第二十話 魔ノ赦シト共ニ―Ⅲ-2
―青郡から始まり、崚泉、銘郡に赴き、その足で地を踏みしめた。その道中で見た景色は、人が住むための澄んだそれで、吾には眩しかった。
何日もかけて、魔物を利用し、吾なりの調べを進めた。結局、怪異という存在は、方舟を吸収していた、尾に炎を灯したものと、ザイヴやラオガの横にいたものしか知らぬ吾には、怪異についての知識を深めることはできなかった。
それでも、本能的に感じていることもある。魔物族や魔物とは、格が違う妖気を持っているということ。
それならば、必ず吾の力がなくてはならぬということもない。どう協力してやろうかと、調の段階で頭を捻った。
しかし、小難しく考えても吾らしくはない。それならば、吾のやり方で進んでやろうと、ある日、一度だけ訪れたことのある剣術屋敷の前に、再び立った。
「……貴様らは、この狭い世で、大きな世を見ているというわけか。とんだ大荷物じゃな」
周りをうろつく魔物が鳴き叫ぶ。ここは、今はすでに禍々しい、と。来るのが遅かったかと、その声に引かれるように屋敷の戸を開いた。
「お、お前、は……!」
動揺する管理の者に目を向ける。吾が二度もここに来るなど、考えてもいなかっただろう。
「一度来たことがあるはずじゃ。貴様の顔も覚えておる。……問う。吾は害ある者か」
「い、いや……。君の力は報告されているし、信用はできるらしい。でも今は」
「ではもう一つだけ問う。……この異常は、何じゃ」
―ただでは帰れぬ。ここまで来たのだから。戦うのならば、吾もまた、戦わねばならぬ。
その問いへは、濁った答えしか返ってこなかった。詳しい話は知らぬと見える。それならば話は早いもの。その濁りこそ、異常だ。
「通してもらうぞ」
通り過ぎる吾を、目で追っているのだろう。視線を浴びる。管理ではないものからの視線も、もちろんだ。
そんなものを気にしている程の暇はない。
「……ちっ、内部の構造までは覚えておらんが……。この殺気を辿るしかないのう」
そして、見つける。
歩くための足がつく、更にその下方から。今まで見た怪異よりも、大きな殺気が立ち上ってきている。
「ここか」
踏み入れた足が、びりびりと痛む気がする。こんな殺伐とした中に奴らがいるとすれば、相当苦戦すること間違いない。
案の定、戦の最中。吾が来たことなど、誰一人気づかない。
ザイヴの姿を探そうとしたところ、その名を呼ぶ声がいくつか聞こえた。
「ザイ!!!」
「ザイヴ君!」
緊迫した声から、危機的状況だろうと推測できる。その姿は、大きな魔の上方で鎌を持っている。魔は、電気を帯びていた。
強い閃光の中に飛び込み、吾は手にはめられているレザーを素早く外し、全開で能力を発揮した。
うまく間を通ったようだ。魔の叫び声と同時に、ザイヴを庇おうと向かっていたであろう別の魔が、その近くにいることを目に留める。
その背を借りて、落下するザイヴの腕を掴んだ。
「……え?」
「……よぉ、危機一髪じゃ。礼くらい言え」
その場の人間の、驚愕の表情と言ったら。言葉に表せない、という言葉の通りだ。
「何でいんの!?」
「何でもくそもあるまい……吾は吾の、怒りというものを返しに来ただけじゃ」
そう、吾が抱いた謝辞は、大きな魔を討つことで成される。
魔の敵として向かっている中には、例の人間もいる。吾々が知っている状況から、色々と変わったらしい。
「そこの、化け物にのぉ」
黒い炎が燃え上がる。
―すべては、その赦しと共にある。




