊によるヘイトコントロール及びリトルデビルの殲滅だ! 弓隊と魔法隊は射線が通り次第瞳を狙って各自攻撃して欲しい。魔法隊でコントロールに自身の無い者はリトルデビル殲滅に当たってくれ! では皆の者、準備は良いか!?」

『おおおぉぉぉおお!!』

 

 5千人以上の叫び声が、俺の身体を震わせる。

 

「弓隊構えーっ! 放てーっ!!」


 アスラの号令に合わせ、城壁上から一斉に矢が放たれた。

 

『――GyaGya!?』


 するとこちらの攻撃に気付いたリトルデビルたちが、顔を醜く歪ませながらこちらに狙いを定めて急降下してくる。

 そこへ


『――【挑発プロボーク】!』


 城壁から離れた位置で円陣を組む様にして構えた盾隊が、【挑発プロボーグ】スキルでヘイトをもぎ取る。

 狙いを盾隊へと変更し、急降下するリトルデビルたち。

 そこへーー


『――【光爆裂エクスプロージョン】!』

『――【火渦ファイアストーム】!』

『――【風渦ウインドストーム】!』


 降下するリトルデビルたちに、城壁上から大量の範囲魔法が放たれた。


『――Gyiaaaaaa!!』


 共鳴によって威力を増した広範囲魔法が、リトルデビルたちを薙ぎ払う。

 一瞬にして、魔石に変わっていくリトルデビルたち。

 だが敵は続々と押し寄せ、盾隊がリトルデビルに呑まれてしまう。

 しかし――


「――PIIGIIIIII!!」


 盾隊の中心から、鋭いプラズマ線が周囲へ一斉に放たれ、リトルデビルたちを続々と消滅させた。

 


【マイムのプラズマのレベルが上がりました】

【マイムのレベルが上がりました】

【スレッダーの糸精製のレベルが上がりました】

【スレッダーのレベルが上がりました】


 

 目の前で仲間が一瞬にして消え去り、思わず動きを止めるリトルデビルたち。

 しかしその発生源であるマイムを見つけると、奇声を上げながら突っ込んで行く。

 

 俺の指示で一度プラズマを引っ込めたマイムに、リトルデビルたちが群がっていく。

 そこへ――


「――KIIIEEEeeeeeEEEE!!」


 まるでモンスターかの様な狂声を上げる黒騎士様。

 その耳に突き刺さる様な狂声は、マイムへと殺到していたリトルデビルたちのヘイトを見事にもぎ取った。

 その間に、そそくさと盾役の召喚者たちの中に隠れるマイム。

 そしてその間にクールタイムを終えた魔法部隊から、再び範囲魔法第2陣が放たれた。


「……これならなんとかなりそうか。――【吸精ドレイン】! 【吸精ドレイン】! 【吸精ドレイン】!」


 目の前で続々とリトルデビルが消滅されていくのを見ながら、俺は上空から糸巻になって落ちてくる敵に【吸精ドレイン】を掛け続けていた。


「だねー。まさかここまで大事になるとは思わなかったけど」

「……だな」

 

 現在俺は、城壁上の糸部隊がからめ捕った簀巻きのリトルデビルから、せっせと魔力を回収中だ。

 おかげでマイムの魔力を補えているのだが、ここまでお膳立てしてもらいながら【吸精ドレイン】をかけ続けることに、若干の申し訳なさを覚えてしまう。


「まあマイム君のおかげで盾部隊もかなり余裕をもって対処出来ているから、キミが魔力回収に徹するのは仕方が無いことだよ! それよりも、カメちゃんのあのヘイトのもぎ取りはすごいねー」

「ああ、そうだな。おかげでマイムを安全して任せられる」


 現在マイムと俺は別行動中。

 マイムは盾役の兵士に守ってもらいつつ、魔法部隊のクールタイムの間、盾部隊のフォローをしている。

 フォローというには些か強力過ぎる気もするが。


「この調子でいけば、特に大きな被害も無く切り抜けられそうかな?」

「ああ、だがそう簡単には……」


 と俺が呟くと同時に、上空から奇怪なうめき声が降り注いできた。


「NUOOOOOOoooooOOOO!!」


 その気味の悪い声に、俺たちは思わず顔を上げる。

 

「うわぁー……気持ち悪い」

「ああ、これはきついな」


 そこで俺たちが見たのは、全ての瞳をギョロリとこちらへと向け、黒い光を放とうとしている【魔喰い】の姿だった。




 

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