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花嫁騎士 ~勇者を寝取られたわたしは魔王の城を目指す~  作者: クラン
第一章 第三話「軛を越えて~①ふたつの派閥とひとつの眼~」
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幕間.「魔王の城~ダンスフロア~」

 二曲踊り終えて、魔王は上階へ続く階段の上に腰かけた。ニコルは「そこは椅子じゃないんだけどな」と呟きながら、彼女に手を引かれるままに腰を下ろした。


「お堅いことを言うでない。わらわの夫なのだから、もう少し寛容にならんと身がもたぬぞ」


「あはは……充分寛容なつもりなんだけどね」


 ダンスフロアはシャンデリアの灯りを照り返して煌めいている。


「二人きりで踊るには随分と広い空間だね。昔は賑わっていたんだろうね。毎日のように……」


 ニコルはフロアをぐるりと見渡した。


 魔王は誇らしげに返す。「ひと昔前は、血族を招いてダンスパーティをやったものじゃ。この場所を埋め尽くすくらいにな。わらわは人望があるのじゃ」


 ニコルは薄く笑い、それから遠い目をした。


「もっと昔はどうだった?」


「……意地悪は嫌いじゃ」


 魔王は呟いて顔を逸らす。ニコルは苦笑して彼女の頭を撫でた。艶やかな黒髪が豪奢(ごうしゃ)な灯りを反射している。


「なでなでするでないー。わらわは大人じゃー」と魔王は棒読みで返す。


「じゃあ、やめようか?」


「やめるでないー」


 あはは、とニコルは笑う。


「それにしても、ニコルは奇妙な魔術を使うのう。頭の中に音楽を鳴らすなんて」


 魔王は上目遣いにじっとニコルを見つめる。


反響する小部屋(エコーチェンバー)。大した魔術ではないよ」


「それで何人の女を口説いたのじゃー」


「君だけだよ」とニコルは臆面なく囁いた。魔王は俯いて頬を染める。紫の肌に紅が混じる。


 二人が甘い時間を過ごしていると、ダンスフロアの扉が開き、ひとりの女性が現れた。簡素な鎧が光を反射して煌めく。背には身の丈以上の細く長い剣。腰には短剣。銀の髪はやや外側にはねている。深い蒼の瞳。細い眉。目鼻立ちははっきりしているが、表情らしい表情はなかった。


 凍りついた無表情。


 彼女はつかつかと二人に歩み寄る。そして、二メートル前で足を止めた。


「やあ、シフォン」とニコルは微笑んだ。


 魔王はむすっと顔をしかめている。二人の時間を邪魔されたのが気に食わないように。シフォンが現れた瞬間、魔王の頭からニコルの手が離れたのである。


「なんの用じゃ。わらわの邪魔をしに来たのか。大人の時間を邪魔するでない、小娘」


 シフォンはまるでなにも耳に入っていないように、無表情のままだった。


「報告に上がりました」


 凛とした声。ともすれば呟きとも取られかねない声量だった。


「うん、聞こう」


 ニコルは微笑んだまま先を促す。魔王は不機嫌そうに黙っていた。


「『夜会卿』が全面協力を約束しました。手紙を預かっています」


 シフォンから筒状の手紙を受け取ると、ニコルは黙読した。横から覗き込んだ魔王が鼻で笑う。「相変わらず仰々しい奴じゃ」


 ニコルはざっと目を通し、手紙をくるくると巻き直した。「ありがとう」


 シフォンは無言のまま直立していた。ニコルの感謝に返事は不要、と判断しているかのように。


「引き続き、血族との交渉を頼むよ」


 シフォンは小さく頷いて踵を返した。そして再びつかつかとダンスフロアを出て行く。


 扉が閉まったのを確認して、魔王は大きなため息をついた。


「あの小娘は苦手じゃ。なにを考えているのか分からぬ」


「あはは……。君に言わせると、僕の仲間は皆苦手になってしまうね」


 魔王は口を尖らせる。「当たり前じゃ。どいつもこいつも信用ならん。信じられるのはニコルだけじゃ」


 言って、彼女はニコルの膝に頭を乗せる。そして「早くなでなでするのじゃ」と命じた。


「はいはい、お姫様」


 撫でながら、ニコルはこれからのことを考えた。


 準備は着々と進んでいる。戦力は整いつつあり、戦略も手落ちはない。あとは然るべきタイミングで事が起こればいい。導火線は既に着火されている。


 ニコルは満足気に、魔王の髪を撫で続けた。


【改稿】

・2017/12/17 魔族→血族

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