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日目】



【迷いの森における魔界の渦・ホーンラビットの消滅に成功しました】

【迷いの森におけるホーンラビットの出現率が正常に戻りました】

【魔界の渦・ホーンラビット消滅に対する貢献度により、それぞれの召喚者にエクストラスキル及び称号スキルが送られます。また、最多貢献者には【使い魔 ホーンラビット】が贈られます】

【ワールドクエスト【迷いの森の黒い渦】の進行度は現在20%です】



【あなたの魔界の渦・ホーンラビット消滅に対する貢献度は2%です】

【以下の中からエクストラスキルを選択してください。【聴覚上昇】【気配探索】【突進】【好奇心】】

【称号スキル 【ビーストアタッカー102%】(ビースト系に対して与ダメージ1.02倍)を取得しました】



「あ、こんにちはトリーさん。お体は大丈夫ですか?」

「ああ、なんとかな。昨日はすまない、心配をかけた」


 ログイン直後、頭に響くたくさんのアナウンス。

 俺はそれらを一先ず置いておき、エミリアの温かい言葉に癒される。

 昨日は色々と大変だった。

 諸々を収めて2日ぶりにエミリアの下に帰ってきた時には、彼女に酷く心配されてしまった。


 昨日、【迷いの森】からファイスの街へと戻ってきた俺は、周りからの好奇の視線を振り払うようにして真っすぐと冒険者ギルドへと向かった。

 そしてギルドに着きニャリスに事と次第を話したところ、色々ともみくちゃにされてしまった。

 最終的には何とか落ち着いたが、あんなことはしばらく勘弁願いたい。


「あまり無理しないでくださいね。召喚者の皆さんは身体は借りものですが、心は本物なんですから」

「……そう、だな。気を付ける。ありがとうエミリア」

「はい!」 


 エミリアの明るい笑顔が俺のすさんだ心を解きほぐす。

 この世界のNPCは、基本的にみな穏やかな性格をしている。

 恐らく治療用空間であることを前提としてつくられているからだろう。

 まあ世界を作る以上、色々と例外もあるようだが。


 俺はエミリアとの時間を惜しみつつ、この後ラビックと待ち合わせを予定している冒険者ギルドへと向かう。

 彼女にも昨日は迷惑を掛けてしまった。

 まあ彼女はガルと魔石がたんまりと手に入り、ホクホク顔ではあったのだが。


 俺の真下では、2日前のクエスト報酬として取得した使い魔のマイムが着いてきている。

 こいつは既に出合った時から一度進化を終えており、今は3段階目に位置しているらしい。

 モンスターが進化に必要なレベルは、1段階目が10、2段階目が20と10ずつ大きくなるそうだ。

 つまりこいつは出会った後に一度レベル20に達している訳だが、その方法が少し特殊だったのだ。

 今日はこれをネタに、ラビックにたかろうかと目論んでいる。

 

 ギルドに着きニャリスに声を掛けると、彼女から昨日のことについて詫びと労いの言葉をいただいた。

 昨日は色々と荒れていた彼女だが、今日はすっかり正常運転のようだ。

 まあ色々と慌ただしくしていたところに、俺が1人で渦を倒したなどと報告し、興奮がピークに達してしまったのだろう。

 渦を1人で倒すとか、よっぽどのことみたいだしな。


 そんな彼女に問題ないと返事をし、俺は1人、ギルドのテーブルでラビックの到着を待つ。

 するとしばらくして、ギルドの入り口から兎耳姿の彼女がトタトタと駆けつけてきた。 


「やあやあ、待たせてしまったかい?」

「いや、俺も今着いたところだ」

「いやー、そうかそうか。なら僕も急いだ甲斐があるってもんだよ!」


 相変わらず、ロールプレイが板についているラビック。

 俺はそんな彼女に苦笑しつつ、話を切り出す。


「昨日は色々とすまなかったな」

「何を言っているんだい。僕は情報屋だよ? 情報のことなら任せなさーい! それに、キミのお陰で魔石がたっぷり手に入ったしねー」


 そう言って、肩から下げたアイテムバッグを嬉しそう撫でる彼女。


「そうか、なら良かったよ。……さてさて情報屋さん。そんなあなたに、買って欲しい情報があるわけなんだが……」

「ほうほう、流石はワールドクエスト攻略者。早速おいしい情報を手にしてきたんだねぇ」


 悪い顔でニヤリと笑うラビック。

 

「じゃあ折角だし場所を変えよう! ゆっくり先日の話も聞きたいからね!」

「了解だ」


 そうして俺はラビックに続きギルドを出て、とある喫茶店へとたどり着く。

 中は落ち着いた雰囲気で、壁には書物が並んでおり、喫茶店というより図書館に近い内装だ。


「へー、こんな所もあるんだな」

「うん。ここ、僕のお気に入りの場所なんだー。あ、マスター! 奥を使わせてもらってもいいかな?」

 

 ラビックが声を掛ける先には、椅子にゆったりと座り、古書を読み耽る一人の老紳士の姿が。


「ん? ああ、構わないよ」


 彼はそう言って静かに本を閉じ、掛けていたモノクルを机にしまうとカウンターの奥へと消えていく。

 

「ね、雰囲気あるでしょ? なんか外国、ってかんじだよねー」

「そりゃまたふんわりとした感想だな」

「しょうが無いでしょ! 行ったこと無いんだからさー」


 そう言って、少し寂しそうな顔をするラビック。


「そっか。じゃあいい店に出会えて良かったな」

「うん! ほんとこのゲームに出会えて幸せだよ。あ、ここのお店、珈琲も超美味しいんだー。楽しみにしててね!」


 そう楽しそうに語りながら、彼女は奥の部屋へと進んでいった。

 恐らく俺が物に触れないことを忘れているなと苦笑しつつも、俺も彼女の後を追う。



「それでそれで? 僕に売りたい情報って何なのかな?」


 部屋に入り椅子に腰かけると、彼女は早速本題を切り出してきた。


「唐突だな。まあいいんだけどさ。とりあえず……これをご覧ください」


 そう言って俺は、彼女に自分のステータス画面を表示して見せる。

 召喚者同士であれば、こうして許可した相手にステータスを見せることが出来るようだ。


「おー、結構レベル上がったねー。流石は攻略者」

「10%だけだけどな」

「十分でしょー。何人召喚者がいると思っているのさ」

「……確かにそうか」


 現在召喚者は日に日に増えており、今では3000人を目前にしている。

 そう考えると、10%はかなり大きな数字だ。


「ふむふむ、スキルも順調だねー。それから使い魔の方はっと……ほっほー、なるほどなるほど」

「お眼鏡には敵いそうか?」

「そうだねー。これは高く売れちゃうだろうねー」


 そう言って、ニヤニヤと画面を眺めるラビック。

 俺もそんな彼女と一緒ににやけつつ、一緒に画面を覗き見る。




名前 マイム

種族 スライム

個体種 ドーピングスライム New‼

レベル 0

生命力 270

魔力  -

体力  26

筋力  26

知力  15

技術力 26

俊敏力 9

スキル 消化吸収1 魔法被ダメージ上昇1 アイテム効果上昇1 New!

STP48 




 個体種、ドーピングスライム。

 スライムのレベルを上げる際、魔石を使いまくった結果現れた進化先だ。

 見た目は普通の進化先である【ビックスライム】と変わらないようで、昨日ギルドに行った時も特に怪しまれることはなかった。

 モンスターに対して使える【モンスター鑑定】も召喚獣に対してはその主の許可が無いと使えないらしく、今この情報はおそらく俺の独占状態だ。


「ドーピングスライム。スキルは【アイテム効果上昇】かー。またとんでもない物を見つけたね」


 そう言って、楽しそうに使い魔をつつくラビック。


「こいつが現れた後、そこら中に転がってた魔石を勝手に吸収しだしてな。レベルアップのアナウンスが流れた時は驚いたよ」

「あははー。確かに【召喚】を持っていないと知らないよね。まぁ逆に【召喚】を持っていると魔石は召喚に使っちゃうんだけどさ」


 そう、【召喚】でモンスターを召喚するためには大量の魔石が必要になる。

 魔石も落とす魔物の強さによって価値が異なるそうで、価値の高い魔石を使うと強いモンスターが出やすい。という噂らしい。

 なので【召喚】スキル持ちの召喚者は、魔石でレベル上げを行う事はまず無いという。


「使い魔は【召喚】のモンスターより経験値を貯めるのが大変だってことで敬遠されているからねー。この情報が広がったら、また見方も変わってくるだろうね。でもいいの? これは君にとって大きなアドバンテージになるはずだよ?」

「まあそうなんだけどな。でもまあいつかはきっと知られることになることだろ? だからラビに上手く情報を広めて欲しいんだよ。昨日みたいなのはもう懲り懲りだからさ」


 今はアドバンテージになる情報だが、いつかきっと他の誰かが見つけてしまうだろう。

 そうすれば、俺の使い魔の秘密にもいずれ辿り着かれてしまう。

 だったら先に、知っている人間を増やしてしまおうと考えた訳だ。

 

 ただ、掲示板に載せるなどして一気に広めるのも悔しい。

 と言う訳で、情報屋のラビさんに上手く儲けてもらいながら広めてもらおうと考えついたのだ。


「なるほどねー。よし、了解だよ! こういうのを喜びそうな人たちは何人か心当たりがあるから、まずはその辺りから巻き上げることにしようかな! っと、そうだ。情報料は――」

「あー、それなんだが、魔石払いにすることは可能か?」

「へ? まぁ出来なくはないけど……割高になっちゃうけどいいの?」


 現在魔石は【召喚】に使用するため人気があり、どこも品薄状態だ。

 そのため値段がかなり高くなっている。


「ああ大丈夫だ。俺は装備やアイテムを使わないから、ガルも別に欲してないからな。それよりもガルで魔石を集めて怪しまれる方が恐い」

「あーなるほどねー。キミは今人気者だから」

「全く嬉しくないけどな」


 渦の一件で、俺は今どこに行っても監視、もとい注目されている。

 そんな中で魔石を買い集めれば、一気に話が広まってしまうだろう。


「あはは、だよねー。じゃあ今ここで出しちゃうね。昨日手に入れた魔石がたんまりあるから」


 そう言って、アイテム用のカバンから大量の魔石を取り出すラビック。


「……多くないか? いくら何でもここまでの情報じゃないだろう」

「まあ昨日のお詫びも兼ねてねー。昨日の騒ぎは、僕が口止めしちゃったことが原因でもあるわけだし」

「いや、それは……」


 仕方がない事だとは思うが……。


「ま、昨日稼がせて貰ったお礼も兼ねてってことで、受け取っちゃってよ!」

「……まあ、そう言う事なら……」


 迷惑を掛けたはずなのに、お礼を言われてしまう不思議。

 まあそれで彼女の気が済むのなら、ありがたく受け取っておくことにしよう。

 俺はマイムを呼び寄せ、彼女からもらった大量の魔石をそのまま吸収させてやった。




【マイムのアイテム効果上昇のレベルが上がりました】×4

【マイムのレベルが上がりました】×9




「おーおーこりゃいい食べっぷりだ。ところでさぁ、なんでマイムって名前にしたの?」

「ん? そりゃあ……こうするためだよ」


 そう言って俺はマイムのステータスをいじった後、画面を彼女に見せてやる。



名前 マイム

種族 スライム

個体種 ドーピングスライム 

レベル 0》9

生命力 270》310

魔力  -

体力  26》31

筋力  26》31

知力  15》19》85

技術力 26》31

俊敏力 9》13

スキル 消化吸収1 魔法被ダメージ上昇1 アイテム効果上昇1》5

STP48》66》0 



「うわー、こりゃまたえらく思い切ったステ振りで。マジックスライムで、マイムってところかい?」

「まあ、な。スライムにも属性付きの奴がいるって、昨日の召喚士たちから聞きだせたからな。折角魔力を共有できるんだ。だったら使い魔を新しいスキル枠として考えてもいいんじゃないかと思ってさ」

「なるほどねー。召喚士たちがこぞって物理モンスターを取りに行っている時にキミってやつは……でもいいの? 確かに【ビックスライム】の進化先には各属性魔法を使えるモンスターが存在するけど、【ドーピングスライム】がそうとは限らないよ?」

「あ……」


 恰好付けて今まで貯めていたSTPをすべて使ってしまったが、その可能性は考えていなかった。

 ……少し早まったかもしれない。

 そんな俺を見て、ため息をつきつつ苦笑する彼女。


「全くキミってやつは……まあでも、多分大丈夫なんじゃないかな? 今まで召喚獣の進化は一定だって説が濃厚だったんだけど、ドーピングスライムのおかげで進化にはそれまでの行動が影響して特殊な選択肢が生まれるって分かったからさ。キミみたいに一度も戦闘させずに進化させるなんて極端な人、中々いなかったからねー。だからここまで全振りすれば、きっと何かそれに見合った進化先が出てくるはずだよ。たぶん」

「そ、そうだよな。うん、きっとそうに違いない」


 俺は彼女の言葉に頷き、なんとか自分を持ち直す。 

 

「あはは。まぁまた何か新しいことが分かれば教えてよ。魔石でたっぷり支払ってあげるからさ」

「……わかった。その時はまたよろしく頼む」

「はーい! っと、きたきた。ありがとマスター!」


 カチャりと机に二つのコーヒーを運んでくれた老紳士に礼を言い、彼女はその香りを楽しみ始める。

 俺はそれを恨めし気に睨みつつ、無言の抗議をしてやる。

 

「ん? どうしたの? ……あー、そうか。キミが触れないのを忘れてたよ。……ごめんね?」


 本当に申し訳なさそうに落ち込む彼女に、俺は毒気を抜かれてしまう。


「いや、いいさ。俺も先に言わなかったのが悪いんだし」


 二人の間に微妙な空気が流れる。

 とその時、マイムがプルプルと震えつつコーヒーの傍に移動し、身体を触手の様に伸ばしてカップの中に突っ込んだ。


「「……」」


 俺たちはそれを口を開いて唖然と見つめる。

 そしてマイムはカップの中身を半分ほど吸収した後、


「――kepu」


 と満足げにゲップの様な鳴き声を出す。

 そしてこちらに移動し俺の腕に触手を伸ばし、そのまま引っ張るようにしてカップへ誘う。


「【消化吸収】を使えってことか?」

「――Pigi!」


 肯定と言わんばかりに元気に返事をするマイム。 

 そんなマイムに俺は苦笑しつつ、霧状の腕を【魔素操作】で少し細くし、カップに突っ込み【消化吸収99%】を使用した。


「……美味い」

「――Pigi!」


 手から味わうという未知の体験をしつつ、珈琲の香りと味を楽しむ俺。

 そんな俺を見て、ラビックが呆れつつ呟いた。


「キミたち、良いコンビになりそうだよ……」


 そう言って、互いに吹き出して笑い合う俺たち。

 この世界に来て初めて味わう珈琲は、少し苦く、けれどもとても優しい味に感じられた。






※魔石を経験値として吸収する際は、消化吸収スキルを使用しているわけではありません。

 飽くまで経験値アイテムとしての位置づけです。

 そのため、他のモンスターでも魔石による経験値アップは可能です。

※モンスターはレベルアップ時ステータスが合計5アップします。

 使い魔はその内の2をSTPとして割り振ることが可能です。

 進化時にはその進化時のレベル数と同じだけステータスがアップします。

 使い魔はその半分をSTPとして割り振り可能です。

 例)スライムレベル20がドーピングスライムへ進化する際、ステータスは20(内10はSTP)アップ。



マイムの進化直後のステータス詳細


名前 マイム

種族 スライム

個体種 ドーピングスライム

レベル 0

生命力 270(130+120+20)

魔力  -

体力  26(13+11+2)

筋力  26(13+11+2)

知力  15(6+8+1)

技術力 26(13+11+2)

俊敏力 9(4+4+1)

(スライムレベル1ステータス+ランダムアップ+進化アップ)

スキル 消化吸収1 魔法被ダメージ上昇1 アイテム効果上昇1 

STP48 

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