第二十一話 黒ノ覚エノ途―Ⅰ
本編よりも前のお話です。
アーバンアングランドには、いくつかの地域がある。その中でも、剣術屋敷を構える地域は四ヶ所―箔志部、埜都、翔寥、銘郡と呼ばれる、おおよそ東西南北各一か所ずつに存在する。
屋敷としての在り方は、教育師試験部及び監査官部―通称【本部】で取り纏められており、世に害を成すものへの処罰、警師の手助け等、勤める教育師たちの仕事は数多い。また別に、新たな師を育成するべく、屋敷には多くの少年少女が在籍し、その腕、頭脳を磨いている。
そんな、四ヶ所に設けられたうちの一つ。世の首都、青郡にほど近い銘郡の域内にある剣術屋敷は、中でも優秀な師が多く、トップを飾るほどの評価を得ていた。
そこに、ある少年たちは、身をおいていた。
屋敷の中にあるクラス編成は、大まかに言えば、基本クラス、応用クラス、そして特殊クラスの三種。適正に応じて振り分けられ、基本と応用に関しては進級も含まれる。そして、教育師として教える立場に立つには、応用クラスに在籍し、また、本部が執り行う試験に通らなければ叶わないこともあり、応用クラスの屋敷生の腕はそれなりのものと認められなければならない。
―そんなクラスに、俺の友人は進級していた。二歳年上の、幼馴染の男だ。
「応用クラスって、凄いんだよね? じゃあラオも凄いよね。私もいつか応用クラス行けるかなあ」
「ウィンはまだしばらく基本クラスっぽいなー。頭は良いのに」
「ザイだってしばらく基本クラスでしょ。腕はいいのに座学がだめだもん」
屋敷に在籍するようになって、五年。十五歳の俺たちは、未だに基本クラスに留まっている。さすがに剣術を学ぶだけのことはあり、技術面、頭脳面、計算面、あらゆる面での学びを吸収させられる。充実はしているものの、俺たちはそれぞれで伸び悩む成績を持っていた。
友人は俺たちよりも早く屋敷にいたことで、一足先に応用クラスに行ったのだろう。しかしそれよりも、成績がかなり良いのを、基本クラスにいる中でも間近で見ていた。
「あー俺剣術だけで応用クラス行けねーかなー」
「無理でしょー。そこは厳しいもん……あ、ホゼ教育師来たよ」
基本クラスの担当教育師、ホゼ=ジート。腕はかなり良く、だからこそ基本クラスを任されていると聞いている。基礎を作るためには、やはり相応の実力をもって教示する必要があるらしい。
一人称が「私」というところだけが、俺にとって慣れない要素だ。五年間担当ではあるが、その点だけはどうしても違和感でしかない。
「おーし、揃ってるかー」
基本クラスはいくつかのクラスに分かれているが、俺がいるクラスは二十人弱程度だ。ホゼ教育師はそれをまとめ、一人一人を把握し、個々に適した指導をしてくれている。ただ、変わらない表情で冗談を言うこともあって、どこまで本気でどこまで冗談なのかが分からない時も、度々ある。そんな師だった。
「長期休暇明け、ってだけあって久しぶりに見る顔が多いが……どうだ? 少しは課題をクリアしてるだろーなー?」
長期休暇、とは。屋敷全体で取り入れられている、休息期間だ。もちろん、各々剣術の課題、座学面での課題に集中して取り組む期間であり、また進級のタイミングでもある。定期的にある長期休暇は、俺たちの伸びの効率化を図るものだと、どこかで聞いた。
「課題かー。俺の課題座学だもんなー。剣術はそのままでいろって言われてた」
「休み中私と剣術してても、ザイは手を抜いてるから物足りなかった?」
「そこはラオに付き合ってもらってた。さすがにウィン相手に本気じゃできねー」
俺たちが二人で話をするのと同様に、他の屋敷生もざわついている。クリアしたかしていないかではなく、この後に控えているあることがそうさせていた。
ホゼ教育師の呼びかけで、俺たちは全員、基本クラスが剣術を行う際に使用する広間に移動することになった。
「……じゃ、早速だが実技のテストだ」
次の長期休暇までの期間で、何ができるのか。何を伸ばすのか。それを見るための簡易的な試験だ。この結果を踏まえて、ホゼ教育師は個人個人のスキルアップに繋げていくための計画を練る。
「誰からやってもらうかなー。やりてー人ー」
「最初に終わった方が楽だな。……俺やる」
「あ、ザイヴは最後な。分かってんだろ、こん中じゃお前が一番上だっての。最初にさせてたまるか」
「ええ……あんたの都合じゃん。じゃーウィンやってきたら?」
「それなら歓迎だ。ウィン、竹剣持って前に立てー」
ホゼ教育師が俺に高評価を与えてくれていることは素直に喜ぶことだが、だからと言って最後に回される俺の身にもなってほしい。嫌な意味で、目立ってしまう。
「ザイヴは運動神経良いもんな。入って来てからすげー早さで伸びたし。何でまだ基本にいんの? バカなの?」
「うるせーその通りだよ」
座学だけは、どうにもならない。それが、俺の現状だ。
俺の提案でトップバッターに出たウィンは、不安そうな目で、前に立つ師を見ていた。僅か一分ほどの攻防で、その腕を見極められ、「力の入れ方」と「相手に応じた動き」の二点を挙げられていた。
それからは、ホゼ教育師が適当に名前を呼んで試験を進めていき、最初に言われた通り、最後に俺の順が回ってきた。
「俺をすげー評価してくれるあんたに一つ提案したい」
「あ? 何」
「次の長期休暇で応用クラスに」
「その頭で応用にできるか。私の職位にも影響するだろ。こんなバカを応用に送ってくんなって苦情くるぜ!」
「ああああああ! 失礼な教育師だなあああああ!」
どうあっても、座学の成績は影響した。ちなみに、座学の成績は下から数えて片手で足りる。
もう一度確認するが、これが俺の現状だ。




