第六話 来タル日ニ想イヲ―Ⅱ
広間の戸締まりをゲランさんに任せ、俺たちは自室へ戻った。その道中、ラオが使用していた部屋へと足を伸ばす。静かな、暗い空間には慣れないものの、明らかに気持ちが違っていた。
(……こんな簡単なことに一年も気付かなかったって、怒るかな)
自分のために、何をすれば良いのか。それは同時に、彼のためにするべきことへ導いてくれるはず。俺自身のことに目を向けずにいた日々が、嫌に勿体なく感じる。
感情は分かれど、俺の本質が消えていたような、不気味な感覚。それを認識してから、今の俺に必要なことが見えた。
(……シリスも、ガネさんも、俺のことを気にしてくれてる。ウィンのことも、励ましてやらないといけないのに、だめだな)
─あいつに会いたい。怒って許して、受け止めたい。それは変わらない。でも、……あと一つ言うなら、俺がちゃんと自分を受け止めて、少しは、素直になってみようと思う。
落ち着いてから、青郡に顔を出す。ルデにそう言っておいて、協力してくれたギカには、事の顛末をまだ伝えていない。
今なら、言える気がする。
(明日、少しだけ外に行こう)
翌日。
快晴の下、屋敷の玄関を出た。隣にはウィンがいる。ポニーテールに結った髪を揺らして、俺の後ろを付いてきている。
歩幅はあまり変わらないけれど、彼女に合わせて歩く。それに気付いたのか、笑顔で俺をのぞき込んだ。
「晴れて、良かったね」
青郡に到着する頃には、追い風が俺たちにかかってきていた。
青郡にある青精珀は、僅かな輝度を保って揺らいでいた。一年前、一層強い輝きを放った後、今の状態が続いているという。
その僅かな色が、何か繋ぎ止めているようにも見えた。
「俺、バカだなぁ」
「ザイ? 大丈夫?」
「……もう少し早く、素直になれば良かった」
その言葉を聞いたギカは、少しの間を取って「ふはっ」と笑った。
「……強がりが素直に、ねぇ。あーっくそ、目が腫れて瞼が痙攣起こしてる」
「笑うとこかよ」
「前に、オレを頼ってくれたじゃん。この青精珀の時とか、屋敷で共闘した時とか。何だかんだ言って、ちゃんと頼りどころ分かってる奴だよ、お前」
ぽかんとする俺とウィンの肩に手を乗せ、滅多に見せない凛とした表情を見せた。
「お前らは、ちゃんとここまで来れた。十分じゃん。オレは、ダチとして、お前らのこと誇りに思ってる。お陰で青郡も活気づいてるしな」
俺たちの顔をしっかり見て、また続けた。
「……いいか。お前らが見つけた道なら、堂々と進めよ。ラオガと約束してんなら、オレとも約束だ。その覚悟、オレは全部受け止めた。しんどくなったら来ても良い。けど、自信失くすんじゃねぇぞ。お前らはすげーんだよ。互いに支えて守って、覚悟貫き通せ」
強い眼差しが、酷く焼き付いた。
俺もウィンも、自然と笑うことができた。
「……助かったよ。カッコつけちゃって、いないけど兄貴かと思った」
「ばーか、オレはそもそも年上だっての」
「ふふ、ずっと会ってなかったけど、ギカ君が友だちで良かった」
「あぁ、また来いよ。待ってるから」
肩に乗った手がするりと下りる。それから、他愛のない話をしながら、青郡を抜けるところまで歩いた。
ギカは、「行ってこい」と力ある言葉と、笑顔で送り出してくれた。
屋敷に戻り、スッと自信が身に染みて、ウィンと共にすぐにガネさんのもとへ行った。
「ガネさん、話させて。俺が気付いたことと、俺がやらなきゃいけないこと」
驚いた表情を見せながらも、すぐに安堵を見せ、室内へ招き入れてくれた。
「どうぞ。聞きましょう」
もう一度話そう。俺たちの、これからを。
暗黒と少年-インタールード- 完




