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暗黒と少年-インタールード-  作者: みんとす。
四ノ章 -辿り-
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第二十六話 黒ノ纏ウ色筋―Ⅲ

 

 ラオとシリスの協力もあり、二時間も経過すると、座学の内容は一通り終わらせることができた。この時間内で把握する限り、苦手としている割に、座学の話は半分ほど聞いていることに気づいた。そのことに得意気になると、二人とも半笑いで休憩を入れようと言った。

 一方のユラとチェインも、それなりの進捗があるようで、俺たちの休憩に合わせて書を閉じた。二時間続けて書に向かい合えるほどの集中力は、やはり相応の能力と言うべきか。視界に入る四人は、それでもほとんど疲労を感じさせなかった。


「ザイ大丈夫? 疲れたんじゃない?」


「ああうん……お前ら何で元気なの……」


「んー、おれはザイ君が頑張ってくれてたから、おれも頑張ってあげようかなって思って。教えるのは好きだから、苦じゃないし、面白かったな。ザイ君、時々顔が怪訝になってたよ」


 自分では気づかない表情の変化を、シリスはひっそりと楽しんでいたらしい。表情筋というか、眉間というか、力が入っていたらしい部位には若干の引きつった感覚が残っていた。


「だからちょっと顔が疲れてんのか……」


「あはははは!!! 待ってザイちゃん! 勉強して顔が疲れるって何! ひいい最こいだあああ!」


 その悲鳴は、俺が投げた書が顔面に直撃したためのもの。全く後悔はしていない。


「がっ……ああ……痛い……凹んだ……絶対でこ凹んだ……」


「当たりどころが良かったようで何よりだよユラ。削れてくれればもっと良かった」


「ザイちゃん時々本当にえぐいこと言うよね……」


「ちなみに捕捉しとくけど、ザイはもともとこんなこと言わないからよっぽどユラが嫌いなんだね。今まで以上に露見したなあ」


 疲れた脳を休めるべく、腕を枕にして机に伏せる。体勢的に少し背中に負担がかかっているものの、どうにか区切りがついて、安心した。

 大きく息を吐いて、視界を遮り、周囲の会話を耳にしながら、思考回路を緩やかにしていった。


(それはともかく、ユラは絶対に許さない……)





 しばらくの休息を挟んだ後、今度はユラとチェインを中心に書を捲っていく。二人とも俺よりもその成績は良いものの、グループ成績となると足りないらしく、中でも優秀なラオとシリスの話を真剣に聞いていた。

 ここまでくると、寧ろ優秀組の頭の作りが恐ろしくなってくる。

 少し離れた位置で四人の様子を見ながら、適当に書を捲って時間を潰す。一人で勉強する方法なんて、俺には見当もつかない。読み耽れば良いものなのか、はたまた書けば良いものなのか。つまらない時間だ、と徐に書を閉じ、気分転換という名目をラオに伝えてから座学室を出た。


 今回は座学が問題になっていることから、講技に関しては触れられていないが、体を動かして直接覚えるのが俺のやり方だ。一応講技用の書もあるが、あくまでもそれは手本のスタイル。それを真似したところで、実際は個人の癖や能力など、多くの個人バランスがある。だから敢えて軽く目を通すだけで、もともと持っている素質を利用しているのだが。


(座学はそうもいかないもんな……)


 強張った体を伸ばすと、滞る血の流れが解放されたのか、多少のふらつきを覚える。壁を背に、少し放心してみようと座り込んだ。


(……俺が足を引っ張る、か。自分で言ったけど、こんだけやったところで、多分)


 負に負が重なれば、それなりのストレスになるものだ。それを、どう解消していけばいいのか。その点、不器用なのだろうが、全く算段が立たなかった。放心してみようと思ったものの、気掛かりで、うまくいかない。


「少年、何をしている?」


「……あ」


 通りかかったのは、オミだった。何食わぬ、いつも通りの顔で、俺に手を伸ばす。その手を取って立ち上がる俺の様子を窺って、オミはもう一度尋ねてきた。


「こんな通路で、どうした?」


「疲労回復中」


「それにしては中途半端な場所だな」


「そうだね。良いんだよ、すぐ戻るから」


 オミに事情と、どうしても抜け切れない苦手意識のことも、我ながら呆れ半分で話した。

 まじまじと話を聞いてくれたオミは、低い声で俺に呼びかけた。


「……得意も不得意も、別に大した問題じゃないと思う。それに、負に負が重なったとしても、負に負が掛け合わされば(・・・・・・・)、正になることもあるんじゃないか?」


「どういうこと?」


「まあ、全てが正に向かうとは限らないが。確かにストレスはストレスにしかならないからな。それでも、ほんの一握りでもそれを成果(・・)と呼ぶことができれば、私の言葉の意味も分かるかもしれない。頑張れ」


 おそらく元気づけようとしてくれているのだろうが、疲れた俺の脳には全く理解できなかった。

 肩を優しく叩いて、彼は俺の目の前から去って行く。


 ほんの少しだけ、荷が下りたような気がした。



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