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異世界から戻った俺は銀髪巫女になっていた  作者: 瀬戸こうへい
後日談

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10月

 10月の最終週にある高校の文化祭。

 今日は、その一日目だ。


「アリス、優奈、早く行きましょう!」


 衣替えも終わって冬の訪れを感じる空気の中、アリシアは意に介することなく学校に駆け出そうとしていた。


「……アリシア。文化祭は逃げないよ?」


「一秒でも長く文化祭の空気に触れていたいんです!」


 アリシアにとっては最初で最後の参加となるのだから気持ちはわからないでもない。

 3年生は受験する人が多い関係で自由参加になる。

 そのため、クラスや部活でがっつり関わるのは2年生である今年で最後なのだ。


 もっとも、去年は俺と一緒の体で参加していたので、二回目と言えるのかもしれないけど。


「じゃあ、誰が一番に着くか競争しよう!」


「はいっ!」


「……あたしは歩いていくから、おかまいなく」


 手を振る優奈を置いて、俺たち二人は駆け出した。

 教室に着いたのは僅差でアリシアの勝ち。

 だが、全力で走ったため息切れしてしまい、優奈が登校してくるまで教室で二人とも突っ伏していた。


「……何やってんだか」


 呆れた口調で優奈は言った。

 少し離れた後、戻ってきて机の上に何かを置く。


「今日の売り物の試飲。みんなに配ってるんだって」


 透明のプラコップの中には冷凍のフルーツと炭酸とカルピスを混ぜたドリンク。

 俗に言うフルーツカクテルというやつで、俺たちのクラスで売る模擬店の商品だった。


 ストローに口をつける。

 カルピスにフルーツのフレーバーが混じったほどよい甘さが身に染みる。

 炭酸がすーっと抜けて、頭の中がしゃんとする。


「やっぱり、これ、美味しいねぇ」


 優奈とアリシアは頷く。

 二人も同じようにフルーツカクテルのストローを咥えていた。


「みなさんに喜んでもらえるといいですね」


「そうだねぇ」


 今日と明日でクラスのみんなで交代しながら、これを売る予定となっている。

 なお、今年はコスプレは無しなので安心だ。アリシアのコスプレ姿を見られないのはちょっと残念ではあるけど……


 ともあれ、俺が売り子をするのは明日の予定だ。

 今日は俺が部長を務めているウィソ部主催のカードゲーム大会があるので、そちらがメインとなる。


 最終点検するクラスメイトと別れて、俺たちウィソ部の3人は部室に向かった。


『おはようございまーす』


「おはようございます、みなさま――紅茶、飲まれますか?」


 紅茶の良いにおいが。部室には既に涼花がいて寛いでいた。

 他に今年入った一年生の部員が二人、涼花に紅茶を振る舞われていた。


 俺たちも紅茶をいただきながら、今日の大会の段取りの確認や注意事項を打ち合わせる。

 それから、去年と同じく会場に使わせて貰うことになった手芸部の部室に移動して、テーブルのセッティングや運営本部の設営等、大会の準備をした。


 ウィソはスマホで遊べるデジタルゲーム版が出て、大分敷居が低くなっていた。

 この際に新規プレイヤー、あわよくば部員も増えたなら嬉しいなぁと思う。


 元々は蒼汰が俺を迎える為に始めたウィソ同好会だけど、せっかくなので部として継続していけたら嬉しい。

 なお、初代部長だった蒼汰は3年生の為、翡翠と一緒に引退して受験勉強に専念している。


 文化祭の開始が告げられて、大会の受付が始まる。なぜか、参加者の中に蒼汰がいた。


「……蒼汰、受験勉強はいいの?」


「たまには気分転換も必要だからな」


「うん……まぁ……そんなものかもね?」


 勉強してばかりだと息が詰まる。


「今年も盛況そうでよかった」


「去年みたいなアホな勢いは無いけどね……そういえば、あれって誰かさんがSNSに私たちの写真をアップしてくれたおかげだったっけ?」


「……あの件はスマンかった」


「別に怒ってる訳じゃないけどね……それじゃあ、楽しんで」


「おう!」


 受付に戻ると、翡翠が居て手伝いをしてくれていた。


「お疲れ様、アリス」


「お手伝いありがとう、翡翠」


 翡翠は俺に向かってにっこりと微笑む。


「普段受験勉強で根詰めてるだろうし、無理に手伝わなくてもいいよ?」


「私はアリスの側に居る事が息抜きになるから気にしないで」


「そ、そうなんだ」


「アリスが一緒にデートしてくれるってのなら、別だけど……今年も二人で見て回らない?」


「うーん、それは……」


「アリスはわたしと先約がありますから」


 と、翡翠との間にアリシアが割り込んできた。


「というか、恋人であるわたしの目の前で、アリスをデートに誘おうとしないで下さい」


 アリシアが腕を回して俺に抱きついてくる。


「あらあら、デートくらいで大げさね。あんまり束縛しすぎると窮屈に思って離れちゃうかもしれないわよ?」


 翡翠も口でアリシアを挑発する。


 ……この二人いつも喧嘩してる気がするな。


「そんなことありませんー。アリスはわたしに束縛されるの含めて好きなんですから」


 そう言ってより強く抱きついてくる。


 ……いいにおい。


「って、アリシア。み、みんな見てるから……」


 気がついたら、周りの人たちにめちゃくちゃ見られてた。


「アリスがわたしのだって、見せつけてるんですぅ」


 頬を膨らませて拗ねてるアリシアもかわいい。


 ……でも、どうしたものかな。


 恋愛感情とは別に、せっかくなので翡翠にも文化祭を楽しんで欲しいって思う。

 だけど、翡翠は一緒に回るような友達は居なさそうだ。

 蒼汰は暇そうだけど……多分、翡翠が嫌がるだろう。


「……今日はわたしが先約ですけど、明日だったら、翡翠さんにアリスを貸してあげてもいいです」


「……あら、いいの?」


「アリスはわたしの恋人ですけど……翡翠さんも、わたしの大切な人ですから」


「アリシア……」


「あくまで、アリスが行きたいならですけど……」


「うん、じゃあ、そうさせてもらうよ……ありがとう、アリシア」


「翡翠さんにとっては高校最後の文化祭ですし、今回だけ特別なんですからね!」


「……ふふ、ありがとアリシア」


「その分、今日は二人でいっぱいデートしますからね!」


「わかってるよ」


 そして、大会が開始される。

 ランダムで抽選された組み合わせを発表したり、報告された試合結果をノートパソコンに入力したり。

 その合間に未経験の生徒にウィソの楽しさを布教するための体験会を開催する。

 大会が始まってしまえば、大会運営の方はそこまで人は居なくても大丈夫なので、人員を体験会に回したり、交代で文化祭に行ってもらうことにした。


 なお、俺は部長で責任者なので会場に残っている。

 また、アリシアも俺と回るまで楽しみを取っておきたいからと、一緒に残って大会の手伝いをしてくれた。

 そして、翡翠も同じ理由で会場に残り、空きスペースで参考書を広げて勉強している。


 お昼は外に出た後輩に買い物をお願いして、出店の食べ物を買ってきてもらった。

 焼きそばや甘くないクレープ、そしてカレーライス等。色々と購入してくれていたので、交代しながら食べた。


 そして、トーナメントの4回戦が終わって表彰式。全勝のプレイヤー3名を表彰して賞品を進呈し大会は無事終わった。

 未経験者向けの体験会も盛況だったようで、中には部員になってくれそうな生徒も居たみたいだ。


 大会の後片づけは優奈や後輩達がやってくれると申し出てくれた。

 責任者としてそれは……と思ったが、みんなからはいいからいいからと、二人で会場から追い出された。

 好意に甘えることにして、俺たちは学園祭を回ることにする。


 文化祭のパンフレットを宝の地図にして、校内を巡った。


 脱出ゲームというのをやってみた。

 教室中にちりばめられたヒントを使ってヒントを探して部屋から出る鍵を見つけるというもので、パズルみたいだと思った。アリシアがすらすら回答を見つけていたのは流石だ。


 写真部の展示では、部長になった山崎くんが撮影した私とアリシアの写真が大きく飾られていて、少し恥ずかしかった。

 彼女ができたからか、部長になったからなのか、最近の山崎くんは態度に自信が出てきている気がする。

 展示写真を依頼されたときは、ラブラブな彼女を撮ればいいのにと思ったけれど、写真として撮りたいのは、私たちとのことだった。

 彼女の純も納得していて、むしろ私たちの写真を欲しがっていたらしい。

 まぁ、俺とアリシア二人の写真をいっぱい撮ってもらえたのは素直に嬉しかったけど。

 去年撮ってもらった写真と同様に、今年アリシアと二人で撮った写真は大切な思い出の品となっている。

 俺とアリシアは殆ど同じ容姿なのに、写真に写ってる二人の印象は全然違っていて、どっちがどっちか簡単にわかるのだから不思議だ。


 美味しそうな手作りスィーツを巡った。

 一番印象に残ったのは焼きたてワッフル。

 メープルシロップたっぷりで、サクサクフワフワでめちゃくちゃ美味しかった!

 家でも作ってみたいな。


 相性占いをした。

 二人の相性はばっちり!

 ただ、いろいろすれ違うことが多いかもしれないので、しっかり話し合いましょうーーとのことだ。

 いろいろあったからなぁ……今は何でも話し合ってるから大丈夫だろう。多分。


 他に演劇とか射的とかストラックアウトとか。

 二人で満喫した。


 ところで、私たちの姿はとにかく目立つ。

 あちらこちらで一緒に写真をとお願いされたし、中には無断でカメラを向けてくる不届き者もいた。

 目くじらを立てていたらキリが無いので、いちいち指摘はしないけど、やめて欲しいなぁ……まぁ、半分くらい諦めてるけど。

 だって、俺とアリシアはかわいいし、銀髪だし、同じ顔だし、かわいいので。


 でも、アリシアの一番かわいい表情を見られるのは俺だけだからね、ふふん。


 そんなこんなで初日が終わり。

 家に帰ってもアリシアと今日の思い出とか、明日行きたいところとか、ずっと語り合っていた。


 そして、二日目。

 まずは、アリシアと優奈と一緒にクラスのフルーツカクテルの模擬店の売り子だ。


 この模擬店では、某コーヒーショップみたいに、入れるトッピングをプログラムのように組み合わせて注文することができる。


 フルーツの組み合わせ、ベースは水か炭酸水か飲むヨーグルトか、カルピスの有無や量、ドリンクのサイズ、氷の有無――


 といった感じで、カスタマイズできるのだ。


 オーダーが呪文のようになるので理解するのが大変だ。

 アリシアは完璧に覚えていたが、俺とかはそんな芸当は無理なのでチェック用紙を使ってミスしないように確認している。


 クラスで試行錯誤して選んだオススメの組み合わせもあって、面倒くさい人はその中から選ぶこともできるシステムにもなっていて、こっちで注文する人が大半だった。


 これ、カスタムオーダーは要らなかったんじゃ……?


 まぁ、そんなぐだぐだも模擬店の醍醐味なのかもしれない。楽しかったから良し!


 気のせいかもしれないけど、接客をしていたとき、クラスメイトが応対していたお客さんの中にアリサさんらしき人を見た気がする。


 直ぐに確認したかったけど、忙しくて抜け出すことが出来なかった。


 午後からは翡翠と一緒に行動することになる。アリシアとは文化祭が始まってから初めての別行動である。


「それじゃあ、わたしたちはここで」


「二人とも楽しんできてね」


 部室の前でアリシアと優奈の二人と別れた。二人は一緒に校内を見て回るらしい。


「それじゃあ、どこに行く?」


「私はどこでも」


 ……そういえば、去年もこんな感じだったっけ。


「最初から部室で二人きりで過ごすのでもいいよ?」


「いや、それは流石に……」


 ええと、俺にはアリシアという彼女が居るの分かってるよね……?


「私はアリシアの次でもいいけど?」


「いや、よくないから」


 翡翠との会話はいつも心臓に悪い。アリシアに聞かれていたら、即座にバトルが始まっていただろう。


「じゃあ、普通に楽しみましょ。オススメのところ教えて」


「ええと……焼きたてワッフルが美味しかったかな?」


「じゃあ、そこに行ってみたいわ」


「うん、行こう!」


 なんだかんだで翡翠とも楽しく過ごせた。

 受験勉強の気分転換になったなら幸いだ。


 なお、注意して見ていたけど、アリサさんらしき人は見つけられなかった。


 時間もいい感じになったので、ウィソ部の部室に戻る。

 部室には優奈とアリシアが先に戻っていた。二人は演劇を観たりしたらしい。

 4人で話してると、蒼汰と涼花も部室にやってきた二人で学園祭を回っていたとのこと。


 期せずしてウィソ部の初期メンバーが揃ったことになる。

 当時、アリシアは俺の中に居たけど、彼女も一緒だったことは間違いない。


 こうやって部室で過ごした日々のことを思い出して、なんだか懐かしくなった。


「この場所でこのメンバーが揃うことなんて、もう殆ど無いのだろうなぁ……」


 不意に出た蒼汰の言葉に一同しんみりする。


「お二人の受験が終わったら、このメンバーでどこか旅行に行きませんか?」


 アリシアがそんな提案をした。


「それ、いいね!」


 と優奈。それから他のメンバーからも賛成の言葉が続く。


「どこがいいかな?」


「中学の卒業旅行と同じ温泉旅館とか?」


「いいんじゃないかな」


 ワンパターンではあるけど、ちょっとした旅行気分を味わうのにちょうど良いくらいの距離なのよね。

 親戚価格で安いし。

 卒業旅行だと来春にになるだろうから、ちょうど一年ぶりくらいになるのかな?


「……でも、それだと、俺一人で温泉に入ることにならないか?」


 と、蒼汰。何気に一見ハーレム状態だったりする。

 逆に男が一人なので、肩身が狭いのかもしれない。


「じゃあ、俺が一緒に入ってやろうか?」


 とわざと口調を幾人に戻してからかってみる。


「ダメです!?」「だめよ!?」「ダメですわ!?」「だめだよ!?」


 と、何故か女性陣から一斉に反対の声があがった。


「アリスは女性なんだから、簡単に肌を見せたりとか絶対にダメだからね!」


 と窘められる。

 え、そんなに俺悪いこと言った……?

 蒼汰とは昔から何度も一緒にお風呂入ってる仲だし、久々にどうかなって思っただけなんだけど……


「……というか、私と一緒にお風呂で、みんなは大丈夫なの?」


「わたしは毎日一緒に入ってますから」「あたしもいまさらだし」「わたくしもアリスさんとなら……」「嫌な訳ないでしょ。去年も入ったし」


「ええ……」


 となると、俺は女風呂確定なのか。

 それはそれで、落ち着かない気がするのだけど……


「……ま、一人でゆっくり入る温泉も悪くないか」


 蒼汰は我関せずを決め込むことにしたらしい。

 羨ましい。俺も温泉にゆっくり浸かりたい。


 そんなとき、軽快なBGMを流していた校内放送が止まって、学園祭終了を告げるアナウンスが流れだした。


「……学園祭、終わっちゃいましたね」


「うん……」


「楽しかった」


「私も」「あたしも」「わたくしも」「わたしも」「俺も」


 文化祭という、特別な二日間が終わった。同時に学校生活という日常も、いつまでも続くわけじゃないことを実感させられる。


 ――だからこそ、かけがえのない大切な日々。


 かつて異世界で出会い恋に落ちた最愛の少女。

 部室に差し込む夕陽に照らされたその横顔を見ながら、俺はそう思うのだった。

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