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暗黒と少年-インタールード-  作者: みんとす。
三ノ章 -シルベ-
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第十七話 魔ノ赦シト共ニ―Ⅰ

三ノ章-魔-は、本編 四:拓ノ章 泡影編を読んでいると、より話が分かります。


 

 ―始まりは、八年前に遡る。魔物族として生を受け、幼いうちに生贄として人型魔界妖物(マノイド)となり、魔物を引き連れて歩いていた。そして、己が持って生まれたもう一つの特異、黒い炎の能力。魔物族の中でも際立ったこの能力は、できる限り封じていた。あの時、友としてあの場所にいた者を救いたいと、そう願って、解放するまでは。


 結局、救えなかったその命は、八年経って目の前に現れた。魔妖系人体生物(ミスティノイド)―解体した人体を魔物が侵蝕して成した生物―として。それは、己の罪を強く意識させた。救えなかった命が、戻ってきていることに、多少の安堵を覚えたことも事実で。大いに動揺した。


 人間を巻き込んだ互いの衝突は、互いの赦しをもって、終息した。深い傷を負いながら、吾々は、宮杜(ぐうと)の外れまで来ていた。

 吾の右目は友によって抉り取られ、喉を裂かれ声も満足に出せない。友も、体中に火傷を負っていて、それらが回復するまでは、ただひたすら、安静に過ごした。




 いくらの夜を越しただろうか。ある日、吾の声は戻った。外れた眼球だけは、元には戻らないものの、それが己に科せられた贖罪であると、すでに受け入れていた。

 友―シンマの火傷も徐々に引いていき、日に日に回復傾向にあるのは、互いの目が認知していた。



 それからまた、数日が過ぎた頃。やっと落ち着いて話ができると、太い樹木を背に並んで座っていた。


「……すまねえな、その目」


「何、吾の非力さが生んだ、吾が背負わねばならんものよ。貴様が後ろめたく思う必要はない」


「お前と顔を合わせた時、自分でも意味分かんねえくらい怒りが込み上げてきたんだ。あの時死んだ、里の人間のこととか、里を襲ってきた輩のこととか、全部思い出して。オレはガキだったし、お前のこともよく分かってなかったし、何か、全部悪い方向に行っちまった」


「……全く、人と関わった吾のせいにしておけばよいものを。まあ、貴様は結局人ではなくなってしまっておるがのぅ」


 人間が解体され、魔物と融合した体。彼のちょうど毛髪の際にある傷跡は、その証明でもある。それが、融合体の弱点であることは、吾々融合体にしか分からない。もともと魔として生まれた吾とは、正反対の体だ。不完全と言っても過言ではない。


「記憶があるだけ、救われてんだよ。言っただろ、記憶がなくなったら死んだも同然だ。死ぬのは、誰でも怖いだろ」


「そうじゃな……。しかし、この宮杜で、こうしてまた肩を並べて話すことができるとはのぅ。吾の後悔が、浄化されていくような気分じゃ」


「つか、お前こそ、人間のオレを庇ったからそんな後悔しなきゃなんなかったんだろ。だったら」


「貴様のせいにしろと? はっ、笑えん冗談は聞きたくない。人と魔、比較した時点で優劣は決まっておる。人にとって見れば、魔とは異端な者。それが里にいるだけで、吾はすでに討たれる者であったはずじゃ。間違っても、人のせいにはできん」


 里が襲撃されたあの日。吾は自身の正体をシンマに打ち明けた。それでも吾の身を案じ、今でも吾の存在を受け入れているこの男には、心を許してしまう。あの事件から、人と関わらないようにしようと決めていた吾が、剣術を生業とする屋敷の人間の手を借りてしまったこと。もしかしたら、数年前の情を、無意識にでももってしまっていたのかもしれない。経緯はどうあれ、結局、奴らの手があり、存在があり、吾々は互いを赦し合った。


「ふん、まさかあいつらに後押しをされてしまうとはな。貴様にも劣らぬ、その上魔を救うために協力するなど。人の好さには感心せざるを得んのぅ」


「……あいつらって、あの時のか? ホゼが狙ってたあのガキ、何だったんだよ」


「……吾もよくは知らん。しかし、奴らが持つ魔を見たじゃろう。そのホゼという男の目的には、それが関係しているように思う。事実、魔石をどうこうと言いながら、うるさい男があいつらを連れて行っておったじゃろう」


「うるせえって……ヤブのことだな。ま、あいつと女は青郡で死んだみてーだけど。……オレも詳しい話は知らねえんだよ、オレの力を見込んでやってもらいたいことがあるって、それであいつに手を貸してただけだからな。お前のことも味方にしようとしてたみてえだし」


 その道筋から外れたために、ホゼはシンマを使って吾を処分しようとしたほどだ。余程シナリオを崩されるのが嫌いなのだろう。


「吾は誰かに従うなどという気はない。かと言って、無害な者を殺す趣味もない。……正直ザイヴに与えた宣戦布告は、遊びじゃったしなぁ」


「それ、あいつ知ってんの?」


「んん……まあ勘は良い奴じゃ。本気には捉えておらんかったじゃろうが、まあ遊びとまでは思うてなかったじゃろうな」


「遊びで宣戦布告とかタチが悪ぃな……」


「そうして生きてきたんじゃ。魔を使役する吾にしてみれば、事のほとんどが遊びの範囲よ。貴様と本気で争ったのは、吾の中では久々のものじゃった」


 ああ、何と平穏な会話。何と落ち着いた空気。

 数年越しの和解で、こうして普通(・・)に言を交わすことができるとは、思ってもいなかった。吾は赦されてはならない、それでも、赦しを請いたい。そんな矛盾が、吾の中にひたすら渦を作っている。

 そんな魔物でも、人間は吾に手を伸ばし、この道を示してくれた。


「……礼を言うぞ、シンマ」


「はあ? 何で」


「……ここに戻って来られたこと、本当に救いじゃ」


「……オレもだよ」


 片目はないものの、その景色は懐かしく覚えている。澄んだ里に、今でもあるだろう祭祀の習わしが、再びこの地を汚すことがないよう。吾らは見届けていくことになろう。


「奴らは、まだ戦いが終わってねーんだよな」


「ザイヴらのことじゃな。……ふむ、シンマよ。折角の安寧じゃが、少し探りを入れたい。付き合うか?」


「……いいぜ。オレもただで済まそうなんざ思ってねーよ」


 同時に、彼らへの謝辞と、奴らへの返報を。吾々も動き出すこととしよう。



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