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異世界から戻った俺は銀髪巫女になっていた  作者: 瀬戸こうへい
後日談

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11月

「少し冷えますねぇ」


 アリシアは体を小さく身震いさせてそう言った。

 秋も深まったある日の午後、二人で使っている自室でくつろいでいるときのことだ。


「んー、私は平気だけど……」


 俺は宿題をしていた手を止めてそう答える。

 アリシアと俺は元々同じ体のはずなのに、好みや感じ方は違うところも多い。不思議なものだ。


「そうだなぁ……じゃあ、あれを出そうか」


 俺は収納の中に入っている物を思い出した。去年は必要性を感じなかったので使わなかった物だ。


「あれ……ですか?」


 不思議そうにしているアリシアを置いておいて、俺は収納を探るのだった。


 ――しばらくして。


「おおー! これ漫画やアニメで見たことがあります!」


 完成したのはこたつ。


「いつも使っているテーブルにこんな秘密が隠されていたなんて……」


 勉強やお茶するのに使っているローテーブル。

 これは、こたつ布団をかけてコードを繋ぐことで、真の姿であるこたつになるのだ。

 長らくしまわれていたこたつ布団セットには浄化の魔法をかけておいた。

 染色も落ちて白くなってしまったけど、今後のメンテナンスを考えるとこちらの方が良いだろう。


「早速入ってみてもいいですか!?」


「どうぞ、どうぞ」


 スイッチは設置して直ぐに入れておいた。

 アリシアは布団をめくっておずおずと足を差し入れる。


「ふぁぁ……あったかいですぅ……」


 喜んで貰えたみたいで何よりだ。


「じゃあ、私も……」


 アリシアの向かい側のこたつ布団をめくって足を入れる。

 うん……あたたかい。

 ふと、アリシアの方を見るとなんだか不満そうにしていた。


「なんで、遠くに座るんですか」


 隣が開いていると言いたいらしいけど、並んで座るのは流石に狭いと思う。


「いいですよー、それならわたしにも考えがありますから」


 そう言ってアリシアは姿を消した。

 というか、こたつに潜った?


 間もおかず、こたつの中で何かが迫ってくる気配がして、俺は腰の位置を端にずらした。

 やがて、こたつの中からひょっこり銀色の頭が出てきて、俺の隣にもぞもぞ這い出てきた。

 長い髪が荒ぶっていて、ちょっぴりホラーっぽい。


「ぷはっ」


 息苦しかったのだろう、顔を出したアリシアは大きく息を吐く。

 ごそごそ動いて、俺の隣に座り直す。やはり少し狭い。


「……えへへ」


 ぎゅっとくっついてきて、上目遣いで照れ笑いするアリシア。


「……っ」


 俺の彼女かわいすぎか。

 破壊力が大きすぎる。文句のひとつでも言おうと思ってたのが吹き飛んでしまった。


 アリシアの頬に手を当てて顔を近づける。俺の意図を読み取ったアリシアは、顔を上げて目を閉じた。


「ん……」


 唇同士が触れ合った。アリシアの甘い匂いが鼻腔を擽る。

 合わさった唇の隙間から舌を差し出してアリシアの唇をノック。

 こんこん、こんこん、と。そして、閉ざされた扉が開いて――


「やっほーお二人さん! 勉強しに来たよ!」


 部屋の入り口に優奈があらわれた。

 俺は一瞬のうちにアリシアから離れる。


「お、こたつ出したんだね」


 言うが早いかこたつに入ってくる優奈。

 いちゃついていたことは、バレてないようだ。


「アリシアは――寝ちゃってるか。わからないところ、教えて貰おうと思ってたんだけど……」


 俺から離れたアリシアは、横になって寝たふりをしていた。すーすーと寝息を立てている。


「アリスはこれわかる?」


 優奈がこたつ越しに問題集を見せてくる。


「どれどれ……?」


 どうやら数学の問題のようだ。

 内容を確認する。なんとか俺でも答えられそうだ。


「これなら、この定理を使ってやれば……」


「ふむふむ……じゃあ、これは?」


「それは……ひゃい!?」


 変な声が出た。寝たふりをしているアリシアの手がこたつの中にある俺の太ももを撫でてきたからだ。


「……どうしたの、アリス?」


 それを見た優奈が不思議そうに首をかしげる。


「な、なんでもない」


 実のところ、なんでもなくなんてなかった。アリシアの手は太ももを撫でる動きを継続していたので。


「そこは、これをこうしてやれば……」


『アリシア……ダメだって』


 念話でストップをかけるが、アリシアは狸寝入りを続けていて返事がない。

 優奈に聞かれたところを説明する間も、変な声が出ないように我慢するのに必死だった。


『ちょっと……もう』


 寝たふりをしているアリシアは口元が少し笑っていて、明らかにこの状況を楽しんでいた。


 多分本気でやめてと言えばやめてくれるだろう。

 でも、それは負けを認めたことになる。


 いたずらになんかに負けない。

 ……要は耐えればいいのだ。


 俺も宿題を再開することにした。

 時折優奈の質問に答えながら、宿題を進めていく。


「……っ」


「……アリスさっきから辛そうだけど、体調悪かったりする?」


 優奈が勉強の手を止めて心配そうにこちらを見ていた。


「だ、大丈夫だから!」


 優奈は体調を心配してくれているようで、じっとこちらを見ている。


「顔赤いよ? 熱あるんじゃない?」


 そう言って優奈が身を乗り出してきた。

 手を自分の額に当て、もう片方の手をこちらの額に当てる。


「ちょっと熱い……かも?」


 優奈の顔が近い。

 近すぎて視線を逸らすこともできずに、視線をさまよわせた。


「んっ……大丈夫……だから……」


 なんとか平然を装って答えた。

 優奈の瞳に捉えられる。

 じーっと瞳の奥まで覗き込まれているような真剣な表情は、こちらの反応を見逃すまいと観察していた。

 羞恥心と同時に、心配してくれているであろう優奈に、申し訳なくなる。


「……っ」


 永遠のように感じる時間が過ぎて、ようやく優奈が離れてくれた。

 優奈が元の姿勢に戻って勉強を再開したことに、ほっとして胸をなで下ろすのであった。

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