表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

秋風に

作者: 齋藤 一明

秋風に


ふと身支度をしそうになります


今日という日が不満なわけではありません

ましてや喪失感に苛まれてなどいません


なのに、地図を手に取ってしまうのです



呼び声を聞いたように思います


誰の声だったのか、何を言っていたのか、わかりません

どこから聞こえたのかを確かめるために、地図を広げるのでしょうか




カバンに着替えを詰めて、ふらっと駅へ行きたくなりませんか


混雑した通勤電車はごめんです

華やかな特急列車は似合わない

カーテンで仕切られた寝台車は贅沢だ

やはり自分には、ぼんやりと電燈の点る座席が似合っている



男って、いくつになっても子供なのですね

家族に囲まれ、友人に囲まれ、一つ一つ積み重ねた日々があるというのに

無性に放り出してやりたくなります

こうして秋風が吹き出すと特に




なんのために生まれてきたのだろう

務めをどれだけ果たせたのだろう

そして、何をしようとしているのだろう

そんなことを考えませんか?



一株のススキは、硬い座席で項垂れるのが似合っているのです




あっ、また聞こえた

しかも、耳元で


聞こえたのは声ではありません

産毛が擦れ合う音です

細い血管を血が巡る音です

そして、聞こえるはずのない耳鳴りなのです


カバンを持ちましょう

下世話なざわめきのない町へ旅立つために


しかし、ふと思うのです

自分は十分に生きてきたのかと


答が得られぬままでは、高みへ旅立つことはできませんね


秋風が教えてくれるでしょうか?






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 秋風を聞き、身支度をする。 焚き火にあたり、心の声を聞く。 男は常に旅にあり、放浪に憧れるのだから。 重い荷物を背負うのは、誰のためでもない。 目指すのはあの山の頂、あの星空の果てにある光。…
[一言] 解るなあ〜。 独身の時は考えるより先に家を出ていました。 一現場終わると、一週間程度の休暇がもらえました。取り敢えず、その時の気分でターミナル駅に行き、それはその時によって新宿だったり上野…
[一言] 少し着る物が増えると、そのまま線路の先に旅立ちたくなる感覚。どこにも行きたくないのは分かっているのですが、どこかに行きたくなる気分。もしくは軽ワゴンの後部座席を取っ払って、寝袋一つで放浪の旅…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ