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暗黒と少年-インタールード-  作者: みんとす。
五ノ章 -邂逅-
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第三十五話 闇ニ蠢ク怪―Ⅲ

 

 ――人間が迷い込める条件。それは、我々にはコントロールのできないもので、〈暗黒者(それ)〉がこちらへ導くタイミングと合致しなければならない。

 他の怪異に先を越されてしまうことも、十分にあり得てしまう。例によって、薫もその存在を狙っている。唸りながら、龍のようにくねる体で宙を舞い、様子を窺っている。

 見つけ出す(・・・・・)方法は、未だによく分かっていない。吟が言うには、それは光を伴って現れるという。そもそも、怪異以上の力を持つ者だ。そう容易くいくものでもないだろう。


 それを、どうにか他の怪異に邪魔されぬようにする手は。……一つだけ、我の中に浮かび上がっていた。


 ――空間を隔離する。


 滅多に手を出さぬ手段だが、やむを得ない。それほどに、惹かれてしまっているのだから。その大きな存在に。その、大きな異様に。

 その手段をとることができる怪異は、一握りしか存在しない。怪異の中でも、能力の高い者しか得られないものだ。この能力がある、という時点で、その怪異は膨大な誇りをもって、在る。我はそのものに興味はなかったものの、こんな状態になって、その能力をもっていることに優越感を抱いた。


『……なかなか、うまくはいかんものだな』


『貴様モ、奴を探していルのか』


 薫も諦めていないようで、我と同様に機会を得ようと探りを深めている。関わりのある怪異だからこそ、薫には譲れない。譲ってなるものかと、内に強く秘めていた。

 ただ、薫が見つけた、というあの時以降、それは現れてはいない。その空白の中で、その存在は怪異の間で広まっていて、現段階でのライバルは、薫のみに留まらなくなっていた。

 だから、僅かに焦りを感じているのだろう。


 無謀なことはせぬように、などと吟は言っていたが、その無謀にも、染まってしまうかもしれない。






 それから、またしばらく時が過ぎても、その存在は現れなかった。

 飽き始めている怪異もちらほらと現れる中、我と薫は、それでも辛抱強く、それが現れる好機を逃さぬように、気を張っていた。

 しかし、薫と仲良く〈暗黒者-デッド-〉を待っていても、血の塗れる争いになり兼ねない。それは面倒だと、我は薫と距離を置いていた。

 ―その選択が、正しかったのか。ただの運なのか。

 吟に聞いた通りの、光を纏った「何か」が、闇の中に落ちてきた。それも、さほど遠くはない。隔離が届く場にある。


 我は、迷わず能力を使った。それを、逃してなるものか。それに会うために、我は待っていたのだから。




 隔離の内部には、横たわった人間が一人。のそりのそりと近づいて、その内人間が体を起こしたことを確認する。思ったよりも、隔離を狭く施してしまったようで、人間は立ち上がることができずに頭部に衝撃を走らせていた。


「痛……」


 小さく聞こえてきたその声が、何にも変えられぬ新鮮さを、我に与えた。その瞬間、ああ、やはりだ。やはり、我の中には、得たいとする欲が、湧き上がって来て。血気も高まる。


『……』


 無意識に、その隔離を解いていた。その影響だろうか、人間は何かを遮るように顔を覆いながら、一方の腕をこちらに伸ばしていた。

 ぞわり、何かに憑りつかれたように、異常な渇きを感じた。


『……る』


「……?」


 ああ。何という、高揚か。何という欲か。

 この人間が、〈暗黒者-デッド-〉。何も知らぬ、闇にも不慣れな、弱き者。しかし、この者がもつ力は、膨大で。何とも、何とも笑える矛盾だった。

 いやしかし、だからこそ。思った。感じた。

 吟の話を聞いて、何故そこまでして手に入れたいと願ったのか。

 ―人なれど、ならざる者。その妙な矛盾と、力を守りたい。護って、この者がどういう者なのか、知りたい。


『……て……る』


 我の言葉を聞き取ろうとしているのか、圧倒されているのか、人間は我の方をじっと見つめている。もう、すぐ傍まで来ているというのに、恐怖しないのだろうか。

 いや、気づいていない(・・・・・・・)のだ。この、目の前にいる化け物に。

 たまらぬ興奮は、我が先に予想した通り、ある欲に達した。


『喰ってやる』


 その言葉を聞いた瞬間の、人間の表情は、一瞬で変化した。

 それと同時に、我はその人間に触れた。僅かだったが、確かに。しかし、次の瞬間には、その人間は姿を消していた。


 惜しいことをした。もう少しだった。人間が我を認識するのに、僅かだった。


『……? これ、は……?』


 ただ一つ、先程までとは、何かが異なっていた。闇に染まっていた視界に、微かに煙のような靄がかかった。あの人間の、影響だろうか。そのうち、ふとそれは消え、我の脳に流れ込んできた。


 ―君は、……そう。……彼を、……俺を。託せそうだ。







 一体、何と繋がったのか。それは、吟に聞いて発覚したことだが、この時受けた言を機に、人間を我の意思で呼ぶことができるようになっていた。


 そして、再度人間を招いた時、はっきりと、恐怖に塗れたその顔を、目の当たりにしたのだ。



 ―ソノ少年ニ、契約ヲ。

 ここまで来たら、迷うことはない。人間に、……我の名を、届けよう。


 ザイヴ、という名をもつ、異端な能を眠らせた人間に。



※怪異視点は、本編冒頭に繋がっています

→次話以降本編後日談です。本編読了後をお勧めします。

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