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暗黒と少年-インタールード-  作者: みんとす。
三ノ章 -シルベ-
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第十九話 魔ノ赦シト共ニ―Ⅲ

 

 ギカという人間の男は、シンマを見るなり緊張した面持ちを見せた。こんな初対面にこそなってしまったが、今のこの男に、吾々に敵意を向ける意思はない。吾も同様だ。


「……まず、貴様ら人間を巻き込んで悪かったのう」


「不本意だがしょーがねえ。オレに至っては、お前の敵に利用されてたのは事実だ」


「何でお前らが謝んだよ。オレはそこまで気にするような人間じゃねえ。……ここに来た目的は、オレに話を聞くことだけか?」


 単刀直入な話は、そうだ。吾が知らないこと、首を突っ込んでしまったこと。奴らに関わる全ての中で、この男が得ているもの。それが、今後の動きに関わってくる。


「できる限りで良い。吾々の問いへの応じを求める。言った通り、貴様らの力となるためじゃ。反論はあるか」


「ねえよ。……でも、本題の前に一つ聞かせてくれ。何で、あいつらを助けようとしてくれてんのか」


 その問いは、実に簡単なもの。あいつらの手があって、シンマと和解ができた。解放された。その謝辞を述べるには、言葉が足りない。それであれば、もう一つの手立ては。


「……吾々の手を使おうとし、シンマを利用し、悪用の(シルベ)を辿らせようとしたホゼという男。あれだけは許せぬ。ザイヴらがあれに命を脅かされていることも承知の上じゃ。……吾の行動に、矛盾はあるか」


「いや、……改めて安心したぜ。じゃあ本題だ。お前らの知りたいこと、できる範囲で答えてやるよ」


 快い、まっすぐな目は、吾ら二人に十分な熱意を届けた。非力ながらに、自らも協力してきた経験と、ザイヴが青郡に来たことで進んだ調査もあると、こちらの問いに躓くことなく答えてくれた。

 魔石―青精珀―のこと。ホゼの計画。ザイヴらの能力。聞きたいことは山のようにあったにも関わらずだ。


 人と関わらぬと思った頃もあった吾が、人に手を借りるだけでなく、貸すことになろうとは。あの頃は思わぬことだっただろう。


 気づけば、吾もシンマも真剣に話に聞き入り、ある程度の時間が過ぎて、茂みの外に映る影がうっすらと長く伸びていた。





「……ふむ、大体分かった。つまりザイヴの能力を使って悪だくみをしていたというわけじゃな」


「簡単に言えば、だけどな。青精珀だって、青郡の守護に関わってるなんて言ってるけど、ザイヴは〈暗黒(むこう)〉にも繋がるものだって教えてくれた。こんなこと、青郡の奴には言えねーけど……ババアが深入りは勧めねえって言ってた理由が分かる」


 最後の一言は、小声であまり聞こえはしなかったが、知るべきことは知れた。大まかな現状を把握でき、吾の行動は決められる。

 青郡にある魔石は、いつどこで狙われてもおかしくはない。しかし、あれを触ることができるのはザイヴとラオガの二人のみ。ならば、やはり奴らの近くにいることが最も近道だろう。


「シンマ」


「ああ……お前がしようとしてることは分かるぜ。こいつの話だと、そもそもホゼは剣術屋敷ってとこの師公だろ? なら屋敷をどうするつもりでも、あいつら狙って動くだろ」


「……オレもそう思ってる。青郡墜とすなんて聞いた時は身の毛もよだったけど、今じゃ翻弄されてただけだった気もする。青精珀が邪魔だってことは変わらねーだろうけどな」


「ふむ……良い。時間を取らせたな」


「もう、良いんだな?」


 再度確認を寄越す人間が、何を思おうと、吾の知ったことではない。そのはずだ。しかし、ザイヴが関わってからというもの、どういうわけかその心情に触れてみたくて敵わない。


「貴様からも何かあるのか」


 だから、吾は咄嗟に、そう返していた。意識的ではなくても、その言葉をかけて良かったと、きっと後で思うことだろう。


「……正直、オレがこういうことに加担するなんて思ってなかったからさ。オレも力になれれば、良かったのにな」


 人間は、そう言って自身の立場を悔やんだ。友への手が届かないことが、痛みとして唇を噛みしめている。そんな人間にかけてやれる最適な言葉というものを、吾は知る由もない。


「けど、そーやってお前がオレたちに答えられたってことは、あいつがお前を信用して話してるってことだろ。ここを託されてんじゃねーの? 離れててもお前がいるから、あいつらはあいつらで戦えてんだろ。隣にこそいねーかもしれねーけど、それも力の形じゃねーか」


 代わりに、そう言を投げたのはシンマだった。もともと人の心をもっているだけあって、吾にはない働きかけを可能としている。


「それなら、いいんだけどな。……あいつらのこと、頼む」


「……ああ、任されてやろう」


 薄暗い茂みを超え、人間は住処へと帰っていく。吾々は、多勢の人間の目に留まらぬうちにと、青郡から早々と離れた。




 青郡の外れを少し離れた場所で、腰を落ち着けて再度話をまとめ上げる。

 吾が提示したのは、こちらから屋敷に加勢しに向かうということ。手っ取り早いのはこれしかない。シンマは、それに対して賛成の意を表してくれた。


「オレも行く」


 もちろん、シンマもタダで済ませるつもりはないと言っていたことで、吾の案に乗っていたが、吾はそれを断った。行くべきは、吾一人だと。確実な武器がある吾に比べて、シンマは魔物が融合しただけの元人間。能力はあるだろうが、それがホゼに匹敵するものとも思えない。それに、確実と言えば、シンマには浮き彫りになった弱点が見えている。


「その、額の紡ぎ目。それが潰されれば、貴様は今度こそバラバラの無残な死体じゃ。一歩間違ってもそんな姿は見とうない。……貴様は、あの人間のフォローができる。であれば、吾々は別行動をするべきじゃ」


「オレがあいつのフォローができるからっての、理由になんの?」


「貴様を利用した奴を許せぬのは承知の上じゃが……それ以上に、吾はあいつらに借りがある。きっちり返して、再びシンマのもとに帰ろう。吾が帰る場所を、確実に(・・・)作っていてくれ」


 シンマが一度死んだあの時。吾の居場所はつまらぬ魔物の中に戻った。それまで友として、共に過ごした場所は、吾がいてはならぬ場所になった。

 二度とそうならぬように。場所を、逃さぬように。それが、吾が出した乞いだった。


「……お前何か恥ずかしいこと言ってんぞ」


「そうか? ……ふん、否定せんということは、承知したものと捉えた。何体か魔物も残してやろう、吾の気分を味わうがよい」


「余計な世話残してくんじゃねーよ。ったくよ、しょうがねえな……。ま、気持ちは痛いくらい伝わった。いいぜ、行って来いよ」


 宣言通り、能力が高めの魔物をシンマに渡し、吾は背を向ける。屋敷に行く前に、色々と動向を探る必要があるだろう。外からじわじわと攻め入るために、青郡の男から聞いた、ザイヴが関係した場所に出向くことから、吾の行動は始まった。


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