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花嫁騎士 ~勇者を寝取られたわたしは魔王の城を目指す~  作者: クラン
第四章 第三話「永遠の夜ー⑥宵闇の狩人達ー」
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Side Jin.「先行者と撤退指示」

※ジン視点の三人称です。

 王都南門の壁上。深い夜の(とばり)の下で、アカツキ盗賊団副団長のジンはじっと地平に目を()らしていた。壁上に配置された弓兵や魔術師たちはいずれも同じく、待ちの姿勢を取っていることだろう。


 血族の軍勢が各門の数キロ圏内(けんない)に迫っていることは朝の時点で周知されている。今夜激突するであろうことも想定済みだった。それでも、いざ直面するとなると随分印象が違う。


 地平に(うごめ)く黒々とした影が、徐々に門へと接近している。もう二キロ以内には入っているだろう。砲台が照準を合わせないあたり、一キロ圏内には侵入していないようだ。


 今、この南門の兵器は砲台のみである。配置された白銀猟兵(ホワイトゴーレム)はというと、夜に入って()もなく謎の血族によって撃退された――と見るべきだろう。おそろしく素早い謎の人物が、砲台の射撃を()(くぐ)りながら、白銀猟兵(ホワイトゴーレム)すべてを起動させたのだ。次々と白銀猟兵(ホワイトゴーレム)に接近しては、なんの攻撃もせずに逃げるだけ。人間側の兵士も攻撃を仕掛けたようだったが、いずれも命中せず。あまりに速すぎて対応出来ず、結局すべての白銀猟兵(ホワイトゴーレム)を引き連れて謎の血族は南門から離れ去ったのである。その後起きたのは、耳を(ろう)せんばかりの大爆発。なにがなにやら分からなかったが、なんらかの方法で白銀猟兵(ホワイトゴーレム)を一挙に撃破したのだろう。


 ジンが位置するのは南門のちょうど横合いだった。門の真上にあたる場所には壁上部隊のリーダーが陣取っている。騎士団の男で、南門の守護勢力のトップであるゴッドの部下と聞いていた。横柄(おうへい)な口調で風を切って歩く姿は、どうにも騎士らしくない。そもそもジンの知るグレキランスの騎士はクロエひとりなのだから、誤解するのも無理はなかろう。四角四面で粛然(しゅくぜん)としているのに、情を重んじる彼女の姿を騎士の代表格と見做(みな)していた。


 ゴッドの部下である騎士はいずれも、端的(たんてき)に言ってガラが悪い。だからだろう、ジンは(かえ)って居心地が良かった。盗賊団の面々は皆、ならず者と言えよう。ゴッドの部下の態度と相通(あいつう)じるものがある。


 なかば壁外へとせり出した砲台が、一斉に短い砲口を動かした。どうやら敵方が一キロを割ったらしい。ジンはさすがに緊張を覚えつつ、一本きりの矢を弓弦(ゆづる)につがえた。命中の有無にかかわらず、制止した時点で矢筒に戻る特殊な矢。そして威力と射程を増幅する弓。いずれも魔具である。


 目を(すが)めると、夜闇のなかに数人の影が先行しているのが見えた。砲口はそれに照準を合わせているらしい。魔物を含めた残りの連中は、先行者から数十メートル遅れて追随(ついずい)している様子だった。


 刻一刻、影が近付くにつれて状況が分かってくる。向かってきているのは三人の血族だ。二人が横並びに歩き、もうひとりが少し先を歩いている。じき、砲台の射程圏内である五百メートルに入るところだ。


 ジンは固唾(かたず)を呑んで行方(ゆくえ)を見守った。壁上部隊は合図があるまで勝手は許されない。一発の攻撃さえ控えるよう厳命されていた。ジンも今や門の守り手のひとりである以上、従わねばならない立場にある。先んじて攻撃してしまい、(かえ)って状況を悪くするのは容易(ようい)に想像出来た。地上部隊に作戦があるならなおのこと。ほかの門のことは知らないが、ここ南門では、砲台が自動的に攻撃をおこなったとしても、壁上での射撃は指示を待たねばならない規則になっている。もっとも、地上部隊が一斉に敵と刃を(まじ)える状況になれば攻撃命令を待つ必要はないが。


「アイシャ」


 なかば無意識に呟きが漏れる。


 死んだ相棒の名だ。彼女は死霊術で蘇り、今やハルという別の名を持っていた。地上部隊にいる不死者を心配してしまうのは妙な話だとジンも自覚している。なにしろすでに死んでいるわけだから。とはいえ、生きているように歩き、会話出来る。現在、壁内の家屋に身を(ひそ)める術師のネロによって駆動しているのだ。


 クロエの配慮で、アカツキ盗賊団の面々はアイシャ――ハルと再会する運びとなり、わだかまりも()けたわけだが、死者である事実に変わりはない。ただ、死んでいることと生きていることの違いを分ける気にはならなかった。自分でも変だとは思うが、彼女はネロ少年の忠実なメイドとして生まれ変わったのだと考えるほうがしっくりくる。なにより彼女自身がそれを望んでいるのだから、かつての仲間が認めないでどうするという想いも強かった。


 そんなハルを、また死なすわけにはいかない。そもそも今の彼女に二度目の死があるとして、だが。


 ジンの思考を断ち切ったのは、甲高い音と閃光である。砲台が、先行するひとりの血族を撃ったのだ。紫色の光が大地を(えぐ)り、爆音を響かす。


 砲台の射撃間隔はおよそ五秒に一度。これまでの夜間防衛で悟った事実である。約五秒間のうちに土煙が晴れ、血族が抉れた大地からひょいと姿を現した。どうやら健在のようである。


 それを見て、ジンは思わず手元が(ゆる)んで矢を放ちそうになったが、(つと)めて暴発を(おさ)えた。


 砲台の攻撃は大型魔物も一撃で仕留めるほど強力だ。その割に、地形に大きな影響を与えない。直撃してなお無事なはずはなかった。しかし血族の身体のどこにも欠損は見受けられない。


 このとき、先行者が無事であること以外の異常を正確に察知していた者は少ない。


 砲撃は七百メートルの時点でおこなわれたのだ。ジンはその事実を見落としていたのだが、そう重大なミスではなかったろう。砲台の射程距離が今晩に限って延伸(えんしん)されたといっても、南門では(・・・・)大した効力を持たなかったからだ。


 ひとり先行した血族が、後ろの二人に頷きかけた。それからは、またたく()の出来事である。


 先行者が一気に南門へと単身で疾駆したのである。次々に放たれる砲撃は敵に命中することなく、土を巻き上げて消えるのみ。こいつが白銀猟兵(ホワイトゴーレム)を引き付けた奴だと直観する。


 すべての砲門が先行者に集中していた。それゆえ、後方からゆっくりと歩む血族二人と、そのまた後ろに追随する軍勢にはなんら影響をおよぼさない。


 ジンは弓を引き絞ったまま、壁外へと身を乗り出した。


 先行者は地上部隊の攻撃を潜り抜け、一目散に門へと駆けている。(いな)、厳密には門の横合いの壁へと。相手は壁の数メートル先から跳躍すると、突起に手をかけて器用に登攀(とうはん)をはじめた。その(かん)も砲撃は絶え間ない。地上の兵士たちは巻き込まれないよう射線を回避していたが、先行者を止める手立てはなかった。あっという間の出来事である。登らせまいと地上から武器を投げたり魔術を放ったりしている様子はあるが、先行者は素早く器用に位置を変えて、ことごとく回避していた。


「壁上部隊に告ぐ!! ゴッド先輩からの指示だ!!」門の頂点で壁上部隊のリーダーが声を轟かせた。「壁上の兵士は例外なく壁内に退避せよ! 以上!」


 声の直後、壁上のあちこちで動きがあった。壁内へと退く梯子(はしご)へと皆が動き出したのである。南門の部隊は壁上といえど、指示に忠実だ。そもそもゴッドの配下の者はなんの疑いも躊躇(ちゅうちょ)もなく、いかなる命令も遂行する。今朝、ジンに数キロ先の丘へ矢を放つよう命じた女性も、その謎な指示になんの理由も必要としていない様子だった。


 壁上でひとり、ジンは覚悟を決める。


 撤退はしない。


 この妙な先行者は自分が始末する。


 次々と放たれる紫の光のまにまに、先行者の顔が見えた。ハンチング帽を被った華奢(きゃしゃ)な青年である。目が合うと、相手は悪戯(いたずら)っぽい表情を浮かべた。


 攻撃指示は出ていない。というより、出ないだろう。当の壁上部隊のリーダーが撤退を選んだのだから。すでに彼も退避の道を進んでいるはずだ。


 砲台の攻撃は血族の男に直撃していた。しかし、なんの影響もない。男の様子を見ていると、まるで無害な光線を浴びているとしか思えなかった。


 狙いを(さだ)め、矢を放つ。


 男は片手だけで壁の突起を掴み、すんでのところで避けると、そこから一気に壁を登った。


 もう一撃放つだけの時間はなく、ジンは否応(いやおう)なく後退する。と、先ほどまで彼がいた場所に手がかかり、すぐさま男が壁上に姿を現した。


 ハンチング帽と同系色の茶のズボンは膝上までの長さで、開襟(かいきん)シャツは白の半袖。まるで少年のような(よそお)いである。


 体格は小柄で、手足は棒のように細い。眉の下で目が爛々(らんらん)と輝き、口が半月を描いた。


 声もまた、子供みたいな高さで響く。


「どーも、お兄さん。オレはアストラル。短い間だと思うけど、よろしく」


 青年は五秒間隔で射出される紫の光線のなか、不敵に言った。

発言や単語が不明な部分は以下の項目をご参照下さい。



・『ジン』→アカツキ盗賊団の副団長。主にミイナの暴走を止める役目を負っている。弓の名手。矢と矢筒がセットになった魔具と、射程距離増加の魔術の施された弓の魔具を持つ。詳しくは『20.「警戒、そして盗賊達の胃袋へ」』にて


・『王都』→グレキランスのこと。周囲を壁に囲まれた都。詳しくは『第九話「王都グレキランス」』にて


・『アカツキ盗賊団』→孤児ばかりを集めた盗賊団。タソガレ盗賊団とは縄張りをめぐって敵対関係にあった。詳しくは『第二話「アカツキ盗賊団」』にて


・『黒の血族』→魔物の祖と言われる一族。人間と比較して長命。もともとは王都の敵国であったラガニアの人々のごく一部が、オブライエンの生み出した『気化アルテゴ』によって変異した姿。詳しくは『90.「黒の血族」』『間章「亡国懺悔録」』にて


・『白銀猟兵(ホワイトゴーレム)』→人を模した、ずんぐりとした物体。オブライエンの量産している兵器。指令を送ればその通りに行動をすることが出来る。動きは機敏で、硬度は高い。破壊時に自爆する。詳細は『幕間.「白銀空間~潜入~」』『幕間.「白銀空間~白銀猟兵と一問一答~」』『幕間.「白銀空間~魔具制御局~」』にて


・『ゴッド』→実名不明の浅黒い男。騎士団ナンバー9。多くの舎弟を従えている。詳しくは『第四章 第三話「永遠の夜ー③赫灼の赤き竜ー」』にて


・『グレキランス』→通称『王都』。周囲を壁に囲まれた都。また、グレキランス一帯の地方を指して用いられる。詳しくは『第九話「王都グレキランス」』にて


・『魔具』→魔術を施した武具のこと。体内の魔力が干渉するため魔術師は使用出来ないとされているが、ニコルは例外的に魔術と魔具の両方を使用出来る。詳しくは『間章「亡国懺悔録」』にて


・『矢と矢筒の魔具』→ジンの所有する魔具。転移魔術を(ほどこ)してあり、放たれた矢は自動的に矢筒に戻る。詳しくは『30.「メリー・バッド・タクティクス」』にて


・『ハル』→ネロの死霊術によって蘇った少女。メイド人形を演じている。元々はアカツキ盗賊団に所属。生前の名前はアイシャ。詳しくは『第一話「人形使いと死霊術師」』参照


・『死霊術』→死体を動かす魔術。詳しくは『第一話「人形使いと死霊術師」』『間章「亡国懺悔録」』参照


・『ネロ』→クロエの出会った死霊術師(ネクロマンサー)。詳しくは『第一話「人形使いと死霊術師」』参照

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