第七話 紫眼ニ焼キツク裂戦―Ⅰ
二ノ章-紫眼-は、本編 二:‹暗黒›ノ章方舟ノ編、四:拓ノ章心傷編を読んでいると、
より話が分かります。
─都市分裂及び大都市虐殺。その事件の名は、アーバンアングランドにいる者にとっては、一度は必ず聞いたことがあるだろう。耳にしない理由もない。それは、俺が生まれる前に起きた、ある大きな戦だ。
今、青郡という名である都市と、そこに隣接する光郡。俺や、ラオとウィンの出身地であるそこは、十八年前、大きな都市抗争が起きた地でもある。
教育師室内に設けられている、休憩室のような小部屋。俺たちは、そこに備えられたテーブルを囲うように、椅子に腰を下ろしていた。
「あの事件は、……俺が十六歳の頃か。応用クラスの屋敷生は、講技の一環として関わったから覚えている」
戦として名付けられているだけのことはあるようで、ルノさんから見ても手が付けられなくてもおかしくなかった事件だったらしい。そのせいで、多くの人間が亡くなったことも事実で。その中にいたラオの兄、ガント=ビスの友人もまた、紛争に関与していたと、ラオは付け足して話した。
ラオには、七歳離れた兄がいる。当時を考えれば、十歳に満たない子どもが、経緯はどうあれ、その戦に巻き込まれてしまったということだ。
「俺も生まれたばっかの頃だ。直接見たわけじゃない。でも、俺たちの生まれた場所として、俺も知りたい。光郡で……いや、后郡で何があったのか」
青郡と光郡が分かれる前の名前、都市后郡。広い区域の中に、大きな集まりが二つ、あったそうだ。その理由は、青精珀にまつわっていたという。
青精珀を受け入れ、守ろうとしたのが、今の青郡側の人間。逆に、青精珀があることに不信感を抱き、壊そうとしたのが、今の光郡の人間、ということらしい。
今となっては、詳細を知る人はほとんどいない。今住んでいるみんなは、青精珀を守っている者のみだ。
「青精珀は、昔から延々とあったわけじゃない。俺が知る限り、青精珀の存在が公になりだしたのは、約三十年前。最初は珍しがっていた住人も、触れないことから恐怖を覚えたんだろうな。それで、守る派と壊す派に分かれたようだ」
「結構最近なんだな。もっと昔からあるものだと思ってた」
「俺も似たようなもんだったな。とにかく、原因になったのは青精珀。十年くらいかけて、守る派と壊す派の内部抗争が徐々に激化したんだ。でも、それ以外のことはよく分かっていない。まず、后郡に青精珀が現れた理由。そして、激化してしまった理由。それを止め、首都を青郡とした人物。……とかな」
もしかしたら、それは何かしら〈暗黒〉に関与していた人物かもしれない。
青精珀は、そもそも〈暗黒〉にあった闇晴ノ神石と呼ばれるものだった。今だから分かることだが、双方の存在を保たせるためには、大切なものだ。
「でも、今はお互いに喧嘩とかしないよな。俺なんか、その六年後に青郡に行ってザイに会ってるし」
「俺の母さんとラオの母さんが仲良かったんだろうな。分裂前から」
「ああ、かもしれないね」
そう、今は分かれさえしているが、后郡としての都市にいなかった、今の俺たちくらいから下の住人は、お互い交友関係にある。親が引き離しそうなものなのに、それは謎の一つでもあると思う。
「……でも、方舟のことにしても、都市分裂にしても、青精珀が絡んでたんだな」
「それで、何も知らずに、ウィンやザイと楽しく遊んでるのを見て腹が立ったのかな。俺の兄からすれば、失った存在だもんな」
時期を考えても、巻き込まれた子どもにとっては、一番ショックを受けるだろう。今ラオは、光郡の人間として生きている。となると、その彼は反対派だったのかもしれない。
「ひとつの騒ぎで、人を狂わせたんだな。結局、青精珀はどういう形で青郡に現れたのか分からないけど……」
「最初に見つけた住民は、驚くどころじゃなかっただろうな」
「つまり、都市分裂のきっかけは青精珀、もとい、闇晴ノ神石。守る派と壊す派の内部抗争で、巻き込まれたり戦に出たりして亡くなった人がたくさんいる。でも、后郡を二つに分けた今では、何で交友関係がもてるまでになってんの?」
「そうだな。きっかけとなっている青精珀は未だにはっきりとしない実態のもの。ただ、后郡自体に手を打った教育師はいたんだ。俺が応用生の頃に、担当だった男がな」
首都を変えるなんていうことは、ちょっとやそっとのことでできることではない。ましてや、それを分けるなんて。
「俺にも深いことまでは未だに分からない。もう掘り返す必要もないから、探ってるやつなんてそういないだろうし。でも、こんな目の前にそのものを握っていそうな奴が二人もいる。俺の話を聞く利点はありそうだな?」
〈暗黒〉が関係しているかもしれない、そこまでは分かったものの、本当に知られていない存在だということが実感できる。何も知らない人間は、その裏の世界なんて想像もしないだろう。
「そしてその十一年後。方舟の騒動は起きたんだ。もしかしたら、その被害を光郡の奴らが支援したのかもな。お前たちも、怪我を負ったんだろ?」
「大怪我したのはザイだけだけど。……でも、方舟を作ったのはザイの母さんだよね? あんな魔がついたもの、青精珀を壊そうってしてた光郡の人間が支援したとも思えない……」
「……魔がついたものだからこそ、青精珀を壊せるかもしれない。そんな逆の発想なら、有り得るだろ」
否定はできない。触れないものへの対処なんて、人間はとてもやりきれないだろう。となれば、次に手を出すべきは、自然と導かれてもおかしくはない。
「だからって、俺の母さんを使う理由は……」
「ラオガ君の母親と仲が良かったって言ってたな。ただでさえ青精珀を壊したい側にいる人間が、守ろうとしている者に無闇には近づかないだろ。すでに都市も分裂した後だ。交友の線を誰かに悪用されていたと仮定すれば、ザイヴ君の母親を使ったことも納得できなくもない」
「……その線を……そうか……。何が正しいとか分からないけど、それなら、何かすっとする」
俺の母さんとラオの母さん、二人の交友関係を利用して、俺の母さんに横からものを吹き込んだ者がいる。なくはない話だ。
「……まあ、そんな仮定はそこまでだ。都市分裂及び大都市虐殺で、何が起きたのか。俺が見たもの、関わったものを、お前たちは知るべきだ」
―特に、表裏の要を持っている、お前たちは。
そう言って、ルノさんは話し始めた。俺たちの知らなかった、知識だけの大きな抗争を。現実にするために。




