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暗黒と少年-インタールード-  作者: みんとす。
四ノ後章 -足跡-
33/43

第三十二話 黒ノ定ノ路―Ⅲ

 

 あの座学の日以降、ホゼの講技は少しだけ難易度が上がった気がする。計画されていた応用クラスの見学も、その後間もない頃に取り入れられた。

 何を焦っているのかと、そうは思うが、俺たち三人と話した時に見せたホゼの表情は思い出せない。応用クラスの見学も、組まれた理由は明かされなかった。

 

「ね、応用クラスって凄いんだね! 私固まっちゃった」

 

「あの教育師、口調は丁寧なくせに言ってること厳しかったな……」

 

 それについていく応用クラス生も、とんでもないとは思う。それでいて頭も良い人間が揃っている。本当に全員がそうなれるのだろうか。

 

「レベルの差は感じちゃうね」

 

「あ、いやでも、ラオは並べそうだなって思っちゃったよ、俺」

 

「本気で言ってるの? 今日見た教育師って、最近応用クラスに上がった人だけど、かなり厳しい人だよ。さすがにあのクラスではなぁ……基本クラスで担当違って良かったと思ってるもん」

 

「えーそれは遠慮したい」

 

 話を聞く限り、その教育師は稀に見る実力をもって、屋敷生に指導をしているらしい。違うクラスの担当教育師に興味をもったことは、正直なかった。

 

「でも、そんな実力つけた人に教えてもらえるって、凄いことだよ。教育師はみんな強いけどね」

 

「ラオは真面目だね。ねえ、私もあれくらいできるようになると思う?」

 

「んー、あそこまでなるのは無理かな。あんな強くならなくて良いよ、俺とザイの方が間違いなくウィンのこと守ってあげられるんだし」

 

「えへへ。じゃあお言葉に甘えて、しばらくはそうしてもらおうかな」

 

 見学は良い刺激になった。それは間違いない。しかし、何か別の思惑があるのではないかと、何となく疑ってしまっていた。それは考えすぎだと、ラオにやんわりと諭された。

 

「よし、見学の刺激が大きい時に講技が組まれてるわけだし、ちょっと張り切ってみる?」

 

「どういうこと?」

 

試合ゲーム。講技まで少し時間があるから、広間でやらない?」

 

「おおいいね! ウィンも来るよな!」


「もちろん!」

 

 見学終了の三十分後、俺たちには講技の時間がやってくる。ラオの言うとおり、刺激を吸収した直後だ。

 

 基本クラスの剣術広間には、クラス生が各々集まっていて、試合をしたり、竹剣バンレードを手に素振りをしたり、様々だ。

 考えていることはみんな同じ、というわけだ。

 

「おうラオガー。お前らも来たんだな!」

 

「うん、やっぱあんなの見たら来るよね。この辺誰も使ってないね?」

 

「多分な。結構本気でやってる奴もいるから、一応気をつけろな」

 

 その同クラス生は、時間も惜しいと言うように足早に友人の元に向かう。俺たちも広間に常備されている竹剣の中から一本ずつ手に取って、ラオの言う「この辺」に戻ってきた。

 

 向かい合って、ウィンの掛け声を受けると、すぐに試合は始まった。

 

 

 

 

「んーで? お前ら気合入りすぎて講技前に疲れちまってんの?」

 

 講技が始まる時間になって、ホゼが広間に来る頃には、息が上がっている屋敷生で溢れていた。ほぼ全員がそうだ。

 

「ったくよー、何のための休憩時間だよ……その意欲は大したもんだが、この数十分でそんなに疲弊してたんじゃ実戦なんか怖くて出せねーよ。まいーや、えーっとー……元気なのはラオガにザイヴにウィン……それからマイリズとノクア、ガーイリア、ジュン……くらいか……んー……」

 

 その場に立っていて、且つホゼと目を合わせた者の名を次々と挙げたかと思えば、考え込んで黙る。これから何をしようというのか、検討のつかない俺たちは互いに目を合わせるくらいしかできなかった。

 

「……よし、女が三人なら、二チーム作るから女は二、一に分かれて入れ」

 

「じゃあ私はこのままザイとラオと一緒にいようかな」

 

「ラオガ君強いよね、あたしもそっちがいいなぁ」

 

 そう発したのはノクア、特別強いとも言えない一歳下の女の子だ。それでも、ホゼは強さは関係ないからと、チームは組ませなかった。そんな事があって良いのだろうか。

 

「お前らは、既に疲労が溜まってる状態だ。ハンデといえばチーム内の数だが、関係ない。簡単なテストだ。その人数で、連携をとって私に攻撃して来い」

 

 突発的なものだが、要するに個としてではなく、集として動いてみせろ、というわけだ。個としての強さが関係ない、と言ったのはそのためだろう。

 しかし、そんな動きは今まで本格的に取り入れられた試しはない。

 

「結構急じゃないですか」

 

「そんなラオガのために説明しよう。いくら一人が強くても、誰かがそれを台無しにしたり、次の攻撃に繋げられなかったりすることはある。それが団体で戦う時の穴だ。一人でも邪魔と思われる動きをすれば、チームはその穴に落ちる。私はお前らを応用に上げるために色々と考えているが、一番成果が出るのはこれだと思っている。組んでこそ、各々が考えて動かなきゃなんねーだろ?」

 

 数日前に挑発し合えなんてふざけた座学をしていた者の口からは、そんなまともな答えが並べられた。納得せざるを得ない俺たちは、その言葉通り、順にホゼと戦うことになった。

 

「じゃー四人組から来い。一人を相手にどう動くか、考えろよ」

 

 そう言って構えた竹剣は、一本で屋敷生に圧力をかけている。ホゼ自身がもつ、個のオーラというものだ。

 四人はガーイリアという名をもつ男を先頭に、思うようにホゼにかかっていったが、結局、ホゼは一人で四人を圧倒した。それは、一瞬の出来事だった。

 

「ったく、ばらばらすぎて話になんねー。連携ってのは一人一人が、一人一人を見て、適した判断をする。数で押しても空振りにしかなんねーよ。はい次」

 

 四人を放置して、そのまま俺たちの前に来る。いつでもいいぞ、と一言言うと、また構えて、動かない。

 

「……私は、フォローに回るよ。二人で動きを決めて」


「ラオに合わせる」

 

「分かった」

 

 ラオが動き出し、俺もそれに続く。ウィンはその全体を見ようと、少し後方にいる。

 

「なるほど、さっきよりはマシだ」

 

 ラオが前方を取れば、俺は振り切られる方のサイドを取る。相手も武器を振りにくいはず、という感覚だ。そして、ラオが動けば俺もそれに応じて動く。

 そこに、変化球のような形でウィンが入れる隙を作ると、ウィンもそれには気づいていたようで、すぐにそこに入ってきた。

 ホゼは一本しか持っていない。ならば、止めれば良い。

 

「っせあ!」

 

 俺が止めた瞬間、ウィンも俺の竹剣に重ねるようにホゼに対抗。手の空いたラオが、一気に畳みかけたい、というところだったが、力の差というものは歴然としていた。

 

「うあっ」 

 

「いってえ!」

 

 俺たち二人は軽く吹っ飛ばされ、床に落ちる。残ったラオも、時間差で近くに転がってきた。

 

「……んー、やっぱお前らの連携っていうか、仲の良さが出てんだろうな。互いの良いところも悪いところも何となく見えてんだろ。でもまだだめだ、弱いところが多い。これからだな」

 

 体を起こした俺たちを確認すると、今度は全員に向けて口を開いた。

 

「仲間同士でそれぞれの技能を認めて、活かすのは結構だが、それが行き過ぎた時には変則的な考えについていけなくなることがある。その時のその人物の動きを、その時々で受け入れ、捕らえろ。……いや、語弊があるか。として、として、心を託せ。そうすりゃ何となく動きも変わる。変えろ」

 

 心を託せ。

 凄く重い言葉にも聞こえたそれは、びりびりと神経を伝って全身に響く。

 それは、どうすることで成し得ることができるのか。弱い頭の俺では、その解答は得られなかった。

 その後、屋敷生の疲弊が考慮され、今日予定されていた内容は明日の講技に持ち越されることとなり、場は解散になった。

 

 ラオは、ホゼが広間を出て行ってから、呆然として言っていた。

 

 ―教育師の力は、こんなものではない。

 

 


 

・・・・・・

 

「ボーッとしてどうしたの?」

 

「ラオ、懐かしい話してもいい?」

 

 覗き込むように話しかけてきたラオに、思い返した言葉を投げかける。どういうことだったのか、と。今更ながらに。

 

「心を託せ……確かに、ホゼはそんなこと言ってたね。俺もあの人のあの時の考えは分かんないけど、今のこの状況を、もしかしたら分かっていたのかもね」

 

 ホゼは今、身を隠しながら俺たちの命を狙っている。今有力なのは、何かを掴みかけているガネさんの存在だ。

 

「そういえば、その時に見学したクラス担当ってガネさんだったね。あの人のクラスは嫌だみたいなこと言ってた気がするよ」

 

「結果そのガネさんが担当なわけだけどな……まあ状況が状況だし、あの人の実力には助けられてるし……」

 

「そうだね、ザイの腕もぐんと伸びたし。心を託せ、ってそういうことじゃない? 相手のことを知って、相手に自分のいろんなことを伝えて、見せて、理解してもらう。そうじゃなきゃ、命預けられないしさ」

 

 なるほど、と一言零す。完全に理解したわけではないものの、人との繋を強くもてば、何か見えるものがある。そういうことなら、まだ時間がかかってもいいだろう。

 また、忘れた頃に思い出すかもしれない。

 

「じゃあザイ、ちょっとだけ座学の復習でもしようか?」

 

「お断りしたらどうする?」

 

「お断りさせなーい」

 

 笑顔で食い気味に言うラオは、変わらない俺の座学の成績をぎりぎりで支えてくれている。その、昔から変わらないラオの優しさは、本当に気持ちが悪いものの、俺たちの間には、必要な“思い出”でもある。

 

 ちょっとだけ、という言葉通り、ラオの復習の時間は二十分程度に留まった。


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