決闘の後に
「……ふぅ」
一戦終えて俺は一息付く。
「すごい! すごいですわ! 素晴らしいですわ!」
すっかり興奮した様子の橋本さんが俺に飛び付いてきた。
俺の頭はその豊満な胸に抱え込まれてしまいその柔らかさとボリュームに圧倒されつつ香水のいい匂いがしてクラクラと振り回される度にゆさゆさと揺れるものが息苦しくて……って、息ができな……。
「橋本さん……く、苦しい……」
「あら、ごめんあそばせ」
俺の様子に気づいた橋本さんは、ぱっと頭を離す。
あの胸……いろんな意味で殺人的だ。危うく天国に連れていかれるところだった。あの柔らかさ……。
余韻に浸ってるとふいにアリシアの声がした。
『……幾人さん、後でお話いいですか?』
……い、今のは不可抗力だと思うのですが、アリシアさん?
と世の理不尽を呪う俺に、冷静さを取り戻した橋本さんが声を掛けてくる。
「取り乱してしまい申し訳ございません、今まで蒼汰さんの土壌が手札に来なかったときくらいしか勝ったことがなかったもので、つい……」
プレイしてたときも思ったけど、初心者相手にほんとなにやってるんだ蒼汰は……。橋本さんも良くそんな状況でウィソを続けようと思ったな。
「……あの、如月さんそのウィソの腕を見込んでお願いがあるのですが……」
橋本さんは真剣な表情で俺に向き直る。
「わたくしにウィソを教えては頂けませんでしょうか」
そういえば、蒼汰とやっていた理由も強くなりたいだっけ。
何故かは知らないけど、そのひたむきな姿勢には応えたくなる。 蒼汰自身もあれであいつなりに真剣に橋本さんに向き合った結果なのだろう。
「執事に相談して家庭教師の講師扱いで時給を出すことも出来ます。カードも準備させていたただきますわ」
「……いいですよ、そんなの。私で良ければ教えますから、そのかわり私と友達になって貰えませんか?」
「……ええ! よろしくお願いしますわ、如月さん」
「アリスでいいですよ、私も涼花先輩って呼びますから……後、敬語崩してもいいですか?」
「構いませんわよアリスさん! ……わたくしは誰に対してもこの口調ですからお気にならさず」
涼花先輩と友達になったところで、蒼汰が声を掛けて来る。
「……俺だって先輩なんだけどな。この扱いの差はなんなのさ」
「初心者をコントロールデッキでふるぼっこするような蒼汰に敬意は表せないかなぁ……」
「う……まあいいさ。それよりアリス、お前なかなかやるじゃないか」
「……ご期待には応えられたみたいだね」
「期待以上だったよ……もしかして、アリスって幾人にウィソ習ってたのか?」
「……え、えっと……どうしてそう思うの?」
「プレイするときの感じとかプレイスタイルとかそっくりだったからな。それにここ一番ってときにデッキトップをノックする願掛けとか幾人の生き写しかと思ったぞ」
本人だからね。と言う訳にもいかず、
「蒼汰の言う通り、幾人義兄さんは私のウィソの師匠だよ」
アリスに変な設定が追加されることになった。
「アリスさん、あなたは如月幾人さんの御家族だったのですか……?」
そう言った涼花先輩は何故か顔が青ざめているような気がした。
涼花先輩は幾人のこと知ってるのだろうか? 同級生だったから知っててもおかしくはないのだろうけど。
少なくとも俺は涼花先輩――頭の中では涼花でいいか元同級生だし――のことを知らない。
「はい。義理の妹になります」
「……そうですか。すみません……わたくしは……」
そう言ったっきり、涼花は顔を伏せて黙り混んでしまう。
どうしたものかと思っていると蒼汰がフォローしてきた。
「アリス、明日の放課後こいつにウィソ教えてやってくれないか。涼花、話はそのときに、な」
「私は大丈夫だよ」
「わたくしも大丈夫です……蒼汰さん、ありがとうございます……」
そんなこんながあって、今日は解散となった。
家に帰ってから優奈に今日あったことを話すと、「アリス……あなた、なにやってるの」と、案の定呆れられた。
それから、アリシアは夕食の席で俺が涼花の胸に挟まれてだらしない顔をしていたと母さんと優奈の前でさらっと暴露し、俺はいたたまれない気持ちになった。
……明日は昼休みに図書室に行こうかな、なんとなく。




