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異世界から戻った俺は銀髪巫女になっていた  作者: 瀬戸こうへい
第三章 幼馴染の少女

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文化祭初日(大会その4)

 運命を決めるカードを引いた翡翠は静かにカードを確認して目を瞑る。固唾を飲む観戦者達。


 翡翠は暫し考えてターン終了を告げた。


 返す田辺プロのターン。カードを引いた田辺プロは考えを巡らして、翡翠が引いたカードが何かを考え、リスクの計算を行う。

 やがて配下の軍勢全部で攻撃することを告げた。


「負け……ました……」


 カードを取り落とす翡翠。それはマナを出す以外に何の効果も及ぼさない土壌で、翡翠は勝ちに至るカードを引けていなかった。

 それでも、田辺プロが何かを警戒して全軍突撃を躊躇ったらもう1ターン猶予が出来る可能性も残っていた為、最後まで精一杯のブラフを張っていたのだ。

 ……だが、それが通じるような相手ではなかった。


 翡翠の頬に一筋涙が流れ落ちる。


「……ありがとうございました」


 翡翠は、なんとかそれだけ言うと、顔を抑えて立ち上がり会場から逃げ出すように飛び出した。


 残された者達が呆気に取られていると、


「アリス、追いかけて!」


 と、優奈の声がして、俺は言われるがままに会場を飛び出して翡翠を追った。

 奥に続く廊下に翡翠のポニーテールが消えていくのが見えた。

 多分向かったのはウィソ部の部室だろう。

 俺は後を追う。


 ドアが開っぱなしの部室の中には、学習机に突っ伏した翡翠が嗚咽をもらしていた。ウェーブの掛かった黒髪のポニーテールが机から垂れ下がっている。


「……翡翠?」


 俺は声を掛けて部室に入る。

 優奈に言われて追いかけてきたものの俺は何を言えばいいのどろう……?


「うぐっ……ひっく……うう……負けちゃったよぉ……」


 翡翠は子供のように泣きじゃくっていた。

 そんな姿は昔を思い出される。小さい頃翡翠はよくこんな風に泣いていた記憶がある。


「仕方ないさ、相手はプロなんだから」


 俺は翡翠の頭に手を置いて撫でる。昔、翡翠をよくこんな風に頭を撫でて慰めていた事を思い出して懐かしさが込み上げてくる。

 いつ頃からだったろうか、俺がこんな風に翡翠を慰めることが無くなったのは……

 頭を撫でているうちに少し落ち着いて来たらしい。翡翠は拗ねたような口調で愚痴を溢す。


「あなたとデート出来ると思って頑張ったのに……私負けちゃった」


 翡翠はうっかり失言した俺がデートで嫌な思いをしないようにって頑張ってくれていたのか……

 申し訳ないような、ありがたいような気持ちで胸がいっぱいになる。


「ありがとね、翡翠……デートだけど、もしよかったら今度一緒にどこか行かない?」


 そんな翡翠に報いたくて俺はそんな提案をしていた。

 伏せった翡翠がぴくりと動く。


「……二人で?」


「翡翠が二人がいいなら、それでいいよ」


「……場所は?」


「何処でもいいよ。翡翠の行きたい所に付き合うからさ」


 商店街でも図書館でも動物園でも構わない。


「……本当!?」


 翡翠はガバッと体を起こして俺に確認してくる。……涙で顔に髪が張り付いていて若干恐い。


「あ、ああ……二言は無いさ」


 俺がそういうと翡翠はにっこりと笑った。

 ……何故か俺はその表情に嫌な予感がして、だけど、そんなはずはないと自分に言い聞かせる。


「そ、それよりも表彰式行かなきゃ! みんな待ってると思うよ!」


 そろそろ外部開放の時間が終わる。急いで表彰式をしないとそれまでに大会が終わらない危険性がある。


「そうね」


 翡翠はハンカチを取り出して涙を拭いて、乱れてしまった髪を整えると俺に向き直って微笑んだ。

 すっきりとしたいい笑顔だった。


 ……うん。もう、大丈夫みたいだ。


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