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暗黒と少年-インタールード-  作者: みんとす。
一ノ章 -日常-
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第一話 黒ガ希スル赤


 ─アーバンアングランド。俺たちが絶えず呼吸を続けていられるこの世界には、別に、裏の存在である〈暗黒〉と呼ばれる地がある。

 地と言うには、些か語弊があるかもしれない。そこは、人ではなく、怪異が棲息する極めて危険な場所。人は、ここに存在することはできない。

 しかし、例外の存在がある。それが、〈暗黒者-デッド-〉と呼ばれる特殊な者だ。


 そして、アーバンアングランドには計四か所に剣術屋敷が存在する。

 その中の一つ、銘郡と呼ばれる地にある屋敷に俺は身をおき、教育師から剣術、基礎知識、様々なものを学ぶ日常を送っていた。

 〈暗黒者-デッド-〉である、ということを知る、その時までは。




△ ▼ △ ▼


「私と手合わせしよう。少年」


 俺の部屋に入り、そう声をかけてきたのは、オミ=ルーブという男性。

 少し前に、俺が崚泉(りょうせん)にある塔に浚われた時に、その主犯を裏切って俺を助けてくれた、教育師資格を持つ者だ。

 一度は敵地で一緒に戦ったものの、それ以来一緒に戦う機会はない。


「え、急だな。いいけど何で?」


「いや、少年と戦ってみたくなってな」


 俺のことを“少年”と呼ぶことが定着したようで、彼の口から俺の名前が出てくることはない。慣れてしまった俺も俺だが、俺の名─ザイヴ=ラスター─くらい、呼んでくれはしないのだろうか。

 それはさておき、オミは屋敷一と言っても過言ではないほど真面目な性格だ。何をするにも、まっすぐで逸れない、きちんとした筋を通して人と接している。その点にかなりの好感をもてる俺は、それなりに信頼を寄せている。


「ふーん、まあいいや。じゃあ広間に行こう」


 俺より格上なのは間違いない。

 教育師資格を取るための試験では、俺が今属している応用クラスの担当教育師、加え、教育師の中でも高位にいるガネさんよりも、好成績で合格していたと聞いた。良い経験にはなるだろう。





 ガネさんに言って広間を開けてもらい、お互いに竹剣(バンレード)を手にする。ガネさんは用事があるようで、鍵を広間内の管理場に掛けると、すぐに広間から出て行った。


「少年、準備はいいか」


「うん、いいよ!」


 俺の言葉を合図に、オミは俺に接近し、竹剣を振り下ろした。俺も竹剣を操って止め、力を入れて竹剣を弾く。反動もあって、オミは素直に距離を作った。

 踏ん張ったのを見て、オミに向かって一直線に走り、竹剣を下から振り上げる。オミは横に避け、横振りで俺の足を払おうとする。

 それなりに対応できなければ、そのまま転ばせられるしかなくなってしまう。


「うわっ!」


 何とかタイミングを計って跳んで避け、着地後すぐに向き直る。オミが続けて振り下ろしてくる竹剣を、自分のそれで受け止める。


「以前から思っていたことだが、瞬発力もあるんだな」


「えっ、そう? ついてくので精一杯なんだけど」


 オミが竹剣を振り切り、力をかけられた俺は少し後ろに押される。姿勢を低くして転ばないように、踏ん張りを利かせて、重心を前にかけようと意識をする。

 ガネさんの講技でもやったことだ。実際にやってみると、バランスはともかく、隙を見せないためにも倒れることは避けたいところだ。


 が、力の差は歴然としている。

 俺はあっさりと背を床に打ち付けた。


 俺が立ち上がるのを待って、オミは再度竹剣を振る。

 俺はそれを一つ一つ防いで、オミが次の攻撃をする体勢に入った時に、わざとタイミングをずらして流れを止める。


「!」


 攻撃の隙をついて、こちらの反撃を入れる。隙さえ見えれば簡単な動きだが、逆を言えば、隙のない相手には通用しない。

 ただ、隙を無理矢理作らせることは、ある程度可能だ。


「あー! よし! 止めた!」


 止めたところで、次の手では俺から足元を狙う。もちろん、オミが避けることは分かり切っていることだ。だからこそ、足元は()()()()。右から振りきった竹剣は、左下からオミの左肩を狙って斜めに振り上げた。


「……いやさすがと言ったところだ、少年は強い。力では負けてないが」


「うわっ!?」


 オミは俺の竹剣を手で受け止め、竹剣ごと俺を軽く投げ飛ばした。もちろん、オミの方が体格も良い分、俺の体は簡単に浮いた。

 二度目の衝撃とともに床に転がった俺は、痛みに堪えながら近づいてくるオミを確認する。

 機会を窺い、腕の力だけで体を支えて足を振り上げる。オミが一歩下がった瞬間に、バク転の要領で体勢を戻す。


「……身軽だな」


「小さいって言いたいのか」


「いや……相手をよく見ている。文句はない。……これで最後にしよう」


「分かった」


 双方に、床を蹴って竹剣を振る。お互いに、振り、防ぎ、避け、集中を途切れさせることがないやりとりが続いた。

 それからどれだけの時間を使ったかは定かでないが、結果、不意打ちでオミに背後に回りこまれた俺は、首元に竹剣を置かれて終わった。


 教育師相手に正面からぶつかることができるのは、屋敷生としてはかなり喜ぶべきことだ。


 正直な話、教育師は戦術、能力においてレベルが違う。手を抜いていたにしても、こうして相手をしてもらえることは、実力を認められることにもなる。




「なかなか、疲れたな」


「はーほんとだよ。疲れた。やっぱ教育師ってなると、思い通りにはいかねーなー」


「少年の剣裁きもなかなかだと思うぞ。私は戦術に優れた家系にいる上、両利きである分、通常よりも多くの武器を操れる。その分の差だろう。少年が鎌を振れるように、教育師はいろんなものを扱える。少年は今後に期待ができるな」


「そりゃあどうも」


 オミは結局、ただ暇を潰すつもりで俺と試合(ゲーム)をしたかっただけで、それを終えてただただ満足しているという。

 本当に、何を考えているのか。こういう真面目な人間は、分かりやすいようで分かりにくい。ただ、その根から良い奴だということは、俺がよく知っている。


 あの時、崚泉で俺を逃がしてくれた時。いや、主犯から庇ってくれていた時から、その優しさは見せられていた。

 思い返される。あの、主犯(ホゼ)を裏切って、俺を逃がしてくれた時のことを。


 ─私は……少年に手を掛けるつもりはない。……逃げろ、少年。


 あの言葉は、あの時の俺にとってはかなりの衝撃で、何を言っているのか一瞬判断がつかなかったことも、よく覚えている。


 ─私はどうなっても構わない。


 そう言って俺の腕を引いて、逃げ道を教えてくれたことも。真面目だから、多くの視点をもって、できることがある。





「少年、また時間を作ってもらってもいいか?」


「もちろん。でも次は貰うからな!」


「……ふっ、楽しみだ」


 ガネさんが置いていった鍵を取り、広間を施錠してから部屋へと戻る。オミは教育師室に鍵を返すために、途中で俺と別行動になる。

 一人になった俺は、素直に自室に戻り、休息をとる。

 そのうち眠気が襲ってきて、夢の中に意識を投げた。



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