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文化祭初日(大会その1)

『終わり次第急いで来てくれ』


 という蒼汰のメッセージがスマホに入っているのに気がついたのは接客当番が終わった後の事だった。

 俺と優奈は制服に着替えて、ウィソ大会の会場として予定されている旧校舎の一室に向かった。その教室は普段手芸部が使っている部室で、今回トーナメントを開く際に広い教室が必要になった為に使わせてもらう手筈となっていた。

 我がウィソ部は旧校舎にある文化系マイナー部との関係は基本的に良好だ。

 なんでも、エアコンの無かった旧校舎の教室に理事長の孫である涼花が交渉してエアコンを備え付けさせた事が大いに感謝されているらしい。


 学園祭は外部の人間の出入りが許可されている。その為、学生じゃない人も校内では多く見かけるのだが、旧校舎のその光景は明らかに異常だった。


「……なによ、これ」


 廊下にはウィソプレイヤーと思わしき人物がたむろしており、その密度は会場に近づくにつれ増していった。

 ちなみにほぼ全員が男性だった。


 俺が周囲からやたらと注目されてると感じるのは気のせいではないだろう。


 ……デート権の相手が俺ってことが一般の人達に知られている?


 脳裏によぎるのは先程メイド喫茶で男性に問われたことだった。

 蒼汰を問いつめなければ。


 俺達は会場の教室に入る。

 普通よりやや大きめの教室は人で溢れていて、凄まじい熱気に包まれていた。

 エアコンはついてはいるだろうがす明らかに容量が足りてない。俺は帰りたくなる衝動を抑えて中に踏み入る。

 教卓にあたる部分にテーブルで受付と作業スペースが作られていて、蒼汰と涼花、そして知らない人が何人かその内側に居た。


「……蒼汰、これはいったい……?」


 取り敢えず俺達は作業スペースの中に入って受付をしている蒼汰に話しかける。


「やっと来たか……見ての通りの惨状だ。頼む、交代して貰えないか」


「いいけど、後で事情を聞かせてよね」


「わかった。俺は今から追加で会場として使わせて貰える教室が無いか聞いてくる。受付の方法は安藤さんに聞いてくれ」


 知らない名前を聞いて首を傾げると、背後に立っていた執事服の人が物影から現れて優雅に一礼した。


「はじめまして如月様、私は橋本家の執事で安藤鈴音と申します。涼花お嬢様にお仕えしております、今後お見知り置き下さいませ」


「は、はい。如月アリスです。よろしくお願いします」


 安藤さんと名乗った執事はまだ若い女性で、とてもキリッとした男装の麗人だった。

 うだるような暑さの室内できっちりと着こなして涼しげな態度でいられるのはすごいと思う。


「今回参加費は徴収しておりませんので、受付はこちらの名簿に名前を記入いただいたので構いません。ですから、受付の仕事はプレイヤーの皆様の問い合わせにお答えすることが主になります」


「わかりました……ちなみに、今参加受付しているのは何名になってるんでしょう?」


「現在94名のプレイヤーが参加登録されていますね」


「きゅ、きゅうじゅうよにん……? どうしてそんなことに……」


 この地方で開かれる下手な選手権よりも多い。しかも名簿を見ているとその中にプロツアーの中継でしか見たことの無い殿堂プロやらトッププロやらの名前が混じっている、なにこれ恐い。


「神代様が参加者を募集しようとSNSで告知されたのですが、高校の文化祭という珍しさとデート権や私の用意した賞品が噂を呼び、思ったよりも反響を呼んだみたいでして……」


 該当の告知文は確かに見た。結構告知文が引用されてるなーとは思ってたけど、こんな事態になっていたとは……。

 しかし、安藤さんが用意したという賞品は本当に豪華になっているから参加者が多いのも納得出来る。


「しかし、どうしてデート権の相手が私ってばれてるんだろう? 告知文には部員としか書かれてなかったと思うんだけど……」


「今は削除されていますが、神代様のSNSでの過去の発言に何枚か部活動の際の画像が添付されておりまして、その写真が掲示板に転載されて、如月様がデート権の相手であると特定されたようです」


 うへ……蒼汰の野郎、なんてことしてくれやがる。後で絶対に埋め合わせをしてもらおう。


「すみません、受付はどうすればいいのですか?」


 受付に来た男の人が声を掛けてきた。


「はい、こちらにお名前をご記入いただければ結構ですよー」


「そちらの賞品リストに出ているデート権の相手ってあなたですか? 内容はどんなものになるのでしょうか?」


「明日2時間ほど一緒に学園祭見て回るくらいです。……大したことのないネタ枠の賞品なので、あまり期待しないで下さいね」


「すごく可愛いですね! 服装の指定は出来ますか? さっきのメイド服とか……」


「ごめんなさい、制服で勘弁して下さい」


「連絡先は教えて貰えますか?」


「賞品としては考えてないです。デート次第で連絡先の交換はするかもしれませんのでよろしくお願いします」


「他に何か特典はありませんか! 祝福のキスとか! お願いします!」


 ……うーん。キスかぁ。

 某有名アイドルも料理対決で勝った人の頬にしてた気がするから、それくらいはありかなぁ……


 質問に答えながら思ったのだけど、ネタにしてもこの賞品何が嬉しいのかわからないな。

 他の賞品が豪華な分、随分見劣りする気がする。このままだと、最後まで残り続ける残念な結果になりかねない。


 冷静に考えたら別に残っても問題ないし、期待に応える義務なんて無い。だけど、文化祭という非日常で、教室に溢れかえる人の熱気に俺はのぼせてしまっていたのだと思う。


「……それじゃあ、ほっぺたにならいいです」


 俺がそう応えると、会場が一瞬固まって、その後爆発するような歓声が広がった。


「うおおおおおおお!?」


「ま、マジっすかぁ!?」


 それは、直ぐに教室全体に広がっていって、思ったより大きい反応に俺は戸惑う。


「あなたねぇ、そんな事を安請け合いするんじゃないわよ……もう、知らないわよ」


 ……最近優奈がため息ついてばかりな気がするけど、気のせいかな?

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