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暗黒と少年-インタールード-  作者: みんとす。
五ノ章 -邂逅-
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第三十三話 闇ニ蠢ク怪―Ⅰ

本編前、〈暗黒〉視点のお話です。

 

 慣れた闇で、慣れぬ(いとま)を弄び、いつまでも終わりの見えぬ場所で、我は生きていた。

 ずっと。もう、ずっと昔から。何年、何百年、いや、何千年と生を無為に過ごしているだろうか。ここに我が存在する意味は何なのか。そんな答えに意味はなく、ただ、呆然と。特別な変化も求めぬままに。


 ―この時も、いつも通りに闇を貪っていた。



 ああ。何たる静寂だろうか。

 ああ、何たる臭いだろうか。

 ……ああ、何という無意味な争いだろうか。


 ここに生きるということは、闇に塗れてその身を汚すというもの。永い黒かと思いきや、少し先を窺えば、怪異同士が争った痕跡が残っている。能力に応じた各々の血液の色は、いかにして流されたのか。

 そんなものに、興味はない。あるとすれば、そこに横たわる大きな怪異の存在。どんな顔立ちで、どんな体で、どんな能力を持っていて。いや、知ってしまっても、何の役にも立たないが。


 暇潰しに我がすることといえば、信頼をおく怪異、(ギン)のもとで、それがもつ知識を分け与えてもらうこと。奴はここ、〈暗黒〉の中ではかなりの優れもので。この空間における全てを把握することができる、特殊な化け物だ。話し方に特徴はあれど、吟から聞く話は、唯一と言っていい程興味があった。


『……穏慈、オマエ、ハ……ソノ、名ニ、悔イハナイカ』


 我の名は。

 ―旺。それは、我の生命を脅かす化け物がいたことで、捨ててしまった。

 今は、吟が呼ぶ名で、既に納得ができている。何と言っても、その事件があった時に、吟が与えてくれた名だ。文句を言う筋合いもない。その名があったからこそ、我は生きていると言っても、過言ではない。


『ああ、ない。……それよりも、また何か話を聞かせてくれ。暇で仕方がない』


 静まり返る闇で、我々の声だけが反響するように相互間で交わる。吟は我の訴えに応じて、口を開いた。

 ―この時に、初めて耳にしたのだ。この、怪異しかいない世界に、存在することができる異物のことを。その異物が、この世界を裏とする世界に生きている、ということも。

 その話は、これまでに聞いた話の中で、もっとも興味を惹くものだった。“存在できぬ存在、人間”が、特殊に怪異と交わることができる、唯一の能力。しかし、これは誰もが得られる能力ではない、と。吟は言った。


『ソノ人間ガ……時機ニ能力ヲ、醒マス……ダロウ。ソウ、世界ニ……ナニカガ起キル。ソンナ、気配ガ……スル』


 吟の言葉は、時に抽象的で、時に、その反対で。話がうまいのか、そうでないのか。明確にはできなかった。しかし、その“特殊な人間”とやらの話を聞いていると、不思議なことに、その存在に近づきたい、と。何の根拠もなく、それに触れなければならぬと。誰にも言わぬが、そう感じていた。


『吟、その人間は、何故特殊であるのか。それは知らぬのか』


『無論……シッテ、イル……ソノ者ハ、〈暗黒者-デッド-〉トイウ、名ヲモツ……。ソレハ、該当ノ者以外、ニハ、決シテ、異変ヲ流サナイ(・・・・・・・)。両世界デ、膨大ナ能力、ヲ、解放デキル……怪異ヨリモ、強力ナ者ダ……』


 理解はできた。この闇にそぐわぬものが、異例として存在する。ただそれだけの話。しかし、吟はその深い部分を知っているはずで。聞き出そうとはしたものの、その点だけは、知らせてはくれなかった。


『……一概、ニハ、言エヌガ……コレハ、ソノ者ガ現レナケレバ、コノ()ハ、応エテハ……クレヌ。タダ……ソノ全テヲ知リタイト、本当ニ願ウナラバ……ソノ者ニ、近シイ者、ニ、ナレバ良イ』


『近しい者……か』


『アア……両世界デ、力ヲ持ツタメニ。……ケイヤク(・・・・)、ソレヲ、モチカケルト良イ……』


 時間を割いて、吟の話す〈暗黒者-デッド-〉のことを聞いていたが、話の区切りがついたところで、吟の知識を分けてもらったことに謝辞を入れ、場を離れながら、我なりに端的に纏め上げる。


 特殊で、怪異以上の力を持つ人間が、近いうちに現れる。

 我の名を知らせ、契約の同意を得ることで、怪異はその者に近しい者になり、能力も向上する。

 怪異は、その異例の者を喰らうことはできない。さらに、仮に体内に取り込んだとて、能力の膨大さに耐えられず、壊れてしまう、らしい。


 一先ず、今得たのはこれくらいのものだ。恐らく、それ自体が目の前にないがために、信じ切ることはできぬが。それでももし、実際にその者が現れたとしたら。


『……なるほど、暇潰しにはなるかもしれん。それほど能力に困っておらんが……どの程度の者か、見てみようではないか』





 それから、さほど時も過ぎぬ頃。

 話の通じる、ある一体の怪異が、興奮しながら我を訪ねてきた。『異物ヲ逃シた』と。そう、息を荒げていたのだ。


 この怪異が、どうやってその異物(・・)を見つけ、その存在を知り、得ようとしたのか。もしかしたら、吟が話を伝えていたのかもしれない。

 しかし、怪異は言った。


 ―私ガ見つケた。


 悔しそうに言い放つ奴の言葉は、我にヒントを与えた。その異例の者は、我々()、見つける必要があるようだ。


『……ふん、なるほど』


 ならば話は早い。また、その者を見つけることができるタイミングを逃さず、引き当てればよいだけだ。


(クン)、久々に面白くなりそうだ』


『ああ? ……貴様、笑っテおるのか』



 ああ……どうしてこうも、疼くのだろう。


 ―何故、“会いたい”と、願うのだろう。何故、言葉だけで、“惹かれる”のだろう。

 その答えは、今は分からぬ。……ああ、分からずとも、良いだろう。



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