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花嫁騎士 ~勇者を寝取られたわたしは魔王の城を目指す~  作者: クラン
第一章 第一話「人形使いと死霊術師」
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幕間.「魔王の城~バルコニー~」

 月光を見つめ、ニコルは思案(しあん)していた。


 城で一番高い尖塔(せんとう)のバルコニーは静かだった。風のない夜の空気は(おだ)やかで、物思いに(ふけ)るのに適している。


 ヒールの音が階下から響く。それは螺旋(らせん)階段をどんどん上へ――ニコルのもとへと登ってくるようだった。


「ニコル! ニコル! 返事をせんか! ニコルぅ!」


 仰々(ぎょうぎょう)しく、そして騒々しい声が次第に大きくなる。ニコルは苦笑して振り返った。五、四、三、と、魔王がここにたどり着くまでの秒数を数える。


 二、一。


 片手にもこもこした布を下げた魔王が現れた。今宵(こよい)は真紅に黒のレース飾りついたドレスを()している。


「ニコル! わらわの手を(わずら)わせるとは何事か! 探すのもひと苦労なのだぞ」


「景色が良かったから、つい、ね」


 (ほお)を膨らませてバルコニーまでやってきた魔王は、ニコルの肩に毛布をかけた。


「風邪を引いたらどうするのだ」


「そのときは看病してくれるんだろう?」


「もちろ――いや、それは下僕(げぼく)の仕事であろう! わらわは看病などするはずがなかろう! しかし、どうしてもと言うなら」


「ああ、どうしても君に面倒をかけたい」


 魔王は返事をせず夜景に目を移した。口元がゆるむのをこらえているようにニコルには見えた。


 左手の薬指が月光を反射して(きら)めいた。クロエから受けた傷はすっかり治ったようで、ニコルは安心した。


「しかし、驚いたよ」と呟いてニコルは魔王の手を握り、まじまじと観察する。「クロエがあんなに勇敢だとはね。昔は泣き虫で臆病だったのに」


 すると魔王は瞬時に手を引っ込めた。


「わらわの前であの女の話をするでない。考えるだけでイライラしてしまう」


「すまないね。……けれどクロエは、僕たちにとって必要な存在だろう?」


「ニコル、お(ぬし)の計画通りならそうかもしれんが、わらわはあいつが憎らしい」


 言って、魔王は指輪を見つめた。


「のう、ニコル。やっぱりあの女を殺しては駄目か?」


「僕個人としてはどちらでもかまわないけれど……今は駄目だよ。まだ彼女の力が必要なんだ」


 魔王はふてくされたように口を尖らせて遠くの森を見つめている。それから急に顔を(ほころ)ばせた。


「なら、用が済んだらわらわが殺しても良いか?」


 思わずニコルは笑ってしまった。


「物騒なことを言うね。なら、こうしないか」


 ニコルは(きびす)を返し、室内へ戻った。そしてテーブルに置いてあったやりかけのチェスの駒を並べ替える。


「ゲームをしよう。君はクロエを殺すために、僕は逆に、生かすために駒を動かす。生きて再会すれば僕の勝ちだ」


 魔王はチェス盤に駆け寄り、整然と並ぶ駒を覗き込んだ。


「なら、先行はわらわじゃ」と言うや(いな)や、黒のポーンをつまんで白のキングをはじいた。「わらわの勝ちー」


「君ってやつは……」


 魔王は仕事を終えたポーンを盤上に(ほう)り、腰に手を当てた。「なぜならば、わらわはすでに手を打っている」


 どうだ、まいったか。とでも言わんばかりの表情である。ニコルは首を横に振って苦笑するばかりであった。


「さあ、ニコル! 晩餐(ばんさん)じゃ」


「はいはい、行きましょう。お姫様」


 魔王の手を取り、ニコルは月を一瞥(いちべつ)した。そして螺旋階段へと向かう。


 僕もすでに動いているんだけどね、と内心で呟いて。


【改稿】

・2017/12/03 口調及び地の文の調整。ルビの追加。

・2017/12/21 口調及び地の文の調整。ルビの追加。

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