表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/36

 


 どうやらこの種族、身体を動かすだけでも魔力を消費するらしい。


「なんてこったい……とりあえず、神官に声をかけてみよう」


 気をとり直し、扉に向かって進み扉を押s――あれ?


「押せない……だと?」


 身体から伸びた腕の様な靄を扉に押し付けるが、触れたところから霧散してしまう。

 霧散した部分は俺の身体に戻ってきているみたいだが、これでは扉が押せない。

 全く感触が無いわけではないが、すごく柔らかい物で扉を動かそうとしている変な感覚だ。

 暖簾に腕押しの逆バージョンというか。


「まさか最初の神殿で詰むとは」


 ある程度の困難は覚悟していたが、こんな初歩的なことすら出来ないとは驚いた。

 とりあえず、【神の声】に教えてもらったオススメスキルを使うしか無いんだろうな。


「魔力上昇と魔力回復上昇は能力系で多分今は上げようがないだろうから放置。まずは魔力操作と魔力感知だな」


 感知できなければ操作は無理だろう。

 先ずは魔力感知からだ。


 どうやったらいいのか分からないので、とりあえず唱えてみる。


「魔力感知!」


 しかし、特に変化は起こらない。

 その後もうんうんと唸りながら魔力を感知してみようと頑張ったが、うんともすんともいわない。


 ……どうしよう、すごくつまらないんだが。

 始めは物珍しかった神殿の景色だが、今となっては既に飽きてきてしまった。

 とは言え、今行っているのは睡眠治療なわけだから、別に良いっちゃ良いんだが……。


「でも、どうせだったら楽しみたいよなぁ」


 Sec-Dで一度入眠すると、強い尿意などの身体の刺激や、装置に繋いだスマートフォンからの着信が無い限りは目覚めることが出来ない。

 勿論目覚ましをセットした時間には起きれるようになっているらしいが……つまり俺はあと5時間ほどはこの異世界空間で過ごさなければいけないのだ。


「うーむ、何か良い方法は無いものか……」


 と俺が悩んでいると、目の前の扉がグググと開きだした。

 おぉ、遂に俺の願いが通じたか。

 などと馬鹿なことを考えていると、扉の隙間から一人の女性が声を掛けてくる。


「あのー、どなたかいらっしゃいますか?  多分いらっしゃるはずなんですけどぉ……」


 自信なさげに声を掛けてくる金髪の少女。

 真っ白な神官服に胸元まで伸びた綺麗な金髪がとても映える。

 目は薄いエメラルド色をしており、少し泣きそうに潤んだ瞳がとてもいい。

 俺はそんな金髪美少女神官を眺めつつ、気丈に返事を返す。


「あぁ、いるよ。……ここだここ」


 声を掛けるも、キョロキョロと辺りを見回す彼女に、俺は必死にアピールする。

 

「ひゃぅっ! あれ、その靄はもしかして……魔素族の方、ですか?」


 恐る恐る尋ねてくる金髪神官少女。

 

「うん、そうだけど」

「うぅ~、初召喚でいきなり魔素族を引いちゃうなんて、ついてないですよぉ~」


 などと魔素族の俺を目の前にしてのたまう神官少女。

 

「……なんでついてないんだ?」

「あ、ごめんなさい……」


 失礼な言葉を口走ったことに気が付いたのだろう。

 少女が再び目を潤ませて謝ってくる。


「いや、それはいいから。で、なんでついてないんだ?」

「えっと、それはですね……」


 ウジウジと両手で神官服を掴みながらまごつく少女。

 

「いいから教えてくれ。別に怒ったりはしないからさ」

「……うぅ、分かりました。この召喚の間では色んな種族の方が召喚されるんですが、その召喚に必要な魔力は、私たち神官が捧げているんです。そして召喚された方々にとって、わたしたち神官は保護者の様な役割をすることになっています」


 なるほど、そういう設定なのか。

 そしてその魔力を捧げた神官が、その召喚者――つまりは俺たちプレイヤー――のチュートリアルNPCになると言う訳か。


「なるほど。じゃぁなんで魔素族だとついていないんだ? 魔素族が弱いからか?」

「ち、違います! 強いとか弱いとかで人を判断する訳無いじゃないですか!」

「お、おう、すまん」

「あっ、いえ。こちらこそすいません……」


 急に熱くなった少女に謝る俺。少女も俺に謝ってくる。

 とりあえず、悪い子ではなさそうだ。


「えと、召喚された方には、魔力を捧げた神官が付いてこの世界についてお教えしています。一緒にモンスターを倒したり、冒険者ギルドでクエストを受けたりと、初日だけですが、この世界での生き方について一緒に学んでいただくんです」

「なるほど」

 

 まんまチュートリアルNPCだった。

 でも確かにこの世界に放り投げだされても、右も左も分からずどうしたら良いか分からんよな。


「でも、魔素族の方たちは、その、身体を動かしたり維持するだけでも大変みたいで……初日を終えてしまうと、ほとんどの方が他の身代みのしろで再召喚されてしまうんです……」

「あー……なるほど」


 つまりはあれか。

 魔素族が思っていた以上にハードモードだから、キャラ作成をやり直してしまうのか。

 Sec‐Dでの異世界旅行は、キャラを毎回変更することが出来る。

 ただし一度変更してしまうと、以前のキャラを使用することは出来ない。

 彼女が言っているのは、そのキャラ変更の事だろう。


 まぁ元々この世界に来ている人って、俺と同じように不眠症で困っている人たちだもんな。

 生粋のゲーマーなんてほとんどいないだろう。

 みんな魔素族に飽きて、別の種族に移っちゃうわけか。


「因みに、今までどのくらいの奴が召喚されてきたんだ? あと、魔素族ってどのくらい残ってる?」

「えと……召喚の儀が始まったのはまだ2週間程前からですが、毎日100人程の方が召喚されています。初めは魔素族の方も沢山いらっしゃったのですが、ほとんど皆さん身代を変えられてしまって……2日目以降も続けられている方は、私の知る限りでは3人しかいらっしゃいません……」

「3人……」


 予想以上の数字だ。

 キャラ変更して再召喚される人もいるだろうから、プレイヤーが大体1000人くらいだとして、1%にも満たないのか。

 これは思った以上に大変そうだ。


「確かに、俺も既に飽きてしまっていた訳なんだが……まぁ頑張って続けてみるよ。続けないと、何か困るんだろ?」

「うぅ~、その通りなんです。神官は2000名ほどが順番に召喚の儀を行っているんですが、自分が担当した召喚者が身代を変えてしまうと、次回の召喚の順番を後回しにされてしまうんです。私は位があまり高くないので、もし失敗しちゃうと、次はいつになるか……」

「召喚すると、何かいいことでもあるのか?」

「えっと、皆さんを召喚した際、こんなクリスタルが生まれるんです。これは皆さんがあちらの世界に戻られている間の依り代になるんですが、これを持つ数が多い程、高位の神官に上がりやすくなんですよ!」


 出世の為だった。

 まぁ大事だよな、出世。


「そ、そうか。因みにそのクリスタルは君が常に持っているんだよな? じゃぁ俺が向こうに戻る時は、毎回君の所に帰ってこなくちゃいけないのか?」

「いいえ、その必要は無いです。この依り代を使わなくても、向こうの世界には帰れます。でも、このクリスタルを依り代にしていると、能力が少しですが上がりやすくなるんですよ」

「なるほど、経験値アップボーナスか」


 Sec‐Dの時間の流れは、現実世界と一緒だ。

 ただしこの異世界空間に関しては、昼夜逆転している様だが。

 俺の場合こっちで生活する時間は六時間くらいだから、その短い時間を有効に使うためにもクリスタルは利用した方が良さそうだ。


「よし、良く分かった。今更だけど、これからよろしくな。俺はトリーだ」

「わわっ、私こそよろしくお願いします。エミリアと呼んでください」

「了解エミリア。じゃぁ早速なんだが、魔力感知の仕方を教えてくれないか? さっきからずっと魔力感知を試しているんだけど、全然うまくいかなくてな……」

「え? 魔力感知は誰かと一緒じゃないと、練習できませんよ?」

「……」 


 




名前 トリー

種族 魔素族

職業 エリートベビー

レベル 1

魔力 93/165(150+15)

知力 15

スキル 魔力上昇1 魔力回復上昇1 魔力操作1 魔力感知1



【エリートベビー】

魔素族の中で、初期スキルとして推奨スキルを揃えた個体がつく職業。

キャラクター設定の際、【神の声】に推奨スキルを尋ねることで誰でも取得可能であるため、習得難易度は低い。

通常の【ノーマルベビー】と比較し、序盤のみ初期スキルに若干の成長補正が加わる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=784195863&s ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ