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異世界から戻った俺は銀髪巫女になっていた  作者: 瀬戸こうへい
第三章 幼馴染の少女

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神代翡翠(アリシアの気持ち)

 岩の浴槽に腰掛けて足だけ温泉に浸けながら、俺はのぼせた頭を冷やすことにする。

 冷たい風が心地よい。

 俺はさっきの事を考える。


 話の展開に良くわからない部分はあったけど、俺を巡って翡翠とアリシアが揉めたという認識で間違いないだろう。


 アリシアのことが好きだけど、幼馴染である翡翠とも仲良くしたいっていうのは間違っているのだろうか……

 同性になった今なら気楽に付き合えるようになるのかと思ったら、そうはならないのだから、世の中はままならない。


『……アリシア、大丈夫?』


『……ごめんなさい、イクトさん。わたしの態度で翡翠さんの機嫌を損ねてしまったようです』


『俺に謝る事なんてないよ。それにしても、翡翠はなんであそこまで怒ったんだろう……?』


 翡翠があそこまで直接的に攻撃的な言葉をぶつけてくるのは珍しいことだ。


『ヒスイさんの気持ちわかる気がします……わたしはイクトさんに甘えて我儘ばかり言ってますから』


『そんなこと無いと思うぞ。むしろ俺がアリシアに助けられてばかりじゃないか……俺から翡翠に何か言っておこうか?』


『イクトさんは何もしないで下さい。彼女はイクトさんが居る場にも関わらずわたしに直接語りかけてくれました。だから、答えはわたしが伝えないといけないんです』


『わかった。けど、困ったら頼ってくれよ。俺はアリシアの、こ、恋人なんだから……』


『はい。ありがとうございます、イクトさん』


 少し体が冷えてしまったので俺はもう一回湯船に入り直した。それから髪を洗ってお風呂を出る。


 ゆっくり時間を掛けた為、脱衣所に翡翠の姿は無かった。俺は体を拭き上げて下着を身につける。

 脱衣所の籠に備え付けの浴衣が用意されているのを見つけて、俺はそれを着てみることにした。だけど、羽織ってみただけで明らかにぶかぶかで、とてもじゃないけど着られるものじゃない。

 諦めて隣の子供用の浴衣を手にとってみる。きんぎょのイラストが並んだそれは、これぞお子様向けといった感じのかわいいデザインの浴衣だった。

 少し悩んで俺は子供向けの浴衣に袖を通した。やっぱり温泉では浴衣で過ごしたい。それに、部屋から出ないから誰に見られる訳でもないし。


 着替え終わって部屋に戻ると、奥の部屋に翡翠が涼し気な表情で座っていた。こちらに気づくと微笑んで立ち上がる。

 浴衣姿の彼女は髪を降ろしていていることも兼ね合って、なんとも言えない色気がある。


「浴衣似合ってるわよアリス、可愛いわ」


「これしかサイズが合わなかったから、仕方なく着てるだけだから……正直、浴衣にはあまり触れないでいてくれると助かる」


「あら、そうなのね、ごめんなさい」


『ヒスイさん』


『どうしたのアリシア?』


 アリシアの声をきっかけに、俺に向けられている翡翠の目が突然細められた。見ている先は変わらないのに、俺を見るときと全く異なる冷たい視線を向けられて、背筋が凍る思いがする。


『ヒスイさんの、さっきのご質問にお答えします』


『聞かせて貰えるかしら』


『わたしはイクトさんが好きです。イクトさんもわたしの事を好きだと言ってくれています。ですが、わたしのようは普通の人とは異なります』


 アリシアは言葉を続ける。


『ヒスイさんはさっき私が同じ土俵に立っていないと仰りました。正しくその通りだと思います。私はイクトさんと共に歩む事が出来ません。キスすることも抱きしめることも叶わないのですから』


 淡々と語られるアリシアの言葉は、様々な感情が入り混じっていた。俺がアリシアの体になってから、一度も俺に見せた事のなかった彼女の後ろ暗い感情も見え隠れしている。


『わたしは、イクトさんに幸せになって欲しいと思います。いつかイクトさんが共に歩む方を見つけられたときに、わたしの存在が重荷になりたくはありません。もし、イクトさんがわたし以外の方を好きになったなら、わたしは素直に身をひくつもりでいます』


 そのアリシアの返答は俺にとっても衝撃的な内容だった。肉体的な接触は叶わないが、二人の間にはこの一年で培った絆がある。だから、この普通じゃない恋愛でも上手くいくと俺は思ってた。だけど、アリシアはそう思ってはいなかったという事になる。


「アリシア、あなたは本当にそれでいいの?」


『わたしはそれがあるべき姿だと思ってます。と言っても、わたしはイクトさんの気持ちに甘えてばかりなので、偉そうなことは言えませんけど……』


「あなたはどこまで……まあいいわ。アリシアがそういうつもりなら、私は好きにさせて貰うことにするから」


 翡翠は俺を見て微笑んだ。その視線に何故だかゾクっとするものを感じて背中を緊張させる。


「そろそろ夕飯の時間ね。みんなでご飯を楽しみましょう?」



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