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暗黒と少年-インタールード-  作者: みんとす。
一ノ章 -日常-
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第六話 柑子ノ香ト振ルウ腕―Ⅴ

 

 あれから三日が過ぎた今日。講技を終えた僕の元に、ソムがやってきた。もちろん、講技を終えたばかりということもあり、屋敷生は広間内にいるわけで、ザイ君とラオ君はこの状況に気づいて僕の後ろから顔を覗かせていた。


「ザイヴ君もラオガ君もお疲れ様、ガネの講技にはもう慣れたの?」


「まあ……ほとんど顔出せない分、感覚は掴めないままだけど、そこまで難しくもないって感じ。ラオはもう慣れてるだろうけどね」


「そっか、ラオガ君は経験長いんだったね。……あのね、昨日ウィンちゃんと相談して、食事会を今日の夜することにしたから、お知らせに来たの」


 思ったよりも直前の報告ではあるものの、特別用事もない僕は、素直に了承した。聞くと、ウィンさんはトールから食材をもらい、すでに準備ができているという。ウィンさんの方が、計画性があるようだ。


「ウィンの機嫌が良かったのって、それだったんだね」


「私から言うからって、秘密にしててもらってたの。今日の朝のこと?」


「講技に来る前に見かけたんだけど、いつもより気分高めって感じだったから。楽しみだね、ザイ」


「うん。前にシェルシーに行った時以来の手作りか。……ラオ、このまま試合(ゲーム)して時間潰さない? 良い意味で疲れとこうと思って」


 そう話を付けた二人は、僕たちに構わずに広間の中に戻り、竹剣(バンレード)を手にして向き合った。そこからは、他の応用生がいる中でも試合をし、周りの応用生からの目を浴びていた。


「……自分たちの中で抱えるものが大きいのに、凄いよね。二人とも」


「……だからこそ、一つ隙間を広げられてしまうと立ち直れないかもしれないけどな」


「隙間?」


 ―いわば、秘密。弱点。唯一無二の存在感。色々と公にしていないことは多く、彼らは彼らで、必死に背負っている。僕たちは近くで見守っているのに、ただ彼らの存在を護る(・・)ことしかできない身で。

 そこに踏み入る者が出てこないように、最善を尽くすことを強いられる。


「……そういえば、どこで食事会を? 食堂をわざわざ借りるまでのことはしないだろ?」


「私の部屋を使うことになってるから、みんなで来てよ」


「……分かった。二人を連れてから訪ねるから。頑張れよ」


「うん! じゃあね」


 満面の笑みを浮かべて、ソムは去って行く。僕自身、広間に残る用もない。一度教育師室に寄ってから自室で寛いで時間を費やすことにし、広間を解放したまま、僕はその場を離れた。





 ガネさんの姿がなくなり、広間には応用生が数人で残っている。しばらく味わえなかった日常が、久しぶりに続いている中で、俺たちは満喫していた。


「はー、でも二人ともすげーよな。その身のこなしといいさ」


 俺が応用生になってから、最初に声をかけてくれたお調子者の男が、俺たちの試合を見ながらそう呟いた。

 それを、俺は聞かなかったことにして、受け答えをラオに押し付けた。


 それほど時間も経たないうちに、応用生はほとんど広間から離れていた。広くなった広間で、空間を十分に使いながら試合を続ける。そのうち、声をかけてきていた男もいなくなり、広間には俺たちの竹剣がぶつかり合う音、地を蹴る音が残った。





 時間の指定を受けないまま、適当な時間を見計らい、彼らの様子を見ようと広間に戻ると、壁の窪みに座って談笑している二人がいた。広間の鍵を手に取ってから、二人の前に足を運ぶ。


「あ、ガネさん。戻ってきたのか」


「というよりも、あなたたちはあれからずっとここにいたんですか? 何事もありませんでしたか?」


「ああ、別に何も。試合して、疲れたから座ってた」


「そうですか。そろそろ時間かと思って、ついでに迎えにきました。ここにいてくれたので探す手間も省けて良かったです。ソムの部屋に来てほしいと言われているので、行きましょうか。鍵を戻すのだけ付き合ってもらえますか?」


 どうやらこの五時間程、広間から離れることなく過ごしていたらしい。何気なくある日常でも、こうして屋敷の機能に触れておこうとするところは、やはり彼らなりの、思いの大きさということだろうか。

 僕個人としての詮索を些かしてしまうも、彼らの和やかな雰囲気を見て、何も言えなかった。二人は僕の言葉に頷いて、広間を無音にした。





「あ! 来た! 大体準備できてるよ!」


 時間は、再の一時を少し過ぎていた。三人で訪ねたソムの自室は、良い香りが漂っていた。ウィンさんの姿が見えないところを見ると、調理場にいるのだろう。


「思ったより張り切ってますね」


「そうそう! ウィンちゃんの腕の見せ所だからね!」


「どちらかというとソムだと思いますけど……それで? あとどれくらいですか? 手伝いますよ」


「お皿とマグを持ってきてなくて。食堂から借りてきてほしいの」


 ソムの言葉を聞いたラオ君は、自分が行くと言って一人で場を離れた。残された僕とザイ君は、室内に入って配膳を手伝う。調理場に立っているウィンさんを見かけ、ソムより様になっていることを把握した僕は、やはり才能がものを言うのか、と内で思った。



 しばらくしてラオ君が戻って来ると、ちょうど料理も揃ったようで、ウィンさんとソムが最後に作ったポークパタタを持って来た。


「すげー、美味しそう!」


「二人で頑張ったもん。ザイもラオも、なかなか私の手作りを食べる機会ないし、たくさん食べてね」


「……ウィンさん器用ですね。得意なのはデザートだと聞いていましたけど」


「できないわけじゃないんです、少し気が進まないだけで。ソム教育師も頑張ったんですよ」


 にこりと笑うウィンさんの横で、ソムは少し得意げになっていた。オムレス、スープ、ニラのエッグバインドなどの料理が並ぶ机を、囲むように並ぶ。いつもと違った平穏を嗜むために、箸を手に食事を進めた。

 談笑をしながら食べ進めると、いつの間にか器の中の料理はほとんどなくなっていて、ウィンさんが見計らって持って来たプリンを全員で食べた。

 こうした特別感というものも、偶には悪くないと、それなりに実感した時間だった。




 ―時に、日常は残酷で。時に、日常は安寧で。過ぎつつある時間に流されて生きていく僕たちは、何ら変わらない平穏を求める。あるいは、平穏を信じて、非日常に向き合うのか。





「ガネ、また作ったよ! 自信作!」


 飽きもせず、食事会から数日経ったこの日も、ソムはまた料理を運んでくる。

 それは、いつまで続いてくれるのか。怒涛の嵐に飲み込まれ、静かに終わりを迎えるのだろうか。そう考えると、寂しさを感じた。


「……今日は何を持って来たんだ?」


「オムレスだよ。ウィンちゃんが作ったのが美味しくて、挑戦したの!」


 ウィンさんが作ったあのオムレスよりも、少し小さなそれを差し出され、僕はまた、それに口をつける。

 あのことがきっかけになったのだろうか。ソムにしては、自信作というだけのことはあって、早々と完食した。


「……初の成功例だな」


「うるさいなー、でも成長でしょ? 褒めて良いのよ!」


「……はいはい。美味しかった」


 ソムは嬉しそうに頬を染めて、満足そうに笑った。


オムレス→オムライス

エッグバインド→卵とじ



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