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花嫁騎士 ~勇者を寝取られたわたしは魔王の城を目指す~  作者: クラン
第四章 第三話「永遠の夜ー⑥宵闇の狩人達ー」
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Side Mao.「宿木の生存戦略」

※マオ視点の三人称です。

 西門襲撃までの何日かで、マオは自分が生き延びるための青写真を(えが)いた。


 竜人の背に(くく)りつけられて王都へ護送されるなか、自分を(いまし)めていた縄を(ほど)いたのはマオ自身である。彼の会得している樹木の魔術において、植物の繊維で編まれた縄をバラバラにするのは容易(たやす)い。


 かくして王都に落下したのち、路地の暗がりに隠れて数日を過ごしつつ算段を練った。もちろん、変装魔術(メイクアップ)(ほどこ)して周囲の視線を騙したのは言うまでもない。配給の食料を受け取りに行く際はいささか緊張したものだったが、配給係の兵士は呆気なくマオに食事を渡した。


 どうすれば命を永らえさせることが出来るのか。それも、飢餓(きが)や病苦に(さいな)まれず、平穏無事に。


 条件を満たすのはやはり敵国ラガニアへの亡命のみと考えたのはマオにとって至極当然である。この戦争に人間の勝ち目などないのだから。このまま襲撃されれば、無惨に殺されるか奴隷生活が待っているだろう。そんな人生は御免(ごめん)だった。


 マオが西門を選んだのは、もっとも兵員が手薄であり、なおかつ敵方の勢力も少数と推測したからだ。西門襲撃の前日――血族侵攻から九日目の夜が明けるまで潜伏していたのは、()らぬ詮議(せんぎ)()けるためである。自分の正体を看破(かんぱ)するほど明敏(めいびん)な魔術師はほかの門に配置されていることだろうが、疑問視は避けられない。襲撃の日に志願すれば、たとえ疑われようとも、それを確かめるだけの時間的猶予(ゆうよ)はないはずだ。


 かくしてマオは遊女に化けて西門の壁上へと至る梯子(はしご)を登り、まずは弓兵長ならびに壁上の戦力を籠絡(ろうらく)したのである。(いつわ)りの覚悟で同情を誘って。


 嘘は得意だ。真偽師(トラスター)がいなければ見破られることなどない。


『同情する。あんたみたいな美人が不幸になったままなんて耐えられねえ』


 弓兵長は哀れみの表情だったが、マオには裏面(りめん)に透けた下心が見通せた。ゆえに相手が()()てするのも先読み出来たし、指揮官であるカルロの判断を(あお)ぐまで一歩も引かなかったのである。


 ところで、壁上でマオがおこなったのはそれだけではない。


 砲台の確認にも重きを置いた。壁上の兵士からは眉をひそめられたが、無邪気さと真剣さをブレンドした表情で相手を見返せば、大抵なにも言われずに済んだ。


 砲台は壁外にせり出すように配置されており、もっぱら壁外の敵に対して機能するものである。王都の上空にも照準を合わせることが可能。砲口はマオの力でも簡単に動かすことが出来た。表皮に樹木の魔術を固着させて触れても結果は同じ。動かせる(・・・・)。機構の解明は出来ずとも、魔術で砲台の動きを阻害可能と判断した。


 西門のリーダーであるカルロを殺害して彼に変装してからは、すべての兵士に潜伏を命じた。壁上の兵士たちも含めて。全員が素直に従ったことに、マオは少しの驚きも感じなかった。西の兵士が怯えに(おか)されているのを見抜いていたのである。生前のカルロから聞きおよんだ隠密作戦の提案自体、安全な場所で嵐が過ぎ去るのを待っていたい願望の吐露(とろ)とまで思えた。


 かくしてすべての兵士が、西門を中心として居並ぶ兵舎に収まったのである。大層狭いだろうに、ひとつの文句も聞こえない。


 ()もなく魔物の出現時刻となると、マオは単身で夜闇に()り出した。外の様子を確認してくると言い捨てて。何人かの兵士が同行を申し出たが、当然断った。


 太陽はすっかり沈んでおり、空には星がまたたいている。土煙に隠されて数キロ先の敵の姿は視認出来ない。彼らの気配も察知出来はしない。それでも『居る』という確信はあった。今夜攻めてくる保証はなくとも、存在はしている。


 それでいい。


 それで充分。


「カルロさん! そこでなにを?」


 番小屋のあたりで声がして、マオはゆっくりとそちらを向いた。夜闇のなかに弓兵長の姿が見える。


「お前こそなにをしている。兵舎で待機しろと命じたはずだ」


「……白檀(びゃくだん)の姿がないもので、つい」


 それを耳にして、マオは思わず口元に嘲笑を浮かべた。


 大馬鹿だ。遊女にうつつを抜かして外に出るだなんて。


「さっさと兵舎に戻れ。作戦を台無しにするつもりか?」


「カルロさんこそ、兵舎に戻るべきです。いつ血族が来たっておかしくない」


「最後の見回りを済ましたら戻る。お前は先に戻れ。おい……なんの真似だ」


 弓兵長がこちらへと弓を引いたのだ。彼の表情は、会話の途中から()真面目なものに変わっていた。


「貴様は誰だ? なんの目的があって俺たちを兵舎に閉じ込める?」


 それを聞き、マオはひどく冷めた心地になった。ようやく気付いたか、と呆れる。


 ところが、弓兵長は最初から疑念を(いだ)いていたのである。マオは決して見抜けなかったが。まず、今朝の時点で援軍が来るなど不審でしかない。弓兵長は騙されたふりをしてじっくり成り行きを見守ったのだが、肝心の白檀の姿が消えたため、彼女の捜索からはじめねばならなかった。そして兵士たちへの聞き込みで、カルロと白檀が番小屋に消え、カルロひとりだけが外に出たと知ったのである。番小屋を調べようにも施錠(せじょう)されていた。カルロが遊女を生かすために閉じ込めたのだという噂もあったが、信を置けない。カルロによる潜伏命令も疑問がある。どうにも調査に行き詰まって夜を迎えたわけだが、ひとり外へ現れたカルロを見て、彼はようやく確信したのだ。今ここにいるカルロが偽物だと。


「動くな!!」


 マオはカルロの怒声など無視して、地に手を突いた。瞬間、肩に矢が突き刺さる。


 痛みは嫌いだ。しかし、必要な痛みなら歓迎する。


霊樹操術(リベロ・ピアンタ)!」


 魔力が地を駆け、やがて轟音が鳴り響く。兵舎はことごとく巨樹に貫かれて崩壊した。砲台も白銀猟兵(ホワイトゴーレム)も樹木の根で拘束されている。


 弓兵長は呆気に取られつつも、何度か矢を放った。マオはそれを身に受けたが、魔術の行使に差し(つか)えはない。


 その頃には変装もすっかり()けていた。枯れ草色のローブを夜に溶かし、手入れのされていない長髪を風になびかせた不吉な青年の姿がひとつ。


「貴様、裏切り者のマオか!!」


 知っているということは、弓兵長は騎士団のメンバーなのかもしれない。いちいち雑魚の顔など覚えていないマオにとっては初対面も同然だった。


「そう、裏切り者さ。それのなにが悪い?」


 一気呵成(いっきかせい)に矢を射る弓兵長を、マオは嘲笑(あざわら)った。騙されるほうが悪いのだ。何事もそう。


 しかし、痛みは鮮烈だ。矢は次々と放たれ、マオの身を貫いていく。わずかな回避動作では矢の速度に負けていた。


 十数本の矢を身に受けたマオは荒い呼吸をしつつ、樹木の魔術で弓兵長を捕縛する。はじめからこうしていれば手傷を()う羽目にはならなかったことくらい、マオも知り抜いていた。


 樹木に拘束されて抵抗出来なくなった弓兵長に、マオは粘っこい笑みを送る。


「気分はどうだ? 味方に裏切られて間抜けを(さら)した気分は。今頃あんたのお仲間も樹の内側で嘆いているだろうよ。自分はなんて愚か者だったんだろうって!」


 西門の兵士はすべて、イフェイオンのときと同様に樹木の球に格納してある。いつでも殺戮を披露出来る捧げ物として。


「貴様は、王都の、恥だ」


「恥で結構。死ぬよりマシさ。あんたは――」


 弓兵長が唾を吐くのが見えて、マオはほとんど無意識に彼の首を折った。


 罵倒も嫌悪も慣れている。けれど、物理的な汚濁(おだく)は嫌いだ。


 やがて魔物の(うな)りが遠方から(とどろ)き、マオは我に返った。瞳を爛々(らんらん)と輝かせて音の方角を見やる。


「ようこそお越しくださいました。心より歓迎いたします」

発言や単語が不明な部分は以下の項目をご参照下さい。



・『マオ』→騎士団ナンバー8の青年。樹木の魔術師。神童の異名をほしいままにしていたが、シフォンにかつて敗北したことで自尊心を叩き折られ、今は序列を維持するだけの卑屈な騎士に成り下がっている。そんな彼が『宿木』の蔑称で呼ばれるようになったことに、さして抵抗を感じてすらいない。戦争においてイフェイオンの司令官に任命されたが裏切った。クロエたちに捕縛され王都へと移送されたが、途中で逃走。詳しくは『幕間「或る少女の足跡」』『第四章 第三話「永遠の夜ー③赫灼の赤き竜ー」』にて


・『竜人』→全身を鱗に覆われた種族。蛇に似た目と、鋭い爪を持つ。王都の遥か西にある山脈に生息している。弱者には決して従わない。鱗の色で階級が二分されており、『純鱗』は気高く、『半鱗』は賤しい存在とされている。詳しくは『626.「血族と獣人」』『幕間.「青年魔術師の日記」』にて


・『王都』→グレキランスのこと。周囲を壁に囲まれた都。詳しくは『第九話「王都グレキランス」』にて


・『変装魔術(メイクアップ)』→姿かたちを一時的に変える魔術。詳しくは『47.「マルメロ・ショッピングストリート」』にて


・『ラガニア』→かつてはグレキランス同様に栄えていた地域、と思われている。実際はグレキランスを領地として治めていた一大国家。オブライエンの仕業により、今は魔物の跋扈する土地と化している。魔王の城は元々ラガニアの王城だった。初出は『幕間.「魔王の城~書斎~」』。詳しくは『間章「亡国懺悔録」』より


・『黒の血族』→魔物の祖と言われる一族。人間と比較して長命。もともとは王都の敵国であったラガニアの人々のごく一部が、オブライエンの生み出した『気化アルテゴ』によって変異した姿。詳しくは『90.「黒の血族」』『間章「亡国懺悔録」』にて


・『真偽師(トラスター)』→魔術を用いて虚実を見抜く専門家。王都の自治を担う重要な役職。王への謁見前には必ず真偽師から真偽の判定をもらわねばならない。ある事件により、真偽師の重要度は地に落ちた。詳しくは『6.「魔術師(仮)」』『261.「真偽判定」』『第九話「王都グレキランス」』にて


・『白檀(びゃくだん)』→王都西門の隊列に加わった遊女。西門のリーダーであるカルロを殺害し、変装魔術(メイクアップ)で彼に成り代わった。詳しくは『第四章 第三話「永遠の夜ー⑤霧海の繋ぎ手ー」』にて


・『霊樹操術(リベロ・ピアンタ)』→大地に張りめぐらした根を操作する樹木の魔術。詳しくは『幕間「或る少女の足跡」』にて


・『白銀猟兵(ホワイトゴーレム)』→人を模した、ずんぐりとした物体。オブライエンの量産している兵器。指令を送ればその通りに行動をすることが出来る。動きは機敏で、硬度は高い。破壊時に自爆する。詳細は『幕間.「白銀空間~潜入~」』『幕間.「白銀空間~白銀猟兵と一問一答~」』『幕間.「白銀空間~魔具制御局~」』にて


・『イフェイオン』→窪地の底に広がる豊かな町。王都に近く、特産品の『和音(わおん)ブドウ』を交易の材としている。『毒食(どくじき)の魔女』によって魔物の被害から逃れているものの、住民一同、彼女を快く思っていない。詳しくは『第八話「毒食の魔女」』にて

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