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異世界から戻った俺は銀髪巫女になっていた  作者: 瀬戸こうへい
第二章 アリスとしての日常
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Wizard's Soil (turn 01)

 翌日の放課後、俺は一人で旧校舎の廊下を歩いていた。


「この先で良いんだよね」


 俺は手にしたプリントで教室の位置を確認する。


 俺がここに来たのは理由がある。

 部活動紹介のプリントを半分冷やかしで見ていたら、昨年は無かった同好会があって、それに興味を引かれたからだ。

 その名は『Wizard's Soil同好会』というものだ。

 Wizard's Soil(通称ウィソ)とは世界中でプレイされている有名なトレーディングカードゲームで俺達は中学生の頃にはまっていた。受験で一旦中断していたが、高校生になったらまたやりたいという話を蒼汰としていた。幾人として入学したとき、高校の部活動にウィソ部が無いかと思い探したが、見つけられなくて少し残念に思っていたことがある。

 だから、いつの間にかできていた同好会に興味を持ち、その会室があるという旧校舎に足を踏み入れたのだった。

 今日は優奈とは別行動だ。優奈はウィソに興味を持たなかったし、今になって男子が遊ぶようなカードをやりたがってると言ったら呆れられるに違いないからだ。

 それに、


「……優奈も少しは妹離れしないとね」


 俺がアリスになってからの優奈は、俺を守ろうといろいろ手を尽くしてくれた。だけど、アリスの中身は兄だった俺だ。自分のことは自分でできるので、無理に付き添ってもらったりしてもらわなくても大丈夫だ。

 その教室は旧校舎の中でも奥まったところにあった。歴史を感じる引戸には黒マジックで『Wizard's Soil同好会』と書かれた画用紙が貼られている。


「こんにちはー」


 挨拶をしながらドアを開ける。中は六畳ほどの板間になっていて、中では一組の男女がゲームをプレイしていた。


 俺の存在に気がついた二人はゲームの手を止めてこちらに顔を向ける。


「……お前、俺のストーカーだったりしないよな?」


 開口一番、嫌そうにそう言ったのは蒼汰だった。


「藪から棒に失礼な、なんで私がそんなことをしないといけないのさ」


「普通の女子が来るような場所じゃないからな、ここは」


 何気に対戦相手の女生徒に失礼だよね、その台詞。


「それで、俺に何か用か?」


「別に蒼汰に用事は無いけど、ウィソしてるんでしょ? 見てもいい?」


「お前……ウィソするのか?」


「昔やってたんだ。それで、同好会があるって聞いたから気になって来てみたの」


「お前って本当に変わってんなぁ……」


「”お前”はやめてってば……アリスだって言ってるでしょ」


「へいへい、わかったよアリス」


「あの……蒼汰さん、こちらの方は?」


 蒼汰とゲームをプレイしていた女生徒が怪訝そうに問いかけている。華やかな飾りの付いた巻きツインテールに目鼻立ちがくっきりとした顔でお嬢様といった表現がびったりと当てはまるような容姿をしている。

 それに、スタイルも抜群で起伏が激しく、特にブレザーとワイシャツの下で自己主張の激しい胸部は思わず視線を奪われてしまう。胸元には二年生であることを示す赤いリボンがついていた。


『なんですか、これ……チートじゃないですか。スタイルチートですよ、こんなの!?』


 と、アリシアが訳のわからないことを呟いてた。アリシアは随分言動がアニメに毒されてきた気がする。

 とりあえず、挨拶しないと失礼だよな。


「一年の如月アリスです。蒼汰……先輩とはうちの姉が幼馴染みで、仲良くしていただいてます」


「わたくしは橋本涼花はしもとりょうかと申しますの。蒼汰さんとふたりでウィソ同好会をやっていますわ。お見知りおきくださいませ」


 ……コメントに困る。外見は特徴的だったが、中身も負けず劣らずのようだ。


「それで、俺がこの同好会の会長をやっている蒼汰だ。と言っても、会員は今のところ二人しか居ないけどな。それじゃあゲームを再開すっか」


「は、はいっ!」


 二人の視線がゲームの盤面と手札に戻る。

 俺はテーブルの横に立ってプレイを観戦する。

 生物クリーチャーとライフで有利なのは橋本さんの方だった。現在は橋本さんのターンでこの攻撃が決まれば橋本さんの勝ちが決まるみたいだ。


「今度こそわたくしの勝ちでしてよ。私は『飢えた狼』と『筋肉熊』で攻撃しますわ!」


「攻撃前に『意気消沈』をプレイ、その2体は消耗してこのターン攻撃できなくなり、俺はカードを一枚引く」


「くっ……ターンエンドですわ!」


「それじゃあ俺のターン、カードを引いて……ターンエンド」


「わたくしのターン! ドロー、復活した2体の生物で攻撃!」


「呪文をプレイ『狩人の罠』、攻撃クリーチャー2体を破壊する」


「くっ……では戦闘後に『いにしえのワーム』を召喚しますわ」


「『召喚の否定』で打ち消し」


「……ターンエンドですわ」


 橋本さんはちょっと涙目になってる……えぐい。ライフでは圧倒的に橋本さんが有利だが、手札枚数は蒼汰が多く、場の生物も居なくなってしまった。


「俺のターン、ドロー。守護天使を召喚してターンエンド」


「わたくしのターン、ドロー……引きましたわ! 我が召喚に応え、とこしえより来たれ破壊の王『真紅の(ヴァーミリオン)古代龍エンシェントドラゴンアルゲランテ』!!!」


『このゲームなんだかかっこいいですね!』


 ……いや、多分こういう遊び方をするゲームではないぞ、アリシア。


「じゃあ、俺のターン、ドロー。『隷属魔法』をプレイ、アルゲランテのコントロールを貰うな」


「ああああ、わたくしのアルゲランテ……」


 橋本さんはすっかり涙目である。なんだか気の毒になってきた。


「それじゃあ、守護天使で攻撃」


 守護天使は攻撃で与えたダメージだけ主のライフを回復させる能力持ちだ。この攻撃で蒼汰のライフが回復してしまい蒼汰のライフは安全圏へと離脱してしまった。


「わたくしのターン、ドロー! ……『刃のワイバーン』を召喚しますの」


「『存在の否定』で打ち消し」


 蒼汰は時間稼ぎすら赦さずに橋本さんの抵抗を封殺する。


「……ターンエンドですわ」


 次のターン、守護天使と彼女から寝返ったアルゲランテによって彼女のライフは無くなってしまった。

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