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異世界から戻った俺は銀髪巫女になっていた  作者: 瀬戸こうへい
第四章 ホーリーナイト

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聖夜の決戦(対峙)

『闇の神官……!?』


 エイモックの宣言にアリシアが驚きの声をあげる。

 風火水土の四大属性にはそれぞれの属性神を讃える神殿がある。神殿では人々に祝福を授ける為に、神官か巫女が一人選ばれる。アリシアもそうして選ばれた巫女だった。

 そして、光と闇の神殿は人々の記憶から忘れ去られていて、神官も巫女も存在しない……そのはずだ。

 現に俺が闇の神殿で祝福を受けたとき、神殿は無人だった。


『これこそ神より賜りし力なり。この力で我はこの国に変革をもたらす。異議ある者は力で示せ、我に従う者は頭を垂れよ!』


 エイモックの言葉に周囲に戸惑いが広がる。やがて、膝をついたり土下座したりとばらばらに不良達が頭を下げて恭順の意を示していく。

 それは、とても異様な光景だった。


『洗脳効果は薄いはずじゃなかったのか……?』


『少し甘く見すぎていたかもしれません。ここまでとは……』


 しばらくすると、その場で立っているのはエイモックと俺達二人だけとなった。


『……ほう、貴様はまだ我に屈せぬか、カミシロソウタ。流石、我が見込んだ男よ』


 俺達の姿を確認したエイモックが念話で話し掛けてくる。


『それでは余興を始めるとしよう。壇上に来るがよい』


 腕をふるう大げさな仕草でそうエイモックが蒼汰を促す。俺達はお互いを見て一度大きく頷くと、不良達がひれ伏す駐車場を歩き出した。

 石造りの簡易ステージは、長い辺が十メートルくらいの長方形をしている。今そこに立っているのは俺達とエイモックだけだ。

 相変わらずステージの周囲では不良達が頭を下げたまま固まっている。


「よく来たな、カミシロソウタ。以前のウロボロスが崩壊した原因である貴様を倒して我が力を示し、それをもって救世の狼煙をあげることにしよう」


 エイモックは念話を止めて話し掛けてくる。いつの間にかバイクの排気音は止まっていて、会話をするのに支障は無くなっていた。


「それよりも、俺は約束は守ったぞ。涼花を直ぐに解放しろ!」


「……よかろう」


 エイモックが指を鳴らすと、ステージの裏に居るウロボロスの集団の中に居て、周囲と同じようにひれ伏していた涼花が跳びあがって体を起こす。

 涼花は目を白黒させて視線を彷徨わせた後、俺達の姿を確認して一直線に蒼汰に駆け寄ってくる。


「蒼汰さんっ!」


 涼花はそのまま蒼汰の胸に飛び込んだ。


「ごめんなさい、蒼汰さん! ……わたくし、わたくしはっ!」


 感情が溢れて止まらない涼花の頭をぽんぽんと撫でて、蒼汰は涼花を落ち着かせようとする。


「涼花、大丈夫だ、わかってるから……お前は悪くない。だから、気にすんな」


 二人の様子を傍目で見守りながら、俺はエイモックに向き直る。今のうちにこいつに確認しておきたいことがあった。


『イクトさん、わたしに話をさせて下さい』


 アリシアが俺にそう言った。

 俺は頷いて、念話の対象にエイモックを加える。


『エイモック・ハルトール・ダクリヒポス!』


 念話で名前を呼ばれたエイモックは、その余裕たっぷりの表情の中に初めて驚きの感情を見せた。


「念話、だと? お前は……学び舎に居た女……?」


『わたしの名前はアリシア・ヘレニ・ミンスティアあなたと同じ世界から来ました』


 アリシアの名乗りに合わせて俺はコートを脱ぎ捨てた。下に着ていた白い薄手の法衣が冬の寒空の下に曝け出される。


「その法衣、そして我と同じく精霊神の御名を名に連ねる事を許された者……そなた、よもや水の巫女か」


『……あなたは本当にダクリヒポス様の神官なのですか? 闇の神殿は打ち捨てられ無人でした。そもそも魔王領にある神殿で人が生きられるはずがありません!』


「我の一族は代々魔王様に従い魔族の祝福を得る助けをする事で家系を繋いできた。神殿が無人なのは神官が生きていれば神殿は不要ということで打ち捨てられたからだ」


『あなた方は、人類に仇なす魔王に協力していたと言うのですか!?』


「我らの先祖は光の信者に迫害され、かの地に逃れてきた。故に我らが人類に義理立てする義務など無い。寧ろ我らに庇護を与えてくれた魔王様に協力し恩を返すのが、人としての常道ではないか」


『……ですが!』


「まあそれはよい……いずれにしろ終わった事だ。魔王様も勇者に討たれ、我が一族郎党の行方は知れず……まあ、あちらの世界に居たならば魔王様に協力した罪で晒し首であろうが」


『……あなたの事情は理解しました。わたしは貴方を裁く権利も意思もありません。ですが、精霊神に仕える身でありながら人々を煽動し、あまつさえ、この国の転覆を図るのであれば同じ神に使える者として見過ごすことは出来ません。あなたはどうしてこのような事を!』


「神に仕えるからこそ、だ。神の祝福無きこの世界に我が救済をもたらそうと言うのだ」


『そんな事は余計なお世話です。この世界は試行錯誤を繰り返し、今の国の形を作り出しています。完璧な物という訳ではありませんが、部外者であるわたし達が安易に引っ掻き回していいようなものじゃありません!』


「神に見放された民が己が力で国を治めんとする努力はいじらしいものがある。だが、我がこの世界に来たからにはもう心配は無用だ。今後は我が民を導く標となろうぞ」


『どうしてそんなに上から目線なのですか! わたしたちがこの世界の住人と何の違いがあるというのです!』


「我は神の代弁者である。神に祝福されし我が祝福無き民を従え救済をする……それは自然かつ必然ではないか」


『そんなの間違ってます! 祝福の有無で人に優劣など存在しません!』


「我はそうは思わぬ。もし、そなたが我に異議があるならば、力で我を止めてみせよ……そうだ、賭けをしようではないか」


『賭け……?』


「我らが闘い貴様が勝利すれば我はこの世界への干渉を止めよう」


『……本当ですか?』


「我に二言は無い。必要であれば誓約の魔法を使っても良い」


 誓約の魔法。互いに宣誓をして使う事で、その誓約に反する行為を出来なくする魔法だ。誓約に反する行為をしたときは廃人になると言われている程の強制力がある。


『それで、貴方が勝った場合は……?』


「我が勝利した暁にはそなたを貰う」


『……なっ!?』


「丁度憂いておったのだ、我が王となっても正当な血筋を残せぬ事をな。巫女であれば魔力も血筋にも不足は無い。我が妻となり子を成す栄誉をやろう。どうだ、悪い話では無かろう?」


「ふざけんな! 誰がお前なんかに!」


 俺はエイモックに向かって思わず叫んだ。手に持った世界樹の杖を突き付けてエイモックを威嚇する。


『……イクトさん。ここはわたしに任せて下さい』


 エイモックに届かないような小声でアリシアが話しかけてくる

。俺は一瞬逡巡してから小さく頷いた。


『その賭け受けましょう。では、誓約の魔法を』


「……よかろう」


 エイモックが指を鳴らすと俺とやつの間の空中に羊皮紙と羽ペンが現れた。


「我、エイモック・ハルトール・ダクリヒポスは誓う。我がこの闘いに敗北した暁には、我はこの世界への干渉を止めると」


 ペンが自動的に動いて、口述した内容が異世界の文字で羊皮紙に書き込まれていく。


『わたし、アリシア・ヘレニ・ミンスティアは誓います。わたしがこの戦いに敗れたときには、わたしはエイモック・ハルトール・ダクリヒポスに隷属し彼の者に従うと』


 同様にアリシアの誓った内容も羊皮紙に書かれていく。

 一抹の不安を感じながらも俺はアリシアに委ねて成り行きを見守る事にする。


『イクトさん、右手をまっすぐ紙に伸ばして下さい』


 アリシアに言われるまま、俺は杖を左手に持ち替えて、右手を伸ばした。


「『誓約コントラクト!』」


 次の瞬間羊皮紙が光り輝いて粒子に別れて消えていく。

 その様子を見てエイモックは満足そうに笑う。


「くっくっくっ……これは予想外の収穫だ。まさか、我が手に水の巫女を得られるとはな!」


「……まだ、戦ってもいないのに随分な自信だね」


 ちなみに勝っても得られはしないのだけど。

 アリシアの掛けたペテンに気づいた俺は苦笑する。

 今誓約したのはアリシアであって俺では無い。

 だから、もし敗北してエイモックに隷属する事になったとしても、体のないアリシアには何もできない。そして、体を動かす俺は誓約の影響は一切受けないのだ。

 どちらにしても負けるつもりなんて無かったが。


「……ちょっと待てよ。エイモックとやるのは俺のはずだろ? 何勝手に話進めてんだよ」


 涼花を落ち着かせて離れさせた蒼汰が、俺達の会話に割り込んでくる。


「悪い蒼汰、こっちも因縁があるみたいでさ。私に先譲ってよ」


「お前、負けたらあいつのものになるってんだろ……? そんなの黙って見てられるかよ!」


「そんな事言われても……」


 俺達の様子を見てエイモックは余裕の笑みを浮かべて言う。


「構わぬ、二人一緒にかかってくるがいい。少しは楽しめる余興ななりそうだ」


 エイモックのその言葉を受けた蒼汰は渡りに舟とばかりに乗っかる。


「それじゃあ、遠慮なく行かせて貰うぜ。後悔すんなよ!」


「ちょっ……蒼汰!」


「負けられない戦いなんだろう? 四の五の言わず一緒にやろうぜ幾人」


 今の突っかかりは確信犯か。エイモックの性格ならさっきのような状況なら、二人共相手してやると言いそうだ。

 蒼汰が魔法全開の戦闘にどこまでついて来られるのかはわからないがその気持ちは嬉しかった。


「ああ、わかったよ……頼むぜ相棒」

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