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暗黒と少年-インタールード-  作者: みんとす。
二ノ章 -郷戦-
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第八話 紫眼ニ焼キツク裂戦―Ⅱ

 

 ―十八年前。アーバンアングランド都市、后郡(ごうぐん)

 ここには、ある魔石の存在が確認されていた。この魔石を巡った争いは、後に、一つの都市を青郡と光郡とに分けるきっかけとなった。



 銘郡に建つ剣術屋敷の応用生だった俺―ルノタード=リン―は、数日に渡る抗争を耳にした担当教育師によって、講技の一環という名目で、后郡に出向くことになった。

 死傷者はすでに五十を超え、煙や炎、銃声など、荒々しい空気で溢れかえっているという。


「……何でまた、俺たちも?」


 当時の俺のクラス担当、男性教育師ウィック=アジー。貫禄のあるその男は、四十を超えながらも現役の敏腕教育師だった。


「あそこはこの地の中心だ。そんな場所で、数日殺し合いが続いている事態は異常だろう。原因は定まっている、既に数十年前から確認されている魔石。どういうわけか触ることはできないらしい。そんなもの、普通気味悪いもんだが……」


「守る派と壊す派、その二つがこの数日でぶつかり合ってるんだろ。それくらい予想はつく。何で応用生の俺たちが出る必要があるのかって聞いているんだ」


「そんなもの、実践の一環だ。屋敷内だけで自分の腕を過信するのは、非常に危険な上に根拠のない自信になる。応用生は外でも動ける重要なクラスだ。だからこそ、今回は応用生の中から優秀な者は連れていく。そう手は打ってあるからな……ほら、じわじわと声をかけた応用生が集まってきた」


 ウィック教育師の視線は、俺から後方に向けられる。俺はその視線の動きに従い、数人の応用生がこちらに向かってくるのを目に留めた。俺と同じクラスの者、もう一つの応用クラスの者、計五名だった。


「早かったんだな、ルノタード」


「……まあ、な。色々話したいことがあったから」


 そこには、一人だけ女性が混ざっていた。俺のクラスでは見覚えのない、薄茶色の髪色を持つ、気の強そうな若い人だった。


「ああ、一人紹介しておこう。今回は私と、この教育師が引率だ。新人だが、腕はある。ミーラン=ハートフェルト教育師。二十一の若さだが、信用していい。私が保証する」


「よろしくね、応用生のみんな」


 その女性を軽く紹介されたものの、興味も湧かなかった俺は、軽く会釈をするだけに留まった。


「あれ、つれない男の子がいる。ていうか、君背凄く高いね。いくつあるの? その、おでこの痣は……?」


「痣のことはどうでもいいだろ。背は百八十センチあるけど。……って、こんな話してる暇あるのか?」


「正直言ってないな。すぐにでも出るぞ、少し急がせてもらおう」


 ウィック教育師は踵を返して、大股で歩いていった。それを見て焦った俺たちは、小走りでその背を追った。

 外の空気は、どこか重く、黒い気がした。





 銘郡から后郡までは、歩けばそれなりの時間がかかる。しかし、空気、音、異臭、様々なものは、早々と俺たちの身に届いた。それだけで、抗争の程度が伝わるものだ。


「これは酷そうだ……」


 そう言うウィック教育師は、俺たちを置いていきそうなほどの速さで、どんどん先へと行ってしまう。


「待ってください、ウィック教育師!」


 ミーラン教育師も、急いで追うが、その背中は一向に大きくはならない。俺たちは、全速力で走った。



 そうこうしているうちに、黒ずんだ靄のようなものが視界に入り始める。后郡は、もう目の前だ。時折、隅の方に転がっている死体が目に入った。


「……こんな死体が、五十を超えている……か。その魔石とやら、直接見るしかないな」


「ルノタードって、ほんと表情変わらねーから、その発言もどういう心境で言ってんのか分かんねーな」


 同じクラスの応用生は、俺にそう言う。確かに、自分でも時折思うが、俺は表情が感情についてこない時がある。笑うことはできるのに、それ以外の表情はからっきしだ。


「早くウィック教育師に追いつきましょう。中も気になるなら、それこそ急いで!」


 屋敷で言葉を交わした時とは違う。ミーラン教育師は、緊張を感じている表情を見せていた。腕はある、とあのウィック教育師が言っていたのだから、おそらく、異常を直に感じたのだろう。


「言われなくても急ぐ。ああ、それから、ミーラン教育師に一つだけ言っておくけど……」


 戦に巻き込まれたら、間違っても、俺を庇う真似はしないでほしいと。俺は大勢で戦うことに、現段階では向いていない。一対一、相手が多い分には構わないが、味方が多すぎると、味方が傷つく可能性があるためだ。俺の剣術、スタイル、俺は俺で、自分のタイプを(わきま)えているつもりだ。



 后郡内に入り、目にしたものは、異常な死体の数、悪臭、真っ赤な染め色。全てにおいて、悲惨さがひしひしと伝わってきた。

 ウィック教育師は、内情を知るべくして既にその足で調査を進めていた。幸い、現在は何の音も響いていない。疲れ果て、汚れた住民と、警戒を強める男たちがうろついている。


「ウィック教育師」


「あれからまた、状態が悪化したらしいな。死傷者は百を超えたらしい。多くの女、子どもは避難をしているらしいが……何人か、巻き込まれて死んでるな。見ろ、あの奥の方だ。子どもが数人、固まって死んでる」


 林のように木が並ぶ一角。の、その奥。教育師が示した方角に歩を進めると、そこには、十歳前後と思われる子どもの死体が転がっていた。


「ルノタード……?」


 度々話しかけてくる男は、俺の様子を窺っている。同時に、目の前の子どもの死体を目にしたようで、言葉を詰まらせていた。


「……巻き込まれて死んだ子どもは、どんな気持ちで死ぬんだろうな。こんな、大人の考えのぶつかり合いで起きた身勝手な争いで……こいつらは、生きられる時間を奪われた」


 喧嘩は誰にでも起こり得る。けれど、それが命を奪う結果をもたらしてはならない。それなのに、この有様だ。


「魔石は見てきたのか?」


「ああ……よく分かんねーよ。お前も見てくると良い、私はもう少し奥の方を見てくる」


 そう言ったウィック教育師の顔は、いつも通りだった。

 それでも、その背中は少しだけ陰っていた。


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