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暗黒と少年-インタールード-  作者: みんとす。
二ノ章 -郷戦-
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第十話 紫眼ニ焼キツク裂戦―Ⅳ

 

「それから、屋敷に戻ってきた俺たちは、ウィック教育師が管理官に報告を終えるのを待ってから、解散になった。今でも話せば思い出す、あの頃の不快感はな」


 都市分裂及び大都市虐殺。その事件の名は、魔石に触れられていないものの、状態をそのまま表したものだった。いや、初めからそのままでしかないのだが、内部で勃発し、内部で沈静化したもの、という意味では、納得したくはなかった。


「……初めて、そこまで詳しいところまで聞いた」


「そうだろうな。何せ正体不明の魔石が引き起こしたものだ。今も生きている、あの時を目にした光郡の人間からしてみれば、思い出したくないだろうさ。もちろん、青郡の人間も同じだとは思う。ただ、何を“感じたか”。その点だけ見れば、明らかだろうな」


 結局、魔石―青精珀―の正体は、俺たちが〈暗黒〉に関わって、初めて明瞭になったと言っても過言ではない。

 名称を与えた者が、何を思って、そんな綺麗な名前にしたのか。その答えは、「何も知らないから」。そう、落ち着いた。

 全てを知っている俺たちが、その時に場を押さえることができていれば、そんな大事にはならなかったかもしれない。しかし、時が合わなかった。それだけで、俺たちが気にすることは許されない。


「まあ、今となっては俺も本部長の身で色々調べを上げられたし、お前たちがいたことで正体も状態も、全て掴めている。その頃から、〈暗黒〉は大いに動き出していたのかもしれない」


「俺たちがいなかったら、今でも分からなかったってことだよな。……でも、〈暗黒〉とアーバンアングランドを繋ぐ直接的な“物”が、誰にも正体が分かり得ない状態であの場所にあったら……そりゃあ、争いにはなりそう、だな」


「……仕方がなかったのかもしれないね。争ってしまったことも、后郡が分裂することも。青精珀が公になったことが、その道を作ったのかもしれない。でも、それでも、俺とザイの母親同士が関わりを持っていてくれたのが、救いだったね」


「それを、誰かに利用されてたとしても? それで俺の母さんの最期が、……魔に憑りつかれて、解放(ころ)されたとしても?」


「……それだけ、俺たちは強く関係性をもつ理由になった。母親同士の友人関係が、どんな形であっても、俺たちに引き継がれた。結局、それぞれ母親を亡くすことになったのも……もしかしたら……」


 ああ、そうだ。俺の母さんだけではない。ラオの母親も、その命は尽きて、既にこの世から消えている。全く違った境遇なのに、同じような状態に陥ったこと。偶然というよりも、必然のような、そんな気がした。


「……とにかく、あの事件についてはこんなものだな。自分が生きていた場所の事件の全貌くらい、知っていた方が身のためだが、さすがに酷だったか?」


「酷じゃないとは言わないけど……でも、知れて良かったとは思う。無関係じゃないんだから」


「うん。嫌なことも思い出したけどね。でも、受け止めることはできるから。大人になったんだよ、俺たちも」


「……そういうことにしておくか。何、また数年経てば、違った解釈にもなり得る。このことはその時にまた、思い出せばいい」


 ルノさんから聞いた、都市分裂及び大都市虐殺の事件の姿。それは青精珀、もとい、〈暗黒〉の魔石―闇晴ノ神石―が導いてしまった、一つの道でしかなかった。

 きっと、何よりも魔石を恐れた人々は、直感的にでも“ここにあるべきではない”と、察していたのかもしれない。

 当時の人間でもない俺たちにできることは、結局は推測の域でしかないけれど。その事件があったことを知って、記憶しておくことが、大切なのかもしれない。


「でも、聞く限りルノさんが屋敷生の頃って、今より分かりにくい感じだったね」


「どういうことだ?」


「何か、特別人と仲良くするわけでもないけど、ちゃんと関係性はもってるっていうか……ん? 何が言いたいんだろ」


「……ふっ。まあ、俺も何も抱えてなかったわけじゃない。それでできてた薄っぺらい自己領域(テリトリー)だったんだろうさ。今じゃああの頃だって、もう少し和気あいあいとできたんじゃないかって思えば、後悔することもある」


 人には人の事情がある。けれど、それが人の命を奪う結果になってはならない。

 人の事情に首を突っ込んで良いわけでもない。だから、俺たちは人と関わりながら、隠したい秘密も持っている。例えば、俺たちのような〈暗黒者-デッド-〉のことも。


「……ちなみに、話に出てきたウィック教育師は引退して、銘郡からも離れている。ミーラン教育師は、関わりがないから顔を見ないだろうが、今でも屋敷に居るんだぞ。ついでにゲランとオミを、基本クラスで見ていたんだ、ちょっと興味出るだろ」


「……凄い興味出た。ゲランさんとオミを……」


「運が良かったら、会えるかもしれないな」


 そう、色々な、過去がある。色々な思いがある。

 その中には、他人の心を揺れ動かすものも、もちろんある。


「そろそろ出るか。長居してると、何事かと思われても面倒だ」


「うん、確かに。じゃあ、行こうか」


「はーい。ルノさん、ありがと」


「いや、こんなつまらない話を聞いてもらえて良かったよ。またな」


 教育師室を離れる俺たちは、それぞれ部屋に戻る。気づけば、夕食時が間近で、すぐにラオと再会することになった。ウィンも誘って、一緒に食事をとろうと、俺たちはその部屋まで、並んで歩いた。



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