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お買い物(その3)

「ど、どうかしましたか……?」


 俺の名前を呟いた蒼汰に俺は声を掛ける。


「……いや、俺の親友がいつも君と同じ注文をしてたのを思い出しちゃってさ」


「そ、そうですか……」


 よかった、バレたわけじゃなかったみたいだ。流石にハンバーガーの注文の仕方だけで俺が幾人だってバレるはずもないか。


「どんな、お友達なんですか?」


 それは俺にとって軽い質問だった。いつか正体を明かした後でからかうネタになるかな、くらいの。

 俺は思い違いをしていた。


「幼馴染で親友……だった。俺はあの日までそう思ってた。けど、俺はあいつの悩みに最後まで気づいてやれなくて……糞、何が親友だ」


 だから、顔を歪めて心底悔しそうに言葉をこぼす蒼汰の姿に俺は言葉を失った。


「……へ?」


 ……いやいや、何でそうなるの?

 おかしいでしょ。俺、別に悩みは無かったよ!?

 たしかに、どうやったら女の子にモテるだろうとか男子高校生にありがちな悩みはあったけど、そんなことはお前とさんざん語り合ってたじゃないか。


「いきなりこんなこと言われても困るよな……すまなかった」


 そう言うと、蒼汰は列から外れていく。


 おい、ハンバーガー頼まなくていいのかよ……


 俺は蒼汰の背中に手を伸ばしかけて、そのまま手を宙にさまよわせて下ろす。


『イクトさん……』


 俺は徹底的に思い違いをしていた。

 蒼汰にとって俺は1年前にフェリーから落ちて行方不明――常識で考えたら既に亡くなっている相手だったのだ。


 注文した商品を受け取った俺は、テンションが上がらないまま座席に戻る。

 座席では既に優奈が一人座っていてラーメンを食べていた。


「遅かったね……何かあった? 大丈夫?」


 優奈は俺の様子に気づいて、心配してくれた。

 俺は念話に切り替えて応える。


『……蒼汰に会った』


蒼兄そうにいに……』


『なあ、優奈。俺って世間的には死んでるって思われていたんだな』


『……そうだね』


 考えれば当たり前のことだった。フェリーから落ちて1年以上行方不明で生きてると思う方が不思議だ。


『あいつは俺の死で何かを後悔してるようだった。去年の事故は俺のただの不注意だったのに……優奈は何か知ってるか?』


『蒼兄が悔やんでるとなるとあれかな。去年、お兄ちゃんが居なくなって二ヶ月くらい過ぎたころ、学校でとある噂が出回ったの。お兄ちゃんはクラスメイトの女子が好きで修学旅行の最中に告白したけど玉砕して、それを苦に身投げしたっていう……』


『んな、アホな。何でそんな根も葉もない噂が……』


『告白された女子が名乗り出たの。私がもしあの時に告白を受けていたらって……懺悔しながら』


 全く身に覚えのない話だった。


『その子は大分参ってたみたいで、蒼兄はその子を随分と心配してたみたい。今ではその子は蒼兄と半ば公認カップルみたいになってるわ……今にして思えば、その子が蒼兄と仲良くなるための策略だったのかなぁ、とも思うけどよくはわからないわ』


『なるほど……』


 それならさっきの態度にも納得がいった。

 ちなみに、俺が告白したというクラスメイトの名前を優奈に聞いたけど全く心当たりが無かった。入学して2ヵ月での修学旅行だったのだ。まだ、クラスメイト全員の顔と名前も一致していなかった。


 ……とりあえず、この件については保留することにした。


 俺を利用する行為の是非はさておき、それで彼らが上手く行っているなら俺自身は気にしない。

 しなくていい蒼汰の後悔も、支えてくれる相手がいるならそれほど心配するものではないのかもしれない。


『……お兄ちゃんのお人好し』


 そのことを伝えると優奈はそう返してきた。


『……しかし、お前はその噂を信じてなかったのか?』


『うん、だって、その娘、お兄ちゃんの好みとは全然違ってるんだもん。翡翠姉ひすいねえも信じてなかったみたいだよ』


『なるほど……って、俺の好みって何だよ?』


『少し小柄で一所懸命な女の子でしょ、お兄ちゃんが好きなのって……違う?』


『……違わない』


 なんでそんなことバレてるんだ? 妹怖い。


『アリシアはお兄ちゃんの好みにドンピシャだったみたいね』


『……っ!』


 そんなことは言わんでいいっ!


「と、とりあえず、ご飯にしようぜ。温かいうちに食べないと……」


 考え事をしたのでさらにお腹が空いた。

 ちょうど、母さんもうどんの器を持って戻ってきた。


「おまたせ……あら、先に食べてなかったの?」


「いや、ちょっといろいろあって……」


「まあ、いいわ。いただきましょう」


「「「いただきます」」」


 さあ、気を取り直して……まずはテリヤキバーガーからだ。


『これは……甘辛のソースが濃厚で力強い味わいです。細長い揚げ物も塩っ辛くて後を引く味ですね。どちらも味が濃いから、コーラの爽快さが際立って癖になる味です!』


 アリシアにもジャンクフードの良さを分かってもらえたようで何より。たまに無性に食べたくなるんだよねぇ、この味。

 さあ、残りも一気に食べちまうか。


 ……と意気込んだのも束の間、テリヤキバーガーを1個食べた辺りでお腹が満たされる感覚があり、次のハンバーガーを半分くらい食べたところで気持ち悪くなってきた。


『うぷっ……ちょっと、もう辛いです……』


 アリシアの言うとおり俺のお腹はもう限界のようだった。ハンバーガーが一個半、それからポテトとコーラも半分くらいが残ってしまっていた。


『お兄ちゃん、何でそんなに頼んだのよ……』


 麺を啜りながら優奈。食事中でも気にせず会話できる念話はこういうとき便利だ。


『だって、以前はこれくらい余裕で食べてたから……』


『もう、幾人はもう女の子なんだから……以前と同じ量を食べられるわけないでしょ』


 母さんと優奈は呆れた顔をしている。


『あたしとママで手伝うから、残ったのは持って帰ろうか』


『……すまない、助かる』


 前と同じだけ食べることができない。

 そんなことで変わってしまった自分を実感してしまい、俺は少しため息をついた。

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