第二十四話 黒ノ纏ウ色筋―Ⅰ
応用クラスに上がってからのある日常
暗い世界で。歪んだ世界に誘われて。
俺の日常は一変した。
生きてきた道に、突如現れた分岐道。その分岐を辿る以外の道は、その時消え失せた。塵のように。俺の意思を、まるで無いものとするように。
世を均衡に保つために存在する、いわば裏世界。〈暗黒〉と呼ばれるそこに棲息する怪異が、俺を導いた。導かれた俺は、その特殊とされる能力を持つ、〈暗黒〉に存在できる〈暗黒者-デッド-〉として、課せられた最終目標に至るために、人知れず息をしている。
その過程の最中。基本クラスの担当教育師が屋敷を裏切ったことをきっかけに、手助けができる、という理由で、その担当教育師-ガネ=イッド-の手配があって、応用クラスへの進級が決まった。
応用クラスでの講技は、基本クラスとはレベルが違う。数回参加しただけではっきりと差を感じられるほど、クラス生の実力はそれなりだ。その中で、俺も講技を受けている身となった今。俺の中ではある問題が浮上していた。
―応用クラス、座学室。
剣術の腕だけではなく、頭脳面でも磨きをかけていく座学は、俺には少々厄介なものだ。というのも、俺は座学が苦手で、その成績は下から数えた方が早いほどだ。もちろん、試験的なものはある。講技との合算というありがたい形式のおかげで、賄えていたのだが。目の前には、俺の所属するクラスを担当する教育師が、座席に座る俺を見下ろしていた。
「僕がわざわざ時間後にこうして声をかけた理由が分かりますか?」
「……分かるけど聞かない」
「へえ、それで免れられると思っているんですか? 嘗められたものですね」
「そうは言ってねーだろ。実際分かってんだよ、俺の座学がほんとにやばいって」
視線を横に向けると、俺の隣では、ラオが不安そうにこちらを見ていることに気づく。保護者のようなラオのことだ、俺のことをただただ心配していることだろう。
「それもありますけど、さっきの僕の話聞いてました? 座学の最後に言ったことです」
「何か重要なこと言ってた?」
「ザイ君? 自分の立場を踏まえてもう一度答えてくださいね? 聞いていましたか……?」
異常な負の空気を感じ取ったところで、俺は改めて、聞いていなかったことをそのまま伝えた。横のラオも、頭を抱えている。この状況は、どういうことだ。
「ザイ……あのね……講技のグループがあるでしょ?」
「ん? ああ、あるね」
「今度、俺たちのグループで個別講技ってのがあってね。もちろん座学も含まれてるんだけど、それの評価はグループ成績……つまり五人の成績の平均で決まるんだよ。言いたいこと分かる?」
優しいラオは、そうして俺が答えを導き出せるように問いかけを行ってくる。その言葉を聞いて分からないほどのバカではない。
「俺が足を引っ張るってこと……? うわあ……申し訳ない!」
「申し訳ないじゃなくて上げようとしたらどうですか! 講技面はともかく、座学で落とすでしょう!」
「正直そうだけどそんなはっきり言うなよ! いやー申し訳ねえなー!」
そう言う俺の額には、強く握られたガネさんの拳がぐりぐりと押し当てられていた。重くかかる圧は、その拳だけではない、ガネさん自身が放つ嫌な空気そのものだ。
拳が離れてもじんじんと痛みを維持し続ける額を押さえながら、項垂れるしかなかった。
「とにかく、ザイは頑張ろ。明日休みだし、五人で集まってさ」
「ええええ……ていうか五人でってことはあいつも一緒ってことだろ……?」
「何言ってんの……当然でしょ。シリスもチェインもユラも、集まることは賛成してるんだよ。まあ、ザイと俺は講技に出ないことも多い分、気にはされてるからね」
グループを組んでいる四人は、座学面では俺よりも優秀であることは間違いない。それを否定するつもりはないが、組んでいる内の一人が、どうにも人の話を聞かないお調子者で、苦手意識しかない。
「ユラとは一番離れたところにいたい。ユラは本当に無理」
「ユラ君を毛嫌いするのは……まあ多少同意できますけど、ほどほどにしないとチームワークに関わりますよ」
「まあそこは俺とシリスとチェインが何とかしてるけど……あいつは確かに人の話を聞くべき」
「否定はしません」
その男の一件は、この場の全員一致となった。




