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異世界から戻った俺は銀髪巫女になっていた  作者: 瀬戸こうへい
第四章 ホーリーナイト

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兄妹(三人の気持ち)

「……どうしてこうなった」


 俺は両手を浴室の壁に付いて、シャワーを後頭部から浴びながら、俺は思わずそんな言葉を口にする。


『やっぱり、嫌だったですか? わたしの我儘ですから、無理そうなら今からやめても……』


 俺の様子に不安そうにしたアリシアが、そう提案してくる。


「嫌じゃないんだ。でも、正直まだ混乱してて……」


『……そうですか。では、ユウナも待ってるでしょうから、手早く洗ってしまいましょうか?』


「……そうだね」


 俺はシャンプーを手に取りながら、どうしてこんな状況になったのか振り返っていた。

 ……何が悪かったのだろう?


   ※ ※ ※


「アリシア、それは……」


 アリシアの予想外の提案に俺は反応に困っていた。良い悪いでもなく単純に困惑していた。


『……ダメですか?』


「だって、私と優奈は兄妹だから……」


『兄妹だと何か問題があるのですか? 私の居た神殿には兄妹がいっぱい居ましたけど、その中で思い合って結ばれるケースは普通にありましたよ?』


 神殿は孤児院を兼ねていた為、アリシアの言う兄妹は本当の意味の兄妹ではない。神殿で世の中から隔離されて育てられたアリシアは、肉親間での禁忌の常識が抜け落ちているようだ。


「ええとね、アリシア。血の繋がりがある兄妹は話が違うの」


 優奈が説明しづらそうに言う。


『なんで、血の繋がりがあると駄目なんですか?』


 アリシアは単純に疑問のようで俺に理由を聞いてくる。


「そ、そりゃ近親姦だと障害を持った子供が生まれやすくなるし……」


『イクトさんは今は女性ですから、ユウナとの間に子供は出来ませんよ?』


「血の繋がりがある相手と、そういった関係を持つのは問題が……」


『イクトさんは今はわたしの体ですから、ユウナとは血の繋がりはありませんけど?』


「そう言われたら、そうなんだけど……」


 でも、俺は優奈のお兄ちゃんだったんだ。


『イクトさんはユウナとするのは嫌ですか?』


「嫌というか今まで考えもしなかったというのが正直な気持ちだよ」


『イクトさんが嫌ならわたしは無理強いするつもりはありません』


「嫌、ってことは無いし、他ならぬアリシアの頼みなら叶えたいって思うけど……というか、そもそも私より優奈の意思を確認したほうがいいんじゃ……」


『……どうしてですか?』


「どうしてって……私の意思を確認するなら、優奈の意思も当然確認するべきなんじゃないかって思っただけなんだけど……」


「わ、私は――」


『だって、ユウナがイクトさんを拒否する訳ないじゃないですか』


 何かを言おうとした優奈を遮って、アリシアはさも当然という風に答えた。

 瞬間、みるみるうちに優奈の顔が真っ赤に染まっていく。


「あ、あっ……あたしは……!」


 両手を突き出して宙に彷徨わせる優奈。

 見るからに酷く狼狽してしまっている。


「大丈夫だから落ち着いて優奈。ほら、吸ってー吐いてー」


 二人で深呼吸を行って、優奈の気持ちを落ち着けさせる。

 深呼吸を何度かするうちに気持ちが落ち着いてきたようで、少しずつ冷静さを取り戻していた。


「ごめんなさい、もう大丈夫だから……」


「その、やっぱり嫌だったんだろ? アリシアの願いと言っても私とそういう事するなんて……」


「嫌じゃない!」


 声の大きさにまずびっくりして、遅れてその言葉の内容に重ねて驚いた。


「……嫌じゃないの。アリシアの言う通りよ。アリスとそういう事するって思ったら自分でもびっくりする程すんなり受け入れられたの。不思議なくらいに嫌悪感とか無くて、それで逆に動揺してしまって……だけど、アリシアは何でそんな風に思ったの?」


『イクトさんに向けられる視線を、イクトさんを通じて、ずっと見ていましたから。ユウナ自身は自覚していなかったみたいですけど、わたしは気づいてました』


「う……あたしって、そうなの?」


 優奈自身も気づいていなかった自分自身の事を言われて目を白黒させている。


「私は気付かなかったけど……」


 正直なところアリシアのこの見立ては怪しいと思う。家族を知らないアリシアは、肉親への情愛との区別がついていないのじゃないかと思う。

 俺と優奈は、家族としての愛情は自信を持ってあると言える。


「でも、アリシアはそれでいいの? そうなると、あたしがアリスの肌に触れることになるんだよ」


『それを確かめる為にするんですよね? それに、ユウナはイクトさんだけじゃなくて、わたしの事もちゃんと見てくれるの知ってますから……その、ユウナならいいです』


「……どうしよう、今すごくきゅんと来た。翡翠姉もこんな気持ちだったのかしら。女の子同士って今まで想像出来なかったけど、今ちょっとわかった気がする」


『ありがとうございます。わたし、ユウナのこと大好きですよ』


「あたしもアリシアの事が好き。家族として好きって気持ちの方が強いと思うけど、アリシアが望むなら、その……えっちな事はできると思う」


 優奈は顔を真っ赤にしてそんな事を言う。我が妹ながら、いじらしい姿だった。


『さて、ユウナは了承して貰えました。それで、イクトさんは如何でしょうか?』


「……優奈がいいなら、私は嫌じゃない」


『それじゃあ、イクトさんも了承ってことですね! ありがとうございます』


 俺は改めて優奈を見た。そこにいるのはいつもの優奈で、これから彼女を抱くなんていう実感は、全然湧かなかった。

 熱でもあるかのようにぼーっと視線を宙に彷徨わせてた優奈は、俺の視線に気づくとはっとして、恥ずかしそうに視線を反らした。両手は膝の上でぎゅっと握られている。


「……先にシャワー浴びてアリスの部屋で待ってて。あたしもシャワー浴びて行くから」


「お、おう……」


 言われるがままに、俺はシャワーの準備をする為に立ち上がって自分の部屋に向かった。


 ―ーそして、現在に至る。


 何が悪いって訳じゃ無いと思う。

 俺とアリシアと優奈、互いが互いを大切に想っていて、俺達はアリシアの悩みを解決したいと望んでいるだけだった。

 だけど、それでどうして俺が優奈とエッチする事になっているのか、理屈はわかるけど理解は今でも出来そうになかった。


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