第二十八話 黒ノ纏ウ色筋―Ⅴ
あれから日常的な一日が過ぎ、ガネさんから伝えられた、グループ試験当日になった。グループ試験とは言ったが、簡易的なものだ。今回は俺やラオの境遇を考慮して組まれた、補技の時間というわけだ。
「さて、先日個別にザイ君とラオ君には進捗を聞きましたが、いかがですか?」
集まった俺たち五人を前に、座学室の前方に立つガネさんは、答えを待って黙っている。次いで、口を開いたのはシリスだった。
「それなりに、準備はできたと思います。まあ、一日しかみんなで集まれていないけど。それでも何とかなりそうな気はします」
「そうですか。それなりの期待はして良さそうですね。……では、さっそく座学の方から行きましょうか。一枚の紙を配布しますので、各々で記入してください。今が初の五時、大体恒の零時になったら声をかけますね」
時間は約一時間。今までは座学に対する苦手意識が強すぎて、集中する気も起きなかったが、今回は違う。ラオをはじめ、グループのメンバーが集まって今日のために頑張った。そして、今回はグループ全員の平均で評価が成される。俺が足を引っ張るわけにはいかない。特に、グループ内のユラを目の敵にしているわけだが、彼よりも下にはなりたくない。俺の活力の動機は、そこにあった。
言われた通り、紙が配布され、一般常識から一般知能の範囲まで、加え、いくつかの条件で設定された環境を使用した剣術の応戦方法。様々な分野からの問いが、何十問と並んでいた。
最初の集中力は俺も驚くほどのものだったが、徐々に、問いが進むにつれて、疲労はしてくるわけで。
(ううう……頭痛え……)
脳に蓄えた知識から、さらに厳選された目の前の問いを答えるための、いくつもの扉。何度も開け間違えて、三十分を経過した俺の脳の回路は焼き切れそうになっていた。
少し離れて、横に座っているラオは、黙々と紙と向き合っている。対称的な位置に座るシリスも、ラオと同じようにすらすらと手が動く。その奥のチェインとユラは、表情が緩み切っている。俺と同様に、集中力が切れてきているのだろう。
(……でも、これだと、変わらない)
足を引っ張るかもしれない、先日はその思考から投げやりになってしまったのに。そう思えば、自然と紙に向き合う気になった。
苦手は苦手だし、できれば避けたいものだけれど。特に俺に協力してくれた二人には、申し訳なくて。
俺の目は、再度紙に向いた。
ガネさんから終了の合図がかかり、一人ずつその紙を手渡して座学室を出る。今日の予定としては、恒の二時から剣術が残っている。今からすぐに採点があり、剣術の時間を終えたら、すぐにでも結果が交付されるだろう。
とにかく、苦痛の時間が過ぎ去ったことを、一先ず安堵するしかなかった。
「ザイお疲れ、どうだった?」
「ラオ……うん……まあ、……うん」
「あはは、でも今までとは顔色が違うよね。ちょっとはいいかもね」
「おれもザイヴ君に貢献できたなら嬉しいな。ところで、後ろのあの二人は何だと思う?」
時間は昼食時で、腹ごしらえをするために全員で食堂に向かっていた。最後方にいるチェインとユラは、どよりとした表情で、ぐちぐちとぼやきながら歩いている。
「えええ……」
「いやまあ、チェインはあんな顔だから怖いよね。ユラはふざけてるようにしか見えないんだけど」
「シリスゥ……ちょーっとひでーんじゃねーのー……」
「チェインと比べてみなよ。怖くないから」
チェインの表情は、明らかに般若だった。
食事を終え、広間にやってきた俺たちは、気分も一新され、竹剣を手に持って自由に体を解していた。先程まで強張っていたチェインとユラの表情も、すっかりいつも通りだ。シリスはチェインとユラと、三人で手合わせをしていて、俺とラオも、それを横に試合をするのみだ。時間がくるまで、ただひたすらに。
しかし、体を動かしていると時間というものはあっという間に迫ってくるわけで。
「お待たせしました」
待っていたわけではないが、その時間は訪れた。
「今回は少し変化をつけてみます。君たちの実力を踏まえて考えたので、喜んでください」
その剣術の評価の方法は。
―二対一の試合。普段俺たちがしている、一対一の試合の中のどちらかに、ガネさんが加わってゲームをする。
「ただし、僕とペアを組んだ人にも課題があります。僕の剣を避け、コンビネーション、協力、様々な技法で相手を追い詰めることが大切です。もちろん、一人で戦う人は、死ぬ気で防御してください」
そんな、少し無茶のある工夫だった。




