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異世界から戻った俺は銀髪巫女になっていた  作者: 瀬戸こうへい
第二章 アリスとしての日常

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橋本涼花(その3)

「……ごめんなさい、アリスさん。わたくし取り乱してしまいまして」


 ……良かった。涼花は話の出来る状態のようだ。


 俺はそのまま涼花の言葉を待つ。

 午前中晴れていた空はどんよりと曇りはじめており、いつ雨が降り始めてもおかしくない様子だった。

 コンクリートの放射熱で屋上は蒸し暑く、汗が染みだしてくる。下着が湿り肌に張り付く嫌な感触がする。


「……蒼汰さんと初めて出会ったのは、噂によってわたくしが精神的に追い詰められていたときのことでした」


 涼花は俺に背中を向けたまま、ぽつりぽつりと話し出す。


「噂が広がってわたくしの日常は暗澹あんたんとしたものに変わりました。わたくしのせいで如月さんは亡くなった、如月さんがかわいそう……そのような声が周囲でささやかれるようになり、わたくしには誰も近づかなくなりました。それから、わたくしは他人の視線に今まで以上に怯えるようになり、誰かが話をしていると自分を糾弾している風に見えてきて、日々心をやつれさせていきました……」


 もしかしたら、最初から悪意があって作られた状況なのかもしれない。元々周囲から浮いていた彼女は迫害されやすい状況にあっただろうことは想像に難くない。


「そんなとき、わたくしの前に現れたのが蒼汰さんでした。彼は如月さんの噂を聞いて、真実を教えて欲しいとわたくしに尋ねられました」


 突然修学旅行のフェリーから居なくなった幼馴染、その事故に何かしら理由があったとしたら……もし、俺が蒼汰と逆の立場なら同じ事をしていただろう。


「その頃のわたくしは、他人から責め続けられたこともあり、本当に自分が原因で如月さんを死なせてしまったと思うようになってしまっておりました。ですからわたくしは蒼汰さんに対してひたすら謝罪をすることしかできませんでした」


 ……あいつ図体でかいし目つきも悪いから、初対面の人には怖い人と良く勘違いされる。只でさえ人が苦手だったという涼花が蒼汰に迫られたのだから、随分と恐ろしかったに違いない。


「そんなわたくしに蒼汰さんはやさしく諭すように話をして下さいました。告白を拒絶したことが原因で如月さんが行方不明になったのだとしても、それは如月さん自身の責任で、わたくしが気に病むことはない。だから、そんなに泣かないで欲しい、と。泣きじゃくるわたくしに、何度も、何度も、言い聞かせてくださいましたの……」


 それが、彼女にとって大切な言葉なのだろうことは、彼女が一言一言(いつく)しむように言われた台詞を紡いでいく様子からも窺い知る事ができた。


「それだけじゃありませんわ。わたくしの父に恨みをもつ方が、不良グループに依頼してわたくしを誘拐しようとした事件がありました。そのとき偶然居合わせた蒼汰さんによって、わたくしは悪漢から守られましたの」


 不良グループを壊滅させたっていう話はここからか。

 しかし、こう聞くとギャルゲーの主人公みたいだな、蒼汰。


「今のわたくしのこの姿だってそうですわ。蒼汰さんがわたくしは顔を出して毅然きぜんとしている方が良いと言っていただけましたから、わたくしは髪をふたつに分けて上げて、伊達眼鏡を外し、胸を張って登校するようにしましたの。そうしたら周りがわたくしを見る目も変わって、わたくしは自分に自信が持てるようになりましたの」


「私も今の涼花先輩は素敵だと思うよ」


 これは素直に蒼汰ぐっじょぶだと思う。今の涼花は生き生きしていて見ていて楽しいのだ。


「ありがとう存じます。アリスさんも、とても素敵でしてよ。とにかく、それ以外にも蒼汰さんには数えられないほどの恩がございます。……ですが、わたくしは恩を仇で返すような事をしてしまいました」


 涼花はこちらに向き直る。

 だけど、その視線は俺を見てはいなかった。

 視線を追うように俺が振り向くと、屋上に出るドアのところにいつの間にか蒼汰が立っていた。


「……蒼汰」


「……よぉ」

 

 首の後ろに手をあてた蒼汰が、居心地の悪そうな表情で挨拶をする。


「如月幾人さんがわたくしに告白したという事実はございません。それは、わたくしがついた嘘です」


「……そうか、幾人は悩んだり苦しんでたりしてはいなかったんだな」


 涼花が告げた事実に蒼汰は驚いた様子はなく、ただ納得している様子だった。


「わたくしの嘘で蒼汰さんに辛い思いをさせてしまい、申し訳ございませんでした」


「俺は嘘をつかれたなんて思ってないよ。だから、涼花は気にしないでいい」


「でも! 蒼汰さんはその事で思い悩んでいたと聞いています。それはわたくしの嘘のせいですわ!」


「違うよ。本当は俺だってわかってたはずなんだ……幾人の死に理由なんてない、ただの事故なんだって。だけど、俺はそれを認める事ができなくて、何か理由があったはずだって、何か出来たはずなんだって……そう思いたくて俺は涼花の話を受け入れていたんだ。現に同じ話を聞いた翡翠も優奈も涼花の言うことを信じたりしなかった」


 ……そう言われてみればそうだったな。


「幾人の葬式のとき、アリスに言われて俺はそのことに気付かされた。今まで俺が幾人のことを思ってした謝罪や後悔はただの現実逃避の自己満足でしかなかったんだって……」


「蒼汰……」


 感情的になって怒らせてしまったと思っていたが、気持ちはちゃんと蒼汰に通じていたと思うと少し胸が熱く感じる。


「でもこれでようやく割り切ることか出来そうだ。そう考えると俺は涼花のことを利用していたことになるのかもしれないな……すまなかった」


「!! そんなこと、ないですわ! 謝られることなんてなんにも!」


「だったら、俺も謝られることはないよ。感謝の気持ちがあるなら何かしらお礼を貰おうかな……そうだな、おっぱい揉ませて貰うとか」


 ……な、何を言い出すんだこいつ?


「……蒼汰さんがお望みなら、わたくしは構いませんわ」


 涼花は蒼汰の台詞に顔を赤らめて視線をそらしながら答える。


「……あれ? そこは「何を言ってるの、最低!」とか言って断られる流れじゃ……」


 お前フラグ管理がばがばだろ。涼花は端から見ても好感度マックスだからな!?


「わたくし蒼汰さんが望むならどのようなことでも応える覚悟はしてましてよ? それだけの恩を蒼汰さんには受けたと思っておりますわ」


 そう言い切る涼花に逆にどぎまぎしてしまう俺と蒼汰。


「……アリス、俺はどうすればいいんだ、これ?」


「……せっかくだし揉ませてもらったらいいんじゃないかな。私、先に部室に帰ってるから」


「ちょ、ちょっと!? こんな雰囲気で俺を残していかないでくれよ!」


 こんな雰囲気にした元凶が何を言う。


 ……けど、正直言うと俺も揉んでみたいな。

 自分のは触ったことはあるけれど、その……大きさが、な?


『……イクトさん、今、何か大変失礼なことを考えていませんでしたか?』


 何でもないです、ごめんなさい。


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